工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

Sam Maloof 訃報

sam訃報
Sam Maloof: WoodworkerSam Maloof(サム・マルーフ)が亡くなった。5月21日の木曜日のこと。
FWW(Fine Woodworking)の5月27日付メルマガ ↑ からの訃報だった。
もうあの黒縁眼鏡を通した柔和な笑顔に触れることはできない。
ボクがこのロッキングチェアのアイコンの存在を知ったのは木工修行を初めて間もなくの頃、講談社インターナショナルからその数年前に発刊されていた著書(Sam Maloof – Woodworker)からだった。(右)
訓練校で知り合ったばかりのTさんとともに訪ねた東京日本橋の東光堂でそれを見付け、授業時間の合間に皆と見入った懐かしい思い出が蘇る。
アメリカを代表する木工家の一人で、数少ない成功者でもあった(優れたビジネスマンとしての評価もあるようだった)。
レイ・チャールズ、ジミー・カーター、ロナルド・レーガン両元大統領などを顧客に持ち、多くの木工ファンに愛された。
日本からも彼を慕って工房スタッフとしてアメリカに渡った人もいるので、血脈は国内でも何らかの形で受け継がれていくのだろう。
個人的にもその独特の流麗なフォルムで記憶されるロッキングチェアには影響されたし、著書と出会って数年後に取り寄せたVHSビデオでのバンドソーの驚くべき活用法には目を見張り、そしてその椅子に用いられる仕口にも大きな関心を抱いたものだった。


sam_bandsaw一方ではマルーフ独特の接合部などへのヤスリでのアプローチには少なからぬ反感を覚えもしたものだ。南京鉋でやったほうがよほど合理的だろう、って。
ボクもそうなのだが、つまり部品の段階で、ほとんど仕上げに近い状態で組み合わせるのが一般的であると思うが、サムはそうではなく、バンドソーの挽き痕もそのままの粗い仕上げで組んでしまい、その後にヤスリ、ノミなどで成形するという独自の手法を取っている。(画像は著書、およびFWW誌#179より引用:部分)


sam_jointそうした手法も含め、印象としては、あの上腕の太さから繰り出される力づくでの加工手法はとても真似のできるWoodworker ではないな、というものだった。
ハンドルーターなどは、トリマーのように片手での操作だもんね。
同じWoodworkとはいえ、別世界のものだぜ、あれは、という印象だ。
J・クレノフの「ノートブック」の翻訳本の訳註者、三ツ橋氏と話した際にも、クレノフのバンドソー活用における注目点を語っていたが、それぞれにアプローチは異なるとはいえ、バンドソーという切削機械の位置づけが日本のそれとかなり位相が異なるということでは共通していると言えるだろう。(クレノフの場合では小型のバンドソーで数mm厚さの単板を器用に割くなどの)
もう1つ印象を上げれば、彼が最も愛した樹種はブラックウォールナットだったということ。
ローズウッド、チェリーなども用いたが、やはりSam Maloofはウォールナットの人だった。
ところで日本国内でも大手ハウスメーカーのインテリアブックにそっくり真似たシリーズが出されるなど(あれは一体誰が作っていたんだ?)のあってはならぬことも忘れられない事象だったが、そうしたことも含め、その影響力の大きさにも驚かされる。
それほどに魅力的な作風を持ったWoodworker(彼自身がアーティストという呼称ではなく、その呼称の方を望んだ)だった。
ご冥福をお祈りします。享年93歳でした。
YouTubeにもいくつもの良い動画が貼り付けられているが、ここでは「Handmade in America」というシリーズのインタビュー記事を(著書刊行時と同時期1982年収録。閲覧数は何故かさほど多いものではないのが不思議)

*Amazonを見れば(上から2つめの著書画像クリックでamazonジャンプ)
「Sam Maloof: Woodworker」という原著( Kodansha International Ltd:1983〜)は、現在ペーパーバックで再版されているようだ(1989〜)。
現在は品薄、在庫切れのようだが、著者死去ということもあり、いずれ潤沢に供給されるのではないかな。
ハードカバーは中古で入手可能のよう。¥11,521〜となっているが、ボクの蔵書には¥11,000(新刊での購入価格)とプライスされているので、驚くほどではない。
(Amazon対象サイトでは「中身検索」も可能)
VHS「Sam Maloof, Woodworking Profile 」(Taunton Press Inc)は中古品が入手可能。¥9,500円〜
*参照
■ Sam Maloof 公式サイトはこちら
■ maloof-special.(このサイトは動画が豊富で、ジミー・カーターなどのメッセージも)
■ FWW誌の訃報はこちらから(90歳の頃の動画付き)
■「Los Angeles Times」紙での訃報(こちら
(これはSam Maloofの詳細にわたる経歴紹介とともに、いくつものエピソードに彩られたとても良い評伝となっている)

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • James Krenovの作品もそうですが、一度実物を見てみたいと
    思いながら実現できないですね。
    最近発刊されたThe Furniture of SAM MALOOFも良い本ですよ。
    タイガーメープルのロッキングチェアはすごいです。

  • acanthogobiusさん、
    James Krenov氏の作品は、もはやこれからは市場にでるというものではありませんので、国内のコレクターにツテを頼って見せてもらうか、後は美術館ですね。
    「The Furniture of SAM MALOOF」、米国amazonで中身検索しましたが、魅力的ですね。
    一部「Sam Maloof – Woodworker」にかぶるのかな。
    acanthogobiusさんも流麗なロッキングチェア、作ってみてください。

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