工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

穴があったら入りたい話し

ドリル刃1ドリル刃2
今日は少しばかり切削工具ドリル刃物の話を。
プロの方にはありふれた情報でしかないことをあらかじめお断りして…。
木工作業でドリルの出番は少なくない。それが無垢の材質であろうとフラッシュであろうと使い道、目的は異なれど様々なところで使われる。
サイズさえ合えば、どんなドリルでもまずは構わないだろう。
しかしプロの職人となると、その材質、タイプなどの選択は慎重にしたいもの。
【材質】
大工さんの使うようなドリルはその多くが工具鋼(炭素鋼)だろう。杉、檜であれば問題なくボーリングできるだろう。
しかし家具屋が一般に使う広葉樹だととても硬いので工具鋼ではすぐにその切削能力が落ちる、つまり切れなくなってしまう。
最低でも高速度鋼(HSS、SKHなど一般にハイスと呼称されるもの)のものにしたい。
良くホームセンターなどで売られている物には工具鋼のものが多いので注意したい。


【木工用】
一般に木工専用のものだと「コバヤシ」などに代表される木工ドリル(ギムネ)というものが良く使われる。サイズは昔は分(ぶ)という尺貫法単位ものが多かったが、最近ではミリ単位に揃っている。(写真11)
これは工具鋼のものが多いと思う。
注意すべきことが1つ。ドリル先端のスクリューは食い込みを良くするためのものだが、ボール盤で使う場合は被加工材が持ち上がってきて危険なので、このネジ山部分はグラインダー、ヤスリなどで、三角錐状△につぶさねばイケナイ。
【金工用】
HSS SKHのものがほとんどで、耐熱性が高く、硬い木でも焼けがきにくい、耐久性が高いなど能力が高い。木工でもこちらを使う方が良い。
ただし、金工用のものはツイストドリル(ねじれドリル)で、切れ刃は鈍角になっている。このままでは木工用としては適切ではない。ここをブラッドポイントに修正してやると、木工用として快適な作業ができる。
初めて試みる人は、市販のものを1本入手して、これを真似て修正すればよいだろう。
自信がなければ研磨屋で加工研磨してもらえるだろう。ここで願い出れば教えを請うこともできるだろうね。
基本は木工用として必須の先端のポイントを出すことと、毛引きの刃を付けることの2点。
ボクはグラインダーでちょこちょことやってしまうが、グラインダーの砥石もそれようの形状のものが売られているので、これを買い求め装填すれば簡単に加工ができる。
写真5.6.9 などは自身で加工したもの。
【木工専用&ブラッドポイント】
日本では入手困難かも知れないが(最近では輸入代理業者も多いのでラクチンに入手できるようになっているかも)、木工専用でブラッドポイントの市販のものがある。鋼はHSS以上のものだから安心して使うことができる。(写真10)
【その他、皿取錐など】
皿取錐も頻繁に使われるものだが、写真4はそうした市販のもの。
木ねじを埋め込んだ上からダボを埋めたい場合も多いと思うが、こうした場合2度の工程で2種の径の穴を穿つのではなく、1度で済ますことができるようにこの皿取錐を使えばよいだろう。ただ市販のものではダボ部分のサイズが合わないだろうから、この部分はダボ寸法より 0.2〜0.5mmほど細いサイズに研削してしまえばよい。
これはプロの職人に任せた方が良いだろうから、ついでに下穴用の方もブラッドピッドに修正し、さらに削り屑排出溝も追加して長くしてもらおう(市販のものはこれが少なすぎ、屑が排出できないので深く開けることができない)。
写真1は4×7.8 、写真2は4,5×9,7 、写真4は4.5×10.0
写真8はある工具屋で見つけたHSSの2段錐(4×8)。金工用だと様々なサイズ、鋼の種類も豊富にあるようだ。ただやはり金工用だと木工に適するサイズのものは少ないかも知れない。
かなりはしょった解説になってしまった。実は他にも同じドリル刃に関わる情報についても触れたいと思うけどあらためてにします。
こうしたテクニカルな情報を断片的に掲載することがどれほどの意味があるか不明だが、もう少し体系的にいかねばと反省しきりなのでありました。
余談を1つ(タイトルに関わる話し)。以前ある訓練校を卒業した若い人で、2枚の板を木ねじで固定するというありふれた工程をやってもらうときのこと。
その下穴の開け方にビックリ。使用する木ねじサイズより径の小さい下穴を開けていた。これでは緊結が困難であることは自明。
下穴という考え方が解っていない、間違って解釈している。
言葉で説明しても納得しないので、実践比較させてやっと理解してもらう。訓練校では一体何を教えているのでしょう。
追記11/18】
鋼についての解説がややあいまいな表現がありました。
■ 「ハイス」と呼称されるのは高速度鋼(high speed steel)を指す一般名称で、HSS と略称されている。
■ SKH という名称はこの高速度鋼をJIS規格で分類分けする際に用いられるJIS記号ということになる。
■ さらに「工具鋼」という名称は「炭素工具鋼」の略称としても用いられるが、高速度鋼を含めた工具に用いられる鋼の総称としても使われているようだ。因みに炭素工具鋼のJIS記号はSK

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  • 初めて書き込みさせていただきます。
    私も家具製作を職業にしている者ですが、こちらのブログの存在を最近知り、過去の分も熟読して勉強させていただいています。
    特に今回のドリル刃に関する記事は知らないことばかりでしたし、ドリル刃ひとつにここまで探求している先輩がいるのだと知ってショックを受けました。
    何も考えずに木工用キリを使っていた自分が恥かしいです。
    木ねじサイズより小さい下穴を開けてしまう人には意味がないかもしれませんが、必死になって情報を吸収したいと思っている我々後輩達にとって、実践と現場から生まれたテクニカル情報には大きな意味があります。
    ぜひこれからも貴重な情報を教えていただけたらと思います。

  • いやぁ、穴があったら入りたい。
    贔屓の引き倒しですがな。上記のように一部追記しなければあかんような記述では底がしれているというものでっせ。
    でもitsukiさんのような若い職人さんに見てもらえるんやったら、張りきらなあきませんな。
    こんなBlogでもログ解析すると大勢見てもらっているようなんやけど、なかなかコメントまではようしてもらえませんのですわ。
    ちょっと文体が硬いせいやろか。もっと柔らこうにいこうと思うてますので、よろしゅうにお願いしておきますわ。
    少し気乗りしてきましたさかい、次はプラピ、いや違うがな、ブラビの拡大写真でもupして見てもらおうかなと考えとるんですわ。

  • ぜひぜひお願いします!

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