工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ディテールとエッジ

知人の木工家から、あるお尋ねがあった。
1つのテーブルのデザイン、ディテールがどうなっているのか見せて欲しいとのこと。
隠すほどのものでもないし、以前撮影していた画像が見つかったことでもあるので、ここで明らかにしておこうと思う。
下の画像は、テーブルの脚部、ディテール。(天板はまだ接合されていない状態)
テーブル脚部4本脚を幕板で結合するというごくありふれた構成のもの。
脚部デザインは、いわゆる“四方転び”の仕口で、“テリ脚”となっている。
四方転びそのものはイージーなものでしかないが、これを画像のような断面を持った造形を作り、これに仕口を施すのには、少し思考における自由度、加工プロセスの難易度も重なり、なかなか楽しい仕事になってくる。
木工家としてのボクのデザイン的アプローチとは、無論、目的とする調度品としての機能を十分に満たし、生活空間の快適さに少しでも寄与できるものを志向するのは当然としても、いわゆるデザイナー的アプローチのそれとはいささか趣を異にする。
ボクたちは木工の練熟した職人としての職能を縦横に発揮し、これを目的とする造形物に如何に対象化させるのか、という心配りを重視するという点においてデザイナーの思考スタイルとは少し異なる。


つまり目的とするデザイン、ディテールも、木工家ならではの豊富な知見、経験、技、などを適切かつ合目的的に使いこなすことでデザイン的自由度が拡がり、フォルムとしても、ディテールにおいても、美しく、かつオリジナリティーの強いデザインを起ちあがらせることができる。
こうしたアプローチというのは全くもって木工家ならではの世界でのことがらである。
たかがテーブルの脚にここまで作り込む必要性があるのかは、意見も分かれることだろう。
若い木工家、金勘定の忙しい家具屋からはそこまで作り込むことの費用対効果、などという視点から、多分に鼻白む思いをさせてしまうかもしれない。
あるいはこうした手法では過剰にディテールに凝るという傾向に走るリスクから免れない問題が指摘されるかも知れない。
ボクも未熟な若い頃はそうであった。今振り返れば赤面の思いである。
しかし老いるというのは悪いことばかりではない。
若い頃は凝ったディテールが必ずしも全体のフォルムに有効に活かされていないことが多々あったと思う。
“神は細部に宿る”とは箴言だが、その全体のフォルム、デザインに有効に活かされていないとすれば、単なる自己満足に過ぎない。
練達を重ね、自己批評ができるようになることで、そうしたことも克服していくことができるだろう。
そして知見と経験、自身の美意識に照らし、全体のフォルムに有為なエレメントとして構成させるべく洗練させねばならない。
このように、ディテール、仕口というものをギリギリと突き詰めて考え、形にしていくというのも、我々木工家の存在証明の1つと言うこともできると信じたい。
あらためて画像を見れば
横からはかなりふんばった角度のテリ脚で、45度に削りだしたところに幕板のほぞを穿つ。
中央やや上側の位置に貫を受けるホゾを穿つ。
いずれもエッジを効かせて、それぞれのラインをシャープに見せる。
これによって仕事の丁寧さとともにデザインのディテールというものが明瞭に表れる。
この加工にはルーターマシーンの駆使が必須。
切削量、刃物への負荷はかなりのものがあり、また仕口の成形であるために、加工精度の高さも要求される。
こうした高精度、重切削を叶えるための機械設備が必要となる。
ルーターマシーンは単に面取りやら、段欠きに使われるだけではなく、こうした仕口成形を伴う造形を叶えるマシーンである。
材種はミズメ樺。あくまでも重厚、濃色で、肌理が細かく、光沢に富む。
家具材としては最高の品質を持つ。
近年、供給力ははなはだ心許ない状況を呈す。
以下は、このフォルム、仕口ディテールを持つ作品。
ウォールナット テーブル
コーヒーテーブル Hashibami
ウォールナットセンターテーブル

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  • artisanさんの真骨頂というところでしょうか。
    貫のホゾは作品の形状によって色々な角度に穿つことに
    なるのですね。
    ディテイルへのこだわりと全体のバランス、それを可能に
    する加工精度が必要ですが、それが差別化への有効な手段になっていると思います。

  • acanthogobiusさん、ボクがくどくど記述するよりも、あなたのコメントの方がよほど適切で正鵠をを射ているようですね。 ^_^;

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