成形加工における治具づくり、1つの考え方(序)
長月、9月だ。
周囲の田んぼの稲穂はたわわに実り、重たそうに垂れ下がってきている。
別のところでは既に刈り取りを終え、落ち穂拾いで忙しい野鳥たちの姿もちらほら。
夜ともなれば秋の虫の鳴き声が涼を誘う。
記録的な暑さだったというこの夏の猛暑。これがいまだなお衰えを知らず続いているというところに異常さがあるが、一方での秋の兆しは、夏、秋の大気の一歩も譲らぬ綱引き合戦といったところか。
このところ運送屋に託すものではあるが、納品搬送に伴う雑務が続き慌ただしく、制作作業にはなかなか集中できない。
集中できないということでは、Blog記事の素材収集のための写真撮影なども、そうした要因のうち無視できない1つであるかもしれない。
これは己の問題なのでこうしたところで語るべき対象とは少し違うだろうから言い訳がましく語るべきものではないことは承知している。
要するに自身の立脚点と、バランスの問題だろう。
楽しく更新でき、またそれが読者に伝われば、多少の集中力を阻害するものであっても構わない、ということだ。
さて今日は、成形加工での治具作りについて考えて見る。
これまでも何度か関連する記事を上げてきているので、既知のことだったり、繰り返しになってしまうかもしれないが、それはお目こぼしいただくこととして、たまたま加工を始めた序ででもあるので紹介してみたい。
「成形加工での治具作り」とは言っても、加工対象、加工目的、置かれた機械設備の環境の違い、などで実に様々な手法がある。
うちでは広葉樹の無垢材を対象として、家具全般にわたり曲面成形も必要に応じて取り入れ、オイルフィニッシュ、拭漆で仕上げる、という制作内容になるが、したがっていわゆる木工家具制作作業に必要とされる汎用機械は広く設備するようにしている。
成形作業に必要とされる機械設備、あるいは電動工具としては以下のような内容である。
1、ピンルーター(ヘッド昇降のルータマシン)
2、高速面取盤(1″軸のShaper)
3、縦軸(ルーターテーブルのようなもので1/2″シャンクでコンパクトな機械)
4、1/2″軸のハンドルーター、各種
これらはそれぞれ使用目的も、特性も異なるので、個別具体的に取り上げねばならないが、成形作業という大きな括りからその優先順位を上げるとすれば、何よりもまず「高速面取盤」が先行するだろう。
これは言うまでもなく切削力が高いということに尽きる。
80φ〜125φという直径を有する刃物を高速回転(6,000〜10,000 rpm)でぶん廻すわけだから切削力が高いというのも当然。
刃の高さも100mmほどは軽くいくので、幅の広い椅子の笠木なども1発成形が可能。
ところで〈切削力が高い〉ということは一体どういうことを意味するものなのか、以下に挙げてみよう。
- 倣い成形であるので高精度な曲面成形が可能
高精度という意味だが以下を指す- 切削肌が美しい(刃物の周速度が高いのでナイフマークのピッチが小さい)仕上げはそのままサンディング #240〜でOK !
- 寸法精度が高い(倣い成形なので寸分の誤差が出ない、直角精度が高い)
=複製加工における精度の高さ - 逆目切削に強い(これも周速度の高さゆえのもの)
- 幅広のものも1発で切削できてしまう(ルーターではせいぜい50mmまでか)
寸法精度が高い、ということだが、これは良質な木工をするには必須の要件となる。
単に家具の外形に曲面成形を施すのであれば、多少の歪み、変形も許容されたり、「味」となって別の評価にもなるが、これが仕口に関わったりする箇所となると、そういう甘えは許されない。胴付きが来るような箇所であれば然るべく平面精度が維持されなくてはならないので、高精度な切削面は必須だ。
無論、手鉋に自身がある御仁はそれでも良いが、そうした箇所では一般には然るべくセットした機械に譲るというのが合理的で賢明な近代に生きる者の考え方だろう。
後ほど紹介する今回の座卓の脚は 90×120mmほどの高精度な平面が必要とされるが、ここをカネを維持しながら、必要とされる厚みを残して、誤差0.05mmほどの許容誤差の範囲でかつ平滑に手鉋で削り上げるというのは、恐らくは神業に近い切削工程となるだろう。
またここではあえて上げなかったが、制作コストの面でも、恐らくは圧倒的な差異で機械切削に委ねた方がコスト削減に繋がるのは言うまでもない。
機械設備など数10万円で解決できる投資コストを考えた時、上述した様々な優位性を含み合わせれば、どちらを選択するかは自ずから明らかだろうね。
〈本稿の構成〉
■ 成形加工における治具づくり、1つの考え方(序)
■ 成形加工における治具づくり、1つの考え方(1)
■ 成形加工における治具づくり、1つの考え方(2)
■ 成形加工における治具づくり、1つの考え方(3)
acanthogobius
2010-9-3(金) 21:17
ブログもやはりartisanさんのように季節柄の記載から始める
位の余裕(?)がほしいものですね。
少し、まねしてみようかな(笑)
ところで、この手の「高速面取盤」の有用性はこのブログでも
何度か取り上げられておりますが、今回は「治具づくり」という
題でもありますので、できましたら治具のお話をお願いします。
1.トグルクランプの種類や長所、短所について。
2.テンプレート作成の勘所。
3.被切削材のどこを、どう押さえるのが効果的か
4.危険回避の注意点など
すみません。
artisan
2010-9-3(金) 23:43
acanthogobiusさん、Blogの前振りもそれぞれ個性があって良いと思いますが、私の場合はさほど巧緻な導入部とも言えない季節ネタですのでね。自己評価45% ?
