工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

BESSEY ボディクランプ KRE

はじめに

BESSEY〈K ボディクランプ〉を更新しました。36年ぶりですよ。
現在、このBESSEYの ボディクランプ を使っていらっしゃる方はかなり多いのではないでしょうか。

詳しくは分かりませんが、このボディクランプ K というクラシックなタイプから KRE に更新され、かなりの年数を経ているものと思われますが、現在、市場で流通している〈ボデディクランプ KRE〉は2018年以降のもののようです。

それ以前の〈KRE〉は固定ヘッド部分の2本のピン周囲の部分に製造上の問題があり、レールに対する顎のカネ(90度)が崩れてしまう傾向にあったようですが、基本的な機能、性能等は変わらないと考えても良いでしょう。

名称 〈KRE〉について

36年間、私が使ってきたボディクランプは〈K Body clamp〉と呼称されてきたものですが、この〈K Body clamp〉〈Revolution〉という名称を付加させ、その頭文字を取り〈KRE〉としたようです。

さて、この〈Revolution〉なるものが、どのような革新性を指すのかを読み解いていきたいと思いますが、進化の詳細を紹介する前に、この更新に至る経緯を少しくお話しさせていただきます。

起業とほぼ同時期、BESSEYとの出遭い

最初に導入したのは、起業間も無い頃のことです。
地元で木工房を構えておられた、カール・マルムステンOBのM氏が、BESSEYの日本総代理店である大同興業との取引があり、
この先輩を介し、BESSEY Fクランプ(TG20~25) などとともに、このボディクランプを、大小6セットほど取り寄せてもらったのが最初でした(60cm、1m、2m 各2セットづつ)。

このボディクランプという製品の特徴を概観してみます。
既にご存じの方が多いと思いますが、アゴ(Jaw)部分の長さが10cm近くあり、この長い圧締部位を、レールに対し直角を維持しながら、均一に圧締することができるという、当時としては類種のものを製造するところはなく、かなり特異なものであったように思います(現在、欧米では類似の商品がいくつかあるようです)。

クランプと言えば、世界のクラフトマン御用達、と言われるほど呼声の高い BESSEY社ですので、その信頼性は高いものがあり、若い木工屋にとり決して安価なものでは無かったものの、起業時の勢いのママ、奮発したものです。 

なぜ世界に数多あるクランプメーカーの中でBESSEYが信頼を勝ち得てきたのか。
まずは何よりも、鋼材加工への信頼性、さらには鋼材そのものへの信頼性でしょうか。
そこに加え、常に現場の要請に応え、ユーザビリティ高く、快適な使い心地の商品開発に余念が無いメーカーであることで、世界のクラフトマン、現場作業員から信頼を勝ち得、今に至ると言って良いように思います。(BESSEY 総合カタログ PDF:41MB)←💢 重いファイルです

以前、このBlogで、BESSEYコピー商品を気の迷いで買ってしまった結果、トンデモ無い結末を迎えてしまうという赤っ恥の顛末に触れてきましたが、こうしたベーシックな道具においてこそ、コピー製品などに手を出すことの過ちは繰り返さぬよう心したいものです(過去記事「世界のクラフトマン御用達〈BESSEYクランプ〉コピー商品の悲哀」)。

このボディクランプがリリースされた頃から、徐々に木工分野の商品開発も進み、今では多くの木工現場で愛用される様々な圧締関連道具が展開されています。
木工関連のBESSEI商品 2023-2024・カタログ PDF/2.2MB)

中でもこのボデークランプは、木工分野に特化した、ある種 象徴的なものと言えるのかも知れません。

ちょっと横路に

ところで、木工関連のサイトを徘徊しますと、このボデークランプがキャビネットの組み立ての工程で実に多く使われていて,それは目を見開かされるものがあります。

水を差すような話しになりますが、私の組み立ての工程では決してBESSEYボデークランプがメインになることはありません。

例えば、板矧ぎでは専用の自作のクランプを使いますし、キャビネットの横幅、1m以内の組み立てでは、多くの場合、いわゆる〈ハタガネ〉を用います。
うちには2mのBESSEYボディクランプがありますが、それに近い間口の場合は、BESSEYにお出まし願うこともあるものの、組み立て一般には〈ハタガネ〉の方が多いのです。

なぜかと申しますと、使い勝手です。
BESSEYボディクランプはレールの断面が 9t、29mmという焼き入れされた頑固な鋼材を軸としているところから、強力にクランピングができ、信頼性を高めているわけですが、そうした信頼性とトレードオフとの関係から、とても重いです。

一方、強力な圧締を加えたいケースでは、BESSEYボディクランプは締め付けグリップが棒状という構造上の限界から、必ずしも強力な締め付けには向いていません(なお、旧型のK タイプのグリップは木製でしたが、現在のKREは樹脂製です)。

むしろPONYクランプのハンドルの方がはるかに力が加えやすく、使いやすいです。
加え、PONYクランプは水道管を任意にカットすれば良いので、その点もイージーで、しかも安価。

ではなぜ…、どのようなケースでBESSEYを使うのか。
赤く目立つカラーの道具は工房の彩り、などと不埒なことを考え、導入しているわけではありませんよ。

顎(Jaw)の形状における優位性

1つはアゴの形状、機構に独自の優位性があるからです。
40mmほどの厚みのフラットな板状で、例えば、キャビネット、正面の最上部、最下部の棚口、あるいは束部分を上下に圧締するようなケース(下図のような)では、この先端の薄くフラット形状は必須のものとなります。
他のクランプではヘッドの厚み、形状が邪魔し、こうした締め付けでは難がありますが、BESSEY ボディクランプによればクールに締め付けられます。
(画像をお借りしました Sawmill dreekさんより)

BESSEY KRE
束部分の圧締では、BESSEYボディクランプは優位

顎(Jaw)の長さにおける優位性は?

