工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

銘木を競う

ブラックウォールナット
昨日に続いて、Box、筺の画像を‥‥。
今日は時折雨が落ちてくる曇天。
このような光の条件は撮影に向いているね。
そんなわけで改めて筺のTopを2葉。
まずブラックウォールナットの方から。
過去何度も記述してきたところだが、現在、市場で流通しているブラックウォールナットは大きく分類すれば2種類のものがある。
一般には現地で人工乾燥されて、国境を渡ってくるものがほとんど。
これは材色における人為的操作が施されている。
詐称とまでは言えないかもしれないが、辺材の白色部分に濃色の心材部分の赤身を移行させている(そんなことができるというのが驚きだが、それが実態)。
結果、辺材は真っ白からやや灰褐色に調色され、量産家具などでの歩留まりを改善させることに大いに寄与している。
しかしその結果、残念ながら心材の濃色部分のウォールナット特有の魅力的な色調は失われてしまっている。
縞状に表れる赤褐色から紫色、あるいは灰褐色と変化する独特の色調変化は他の材にはない固有の魅力だ。
さて、今回用いたウォールナットは上述の人工乾燥のものではなく、丸太原木で求めたものだ。
したがってウォールナット本来の魅力的な色調を映し出してくれている。
画像の鏡板は根上り部分の木理だね。これはウォールナットには比較的良く表れる。
あるいは二股になった部分であったかも知れない。
この場合日本では鯖杢(さばもく)と称し、英米ではWalnut Crotch と称する杢になるのかな。


ミズメ樺
さて次のミズメ。
先にも述べたように、鏡板も含め全て赤身の柾目で木取ることができた。
今回の柾目も、杉材などで言うところの糸柾のように年輪がとても細かい。
ミズメの最高水準の材質と自負しても良いものだ。
10年ほど昔に松本の地で末口60cm、4m材のものを3本ほど求め、様々な厚みに製材しておいたもの。
白太部分は少なく、赤身が張っていて、しかも木目はとても緻密。
この松本という供給元には理由がある。
「松本民藝家具」に用いられる最も基本的な材木がこのミズメであるからだ。
国内でもっとも良質なミズメが集まる特異な地域とも言えるだろう。
が、しかし現状はどうだろうか。
知り得る範囲での情報では、年々良質のミズメは供給力が無くなり、多くは真樺(まかば)、あるいはウダイ樺、さらには雑樺あたりの代替材へとシフトしているのではないだろうか。
画像の鏡板の“うねり”だが、松本ではこれを虎斑(トラフ)と称する。
(一般に“トラフ”とはミズナラの柾目に表れる髄線〔放射組織〕が形づくる紋様を指すが、ミズメなどの樺に表れる“トラフ”とは全く異なる)
これは樺(かば)一般にも良く表れる木理であるが、特にこのミズメにはほとんどこうした木理が表れる。
その光沢は絹織物のような肌目といえばより近い表現と言えようか。
これは細胞配列が順目、逆目と交互に交錯しているためと考えて良いと思うが、これを手鉋で仕上げるには相応の水準が求められる。
もともとミズメは最高度に緻密な材種であるので、より困難な対象だろう。
しかしそれだけにまた完璧に仕上げれば、拭漆にしろ、オイルフィニッシュにしろ、独特の艶と光線の方向で照り返しが表れ、魅力を増す。
最後に手元にある解説書からミズメの項を引用しておこう。(『世界の木材200種』須藤彰司 著/産調出版)

ミズメ、ヨグソミネバリ、アズサ、学名:Betula grossa カバノキ科
心材と辺材の色の差ははっきりしている。前者は紅褐色で、後者は黄白色。心材の色はマカンバに比較すると赤みが濃いことが多い。
木理は通直で、肌目はやや精。
気乾比重は0.60〜0.84。重厚な木材である。
製品の安定性、材質の均一性などはマカンバ同様である。
切削などの加工性はよく、仕上がりがよいことで知られている。
木材の保存性は低く、辺材はヒラタキクイムシの害を受ける。
‥‥‥‥‥
生産される丸太の直径が小さいことが多い。‥‥
洋家具あるいは洋風の建築材料として貴重なものとなっている。‥‥
梓弓の材料であるアズサは、かつては別の樹種であるとされていたが、現在はミズメであるとされている。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • ブラックウォールナットの色調は本当に木によって千差万別ですね。
    中には縞はあってもホワイトウォールナット(?)じゃないかと思うような色の薄い物もあります。
    以前丸太で買った材は国内で人工乾燥しましたが天然乾燥との違いをいつかこの目で確認したいと思っています。
    樺も含めた桜類は好きな材ではありますが細い径の材では
    白太が多く歩留まりが悪いですね。
    そろそろ季節も秋に向かい木材の伐採に適した時期と
    なります。
    artisanさんが次に狙っているのはどんな材ですか?

  • ウォールナットの木質は、やはり産地、植栽環境によって様々ですね。
    信頼のおける材木屋と良い付き合いをすれば自ずから良いものが入手できるでしょう。
    樺材も様々で国産に限らず、いわゆるBirchと言われる海外に産するものも含め多様です。
    類種の中では真樺、ミズメは最も良い木味を持ち、高品質であることは間違いないところです。
    さらにまたミズメは他の樺材と異なり、○△樺と呼称されずに、何故かミズメと単独に呼ばれる理由は確かではありませんが、似て非なる独特の木味を持つ固有のものであることも確かであるようです。
    acanthogobiusさんも良質なミズメがありましたら、ぜひゲットしてください。
    (ある程度の太さがありましたら、赤身の歩留まりは良いはずです)
    ボクの丸太購入予定ですか?
    そうですね。もう一生分抱え込んでいますので無用ではあるのですが、魅力的な丸太が出て来れば懲りずに買っちゃうのでしょうね。

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