本件記事の大筋をあらかじめ設定していただけたようで助かります(笑)
ただ、acanthogobiusのようにハンドルーター(+ルーターテーブル?)などの電動工具で対応する場合にも有用なものでありたいと思いますが、ちょっとこの辺りが難しいでしょうね。
まぁ、そこは経験値もあるでしょうから、1つでも2つでも興味を持たれる内容にしたいものです。
山野オルガン
2010-9-4(土) 00:08
いつか書かなければと思いつつ、仕事にかまけております。
「4.危険回避の注意点など」に関して、学んだことを少々。
日本国内での木工修行の経験が全くないので、外れたこと
言うかも知れませんが、無視して下さい。時期を同じく、
知人であります宮本木工房のブログでも、倣い加工に関し
ての記述があります。宮本氏はホビー的な作業を目的とさ
れていますので、専門の木工房にはお勧めできません。
日本の木工職人の間では成形盤は危険な木工機械だと、
誤った認識があり、縦軸成形盤そのものも良い機械があり
ません。刃物も安全配慮が乏しく、危険な物も存在します。
欧州で一般的な刃物や機械は、労働災害の法整備や安全性
は日本とは比較にならない程の配慮がなされています。
日本での区別は全くないが、刃物には機械送材と手動送材
があり、手動送材用刃物には、鉋の裏刃のような、切削制
限刃が付随し、材料の食い込み制限がなされて、手動送材
の安全を高めます。何を言っているのか理解が難しいで
しょう。私の拙作ページ内「安全」の項目をご参照下さい。
また、このページ内にドイツでの木工職人が知らなければ
ならない重要な情報を記載しております。ドイツ語なです
が、視覚的にはある程度理解出来る編集がされております
ので、言葉が解らなくても、多くの学ぶべき情報があるで
しょう。刃物の形状、案内定規(フェンス)、機械の規格
は、早急に日本の木工業界が導入しなければならない内容
です。知人の息子、生(イクル)君のブログ内にも、参考
になる良い機械や情報が掲載されていま
す。ついに書いてしまった。
artisan
2010-9-4(土) 23:37
山野さん、ご無沙汰しています。ますますお元気なようで嬉しいですね。
その節は大変お世話になりました。
数日前、Leitz横浜から営業マンが立ちより、あなたのことも話題に上がりましたね。
そこでも、ここであなたが書かれている安全対策の話しにも及びました。
>日本の木工職人の間では成形盤は危険な木工機械だと、
>誤った認識があり
ぜひこの部分、「一部の日本の・・・」と修正していただけませんか(笑)
私の知る範囲では優れた洋家具を作る工房、製造会社には大抵設置されていますけれどね。
「一部」にその認識が無い、あるいは故無き誤解、曲解が広まっている、ということでしょう。
そうした誤りを解放してやるには、山野さん推奨の安全策を講じるということが最も重要なことの1つであることは間違いないでしょう。
プロ意識というものが、果たして高次元に持たれているかどうかの差異もあるのかも知れませんね。
また私自身のこのBlogでも折に触れては積極的導入の記事を上げている立場上、普及が進まない現状を見れば自責の念すら感じ、また虚しくもなりますね。
しかし、こうして山野さんのWebサイトへ誘ってくれることで、せめて読者の範囲内では認識も高まることでしょう。
ありがとうございました。
またお会いしましょう。
(業務連絡:Leitzジャパン、商品構成、いろいろと改編があるようです)
山野オルガン
2010-9-5(日) 00:34
私が推奨しているのではなく、安全対策の情報があることを、知って欲しいとの思いなのです。残念なのは、良い刃物が存在しても、それを入手するのが難しい。また、刃物を研磨する業者側にも問題があり、適切な研磨が出来ない。替え刃式なら研磨の問題はなくなるが、価格的な難しさもある。安全対策、装置は経済的に大きな負担とも言えますので、何が何でも導入すべきだとは薦められない。指を落として、仕事が出来なくなった時に気が付いても、既に遅いのだが。
artisan
2010-9-5(日) 00:57
山野さん、仰る事は良く分かります。
恐らくは、こうした問題は高速面取盤に限ることではなく、木工機械全般における安全対策上の問題です。
日本におけるその分野の立ち後れは旧態依然としたままで、ほとんど改善の兆しすら見えないという現状があります。