アゴの長さの優位性においても効用は絶大。
ただ、上述のように、小型のキャビネット(いわゆる箱物を指します)の組み立てなどではハタガネなどの方がはるかに使いやすいものです。
カネを調整したりする場合も、圧締ポイントが大きすぎるBESSEYボディクランプより、小さなハタガネの方が使い勝手が良いものですし、またはるかに軽快です。

以前、このBlogでも少し詳しく解説してきましたが、キャビネットなどの組み立ては、当たり前ですが、いかに高精度に組み立てるかが重要です。
経験の浅い木工屋はその辺りの関心は低いのか、とにかくガチガチに組み上げることに関心が向き、正しく高精度に組み立てるための視点が希薄になりがち。

カネと平滑性を常に確認し、正しく、高精度に組み上げるには
クランプの圧締ポイント、およびその締め付け力のバランスがとても大事になります。

少しでも歪んだ状態で圧締してしまうと、例えば、そこに納まってくる抽斗、扉などの仕込みへの影響を与えかねません。
このように圧締のテクニカルな技法を合理的に理解していないと正しく組むことができません。
そうしたところからも、使い勝手の良い〈ハタガネ〉に依存する理由がでてくるのです。

こうした考え方からも、BESSEYボデークランプは、その特徴を良く理解し、このクランプの機能、能力を十全に発揮するケースにおいて、大いに活用したいものです。

さて、圧締一般の話しに拡張してしまっていますが、BESSEYボディクランプ導入後の経緯と、今般の更新について触れていきます。

アゴ(顎)の破断

今回、更新を余儀なくさせたのは、アゴ(Jaw)が破断してしまったからです。
これは導入後、15年ほどして起きてしまったトラブルで、その後、このアゴ(Jaw)の部位だけ、本数分を新規購入し、対応させていました。

旧型のボディクランプの場合、アゴの脱落防止のため、レール端末がかしめられていますので、これをヤスリでゴシゴシと削る必要がありました。
新たなKREタイプでは、レール端末をかしめるのではなく、プラスチックのストッパーに改善されています。

そして、このところ、再び同様の破断が起きてしまった物が多く、再度、アゴ(Jaw)の部位だけを新規購入しようと考えたのです。

このアゴ(Jaw)は、〈K Body Clamp〉の主要部分でもあり、破断してしまうのは決定的な問題だと言わねばなりませんが、この商品をご存じの方にはお判りでしょうが、実はこの主要部分は鋼材では無く、アルミダイキャストで作られており、この素材そのものに破断のリスクが潜んでいたというわけです。

BESSEYクランプで一般に用いられてる鋼材では無く、なぜKボデークランプは破断リスクの高いアルミダイキャストなのか、そこは不明ですが、金工とは異なる、木工における締め付け力の限定的要求からの、固有の素材仕様なのでしょうか。

旧型 Kボディクランプ・部品の供給は絶たれた

さて、今回もクラシカルな私の〈K Body Clamp〉のJawを買い求めようと、日本総代理店にアクセスしたのでしたが、もはや、そのようなものは供給できないとのお告げ。

そこで確認したところ、K型から進化した〈KRE〉と、レールは同一形状、同一寸法である事が分かり、その旨、国内総代理店の営業マンに問い合わせたところ、代替可能かどうかは不明なので、一度 新旧のフィッテング確認に工房に立ち寄らせて欲しいとのことで、来訪され、現物検証させてもらいました。

私の想定通り、まったく問題無く代替できることを確認できたのです。
この種のクランプのレールというのは、基本的で重要な部材ですので、実は手元にある、BESSEY F型クランプの、TG-25 のレールと、全く同一なのです(本ページ Top画像参照)
使い回し、ということになりますが、いえいえ、これはBESSEYクランプの主要機材であり、当然にも同一仕様のものが使われているというところでしょう。

したがって、例えメジャーな改良であったとしても、この部分が改変されることは考えられず、共通するだろうことはネット上に転がっている〈KRE〉の画像と、そのサイズから確信していましたからね。

さてそこで、ドイツから取り寄せてもらうべく、見積を出してもらったのですが、
悪い予感が当たりました。

ご存じのように、パレスチナ vs イスラエル 戦争の影響で欧州からの輸入は紅海は通れず、喜望峰周りを強いられ、
あるいはウクライナ戦争で、ロシア領土の上空は飛べないことなどから、トンデモな輸入コストになっていたりといったファクトがあったり、
無論、これに加え、メチャクチャな円安というファクトもあるわけでして…、

結果、Jawe(アゴ)の見積価格は、国内在庫の Kボデークランプ〈KRE〉の短いものの(30cm〜60cm)価格帯の商品とほぼほぼ変わらぬ価格を提示されてしまったのです。

新規購入することになったKRE

そんな諸般の事情から、今回、1mの〈KRE〉を4本購入し、合わせて、この商品のアタッチメント(後述)等がパッケージされている商品を購入することにしたのです。

これで、36年前に導入し、残念ながら破断してしまったJawe(アゴ)を、この機能が向上した新しい〈KRE〉Jawに取り替えることで、60cmから2mのものまで、さらに40年を越え、稼働し続けることができることになったというわけです。

前述のアルミダイキャストゆえの K型 Jaw の破断のリスクが、この新たな〈KRE〉への進化において果たして改善されているのかどうか、こればかりは今後、使用していった結果がどうであるのか、そこから判定していくしか無いでしょうね。
アルミダイキャストもその組成構造を進化させることで、剛性を高めることもできると考えられますので、そこは密かに期待しているのですがね…。
その種のデータはネット上からは探し出せなかったので、私が検証するしか無いじゃありませんか。(続

hr

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