工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

成形加工における治具づくり、1つの考え方(補記1)

倣い成形に用いる刃物を紹介しよう。
もちろんこれはうちの機械環境(ピンルーター、および高速面取盤)において、という限定的なものであるが、とりあえずは基本的なものを取り揃えていると考えていただいて結構だろう。

画像の順にいこう。

ルーター刃

倣い切削に用いられるルーターの刃

うちのピンルーター(ルーターマシン)はチャックが1/2インチ、12mm、16mmのつ3のサイズに対応する(もちろんスリーブを介せば 8mm、1/4インチ、6mmなどにも対応)。

倣い切削の場合、できるだけ大きな径のビットが安定的、安全に、かつ良好な切削肌を獲得することができるものだが、ルーターマシンの構造上(回転数を含む)当然にも限界がある。

かつてドイツ製の50φほどのものを購入しようとしたことがあったのだが、メーカーサイドから危険だからと拒否されたことがあった。
ここでの“危険”という注意勧告だが、間違ってはいけない。作業者にとって危険ということではなく、マシンそのものの性能を超える負荷への懸念だ。
もちろんこれは作業者に及ぶことも考えられるので、避けるというのが賢明。

また以前、30φ×50mmの替え刃式ビット(兼房製)を購入したことがあり、ピンルーターに装着して回転させたところ、マシンが異様な振動を起こし使えないということがあった。
1枚刃の替え刃方式という構造上の問題で、重量バランスが良くなかったのだろう。

このビットは引き取ってもらい、代わりに導入したのが画像一番左の短い奴。
30φ× 30というサイズのもの。これも1枚刃ではあるが、重量バランスは悪くなく、十分に使用に耐えられるもので、30mm以下の厚みの倣い成形に頻繁に登場いただいている。

あえて言うまでもないが、替え刃式というのは研磨しないという前提で、外径が変化しない。
倣い成形においては径が変化するというのでは適正には使えない。

次は16φ × 50、軸径が12mmと16mmの2種。
メーカーはLeitzと松岡カッター(ドイツの刃物屋のOEM)。

16φという径をどう評価するかだが、決して使用に耐えられない細さではない。
ボクの親方の木工所では高速面取盤は導入していなかったが、ルーターマシンに15φほどのビットを取り付けて倣い成形するのが基本だった。
もちろん、その径の制約から、仕上がりはそれなりの切削肌ではある。

ただこの論考の中で触れてきたところだが、高速面取盤と異なり、ルーターは数段階に分けて切削ができるので、より安全性へ配慮が行き届くというメリットがある。
あるいはまた、センターピンを0.5mmステップで準備することで、より切削負荷を軽減することもできるだろう。

なお、無垢の2pのカーバイドチップ(超硬刃)と較べ、1pの替え刃(超硬刃)方式の利用という考え方には様々な解釈ができると思う。
しかしカーバイドチップ刃が一般的になった現代においては、この替え刃方式がより一般的で標準のものになっていくのではないだろうか。
ランニングコストから考えても、研磨よりもより経済的。
ほとんど全ての替え刃が1枚に両側2面に刃が付いている。
うちの場合、この替え刃式で全く問題はない。

ただ前述したとおり、重量バランスの問題は構造上不可避なので、ハンドルーターでの活用は別の基準で考えねばならないだろう。(ボクはハンドルーターに1枚刃の替え刃を装着しての作業は経験がない)

右はベアリング付きの20φストレートビット。
これは替え刃ではない。
上下に刃が2分されている。リードが逆になっていてユニークだ。
軽いフィーリングで切削できる。
アメリカ帰りのDさんから譲られたもの

shaper刃

〈倣い切削に用いられるSHAPERの刃〉

左から、
[85φ、30mm]手前はそれに対応する同径のベアリング。
これは同一のものをビルトアップして60mm、90mmと高さを嵩上げすることができる構造となっている(刃の上部に2つの突起が見える)。

この大きなベアリングはガイドリングに代わり倣い成形時に使われるものだが、作業者のフィーリングとしてはベアリング機構よりも固定のガイドリングの方が安定した運行ができるように感じる。それぞれ新たに導入する場合の価格比としてはベアリングの方が少し安価か。

[100φ、50mm]手前の青い箱は替え刃。
この刃には上下に毛引き刃が付く(段欠き用のものだが、倣い成形では邪魔なので外してある)

これら2つはLeitz社製。
Leitz社の2つの替え刃のものは、少し見ずらいかも知れないが、反発防止を考慮した設計になっている。
またいずれも軸径が30mm仕様となっている。そのために専用のスリーブを介しての装着となる。