これは機械・刃物業界、あるいはこうした分野を専門とする学者、さらには所轄官庁の意識の在り様の反映であるとともに、実はそれを下支えしている木工の現場の認識の甘さもあるでしょう。
そうした現状を打開するするためにも、以前と比べればはるかにそうした情報を取得できるようになってきているIT社会に生きる我々としては、こうした場で情報の共有化を進めることは有用であるでしょう。
Casch
2010-9-6(月) 21:27
こんにちは。初めて書き込みさせていただきます。
私はフラッシュの店舗家具などを作っておりまして、この度独立する事となったのですが、行く行くはartisanさんの様に無垢の家具なども作っていきたいと思っており、こちらのサイトも以前から読ませて頂いてました。
実はしばらく大工仕事をしていて、今日久々に昇降盤でのカッターでの切削作業をしたのですが、昇降盤自体久しぶりに使うのでかなりの恐怖を感じました。と同時に以前はいかに安易に注意力散漫のまま
機械に向かっていたかという事をあらためて自覚しました。
そんな折に今回の様な安全対策の話が出たので思わず書き込んでしまいました。
木工関連の洋書等を見ていて以前から思っていたのですが、欧米ではいかにマニュアルを作り誰でも出来るようにするかという考え方、日本では熟練する事によって会得し素人と玄人の差を明確にする、というような考え方、かなり暴論かもしれませんが、その様な大きな考え方の差があるように思えます。
その中でartisanさんや山野オルガンさんの様な方々がこうして色々な情報を提供して下さり、私のように勉強させてもらってる人も沢山いると思います。
何だかとりとめがなくなってしまったのでこの辺で。
artisan
2010-9-7(火) 00:19
Caschさん、
>この度独立する事となった
おめでとうございます。
作業機械とどう向かい合うのか、ということを考える場合にも様々な側面があるように思います。
「慣れ、習熟」というのはその機械の特性を深く理解し、いわば自分の手先の如くに使いこなすという高いレベルの段階を指し、これはまたより安全に操作することにも繋がっていくわけですが、しかしまたそうした高いレベルに到達してもなお、いえそうであればこそ「慣れ、習熟」は時として安全性への配慮を欠いてしまうという魔の瞬間を引き寄せてしまうことがあるものです。
安全対策というのは、そうした場合であっても、回避できるように準備するということなのでしょうね。
日本と欧米における安全対策面での差異は、確かに仰るような側面があるのかもしれません。
なお、私自身がこうした言い方をするのもヘンですが、Blogという情報ツールも功罪様々ですので、リテラシー(読解力)を高めていただきながら、あるいは批評精神を持ちつつご覧ください。
がんばってくださいね。
匿名
2010-9-7(火) 22:14
>>この度独立する事となった
おめでとうございます。
ありがとうございます(笑)。
>Blogという情報ツールも功罪様々ですので、リテラシー(読解力)を高めていただきながら、
というのはおそらく
>「慣れ、習熟」というのはその機械の特性を深く理解し、いわば自分の手先の如くに使いこなすという高いレベルの段階を指し、・・・・・・・
の事を指していると思われます。はい、その事は少なくとも頭では理解しているつもりです。ただ毎日当たり前の様にしていた事から数ヶ月離れるという今回の私の様な経験は皆さんそう頻繁に経験する事では無いと思われますので、今回の様な書き込みになりました。
これからも楽しみに読ませて頂きますのでよろしくお願いします。
artisan
2010-9-7(火) 23:27
Caschさん、私の書き方、説明が良くなかったためか、別の解釈で理解されたかもしれません。
「功罪様々」というのはこのBlogを含め、全てのBlogを対象とした客観的評価における難しさのことです。
Caschさんなどの若い読者にとって害毒を垂れ流さないように留意したいということでもあります。
特に客観的に考えて科学的、テクニカル的な分野での記述というものは、論理的思考に基づいた記述を心がけねばならないということなども含意します。
インターネットというツールは安易に誰でも好き勝手に垂れ流しできる革新的な情報ツールですので、これに関わるには受信者には眉唾の構えとリテラシーを、発信者には公的な責任の自覚が求められるということを指したつもりでした。
自らへの戒めと、読者への注意喚起です。