[100φ、100mm]手前は100φのガイドリング
これは替え刃ではない。
実はこの他に兼房の100φ、100mmのスパイラル刃のものがあるがメーカ研磨中(下のShaperの画像に装着のもの)。

上2つの替え刃方式のカッターブロックだが、いくつかの国内メーカーでも同様のものを製作している。
一部は欧州からのOEM。
信頼のおけるメーカーのものを使いたい。

mulch

〈参考までに〉

これらは「倣い成形」のための刃物ではないが、高速面取盤用の刃物として、参考までに触れておきたい。    左から
「Multi-purpose profiling」という名称の、様々な形状を持つ刃を装着することのできるカッターブロック。
ご覧のように2枚づつ納まったものが12。つまり24枚。(ブロックに取り付けられたものは別として)
しかしプロフィールは6種。
つまり半分は押さえ板機能を持たせた反発防止用の刃である。
Felder社のもの。

右はストレート刃だが、角度可変のものとなっている。
これにも同様に反発防止の仕様(押さえ機構を有する)となっている。

ここでこの2つを紹介したのは、こうした反発防止を考慮した設計が為されているのがEU(ドイツ)の規格(DIN)であると言うこと。
詳しくは知らないが、産業における安全対策において、然るべく法的整備が為されており、これに準じた設計となっていると考えられる。

この2つの刃物は須藤生さんがストックホルムから帰国する際、入手を依頼したもの。
感謝であります。

line

【ピンルーター、高速面取盤、導入について】

ここで少しピンルーター、高速面取盤の導入について考えて見る。
(過去、このBlogでも度々記述してきたところから繰り返しになってしまうかも知れない)
うちでは以下のようなマシンを導入している。

ルーター ■ ピンルーター
 ・菊川鉄工所製
 ・KR-B
 ・1.5Kw 20,000rpm

特徴としては16mmのコレットまで対応、
ヘッド昇降(一般に広く普及してるものがテーブルが昇降するタイプであるのに対し、これはテーブルは任意の高さに設定され、切削する時はヘッドが降りてくる → 安全性が高く、汎用性が高い。また刃が降りたところにマークが付かない = 遊びがない、など使い勝手が高い)

高速面取盤
 ・庄田鉄工
 ・SM-123
 ・2.2Kw 100mm 100φ 0〜10,000rpm

国内で最も普及している一般的なタイプ。
送り装置を付け、またインバーター制御で無段階に可変速。
画像では100φ × 100mmのスパイラル刃が付いているところ。

さて、まずルーターだが、国内市場では庄田鉄工、丸仲鉄工所あたりのものが普及しているようだが、やはりお薦めはヘッド昇降のもの。
テーブルが固定で使えるというのは、安全作業への貢献にとどまらず、様々な使用法が可能となる。
またお盆のように底をさらうような場合、テーブル昇降だと、刃が最初に当たるところにわずかに窪みを残さざるを得ないが、ヘッド昇降の場合、これが機械構造的特質としてゼロにすることが可能。

画像のようにずいぶんと古い機械だが、全く問題なく完璧に作動している。
高速回転を可能にしている特殊なベルトも交換したことがないほど堅牢である。
このヘッド昇降はワイヤーダンピングなのだが、何度かこのワイヤーが使用劣化で切断したことがあるが、これは致し方ないところ。
中古機械市場では30万円前後で流通しているのでは。

shaper高速面取盤は普及品なので説明はいらないだろう。

回転数は仕様では本来は2段階なのだが、インバーターを取り付けたことで、様々な刃物に適切に対応させることができている。
送り機もあった方が良いだろう。

長尺ものなどは安定的な切削が安全に行える。

画像に見えている定盤を左右に走る溝は購入時に付けてもらったもの。これは三日月定規(マイター定規)のためのものだが、木口切削加工時に使われる。ただ使用頻度は低いのであえて作るまでもないかもしれない。

この画像ではフェンスが取り外されているが、先にコメントを頂いた山野オルガンさんのサイトにも紹介されているフェンスを使用するなどの安全対策を考えたい。

なおこの高速面取盤だが、欧米の小さな工房ではルーターマシンなどよりはるかに広く導入されているようだ。
そのために、このマシンの1インチ軸よりも細い3/4インチ径のものが一般的。
欧州では1-1/4インチ、つまり30mm径の主軸が一般的。

他にも様々なタイプのものが流通しているようであり、この高速面取盤に関しては欧米のマシンを購入対象とするのは悪くないかも知れない。
刃物の種類も豊富に展開されているだろう。

ただあまりに小型のものは安定的な切削には無理があるので、駆体も鋳鉄製で頑固なものを選択するようにしたいものだ。重量も300Kg以上は欲しい。

また主軸がチルトするものもある。
機械については主題でもないのでこの辺りに留めておきたい。

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