工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

Chest on Walnut Stand

カール・マルムステンの家具を最初に見たのは「銀座松屋」の北欧家具コーナーであったか、あるいは当時ミネビアが展開していたアクタスの前身、高級輸入家具店「青山さるん」であったかは今では不確かな記憶となってしまったが、まだ松本の職業訓練校に通っていた頃のことだった。
現在はいずれも撤退、あるいは売却されて跡形もない。
このBlogの読者では知る人も少ないだろう。
日本における輸入高級家具の受容のされ方とはその程度のもの。
バブル経済期のあだ花であったのかと言われれば返す言葉も無いが、その時代を知るモダンファニチャーの数寄者にとっては悲しむべき事柄の一つだ。
制作者としてのボクにとっては、遠い彼方のそうした記憶も今の制作スタイルになにがしかの影響を与えているとすれば、幻影などではなく海馬の片隅の確かな残像とともに、熱を帯びたあの時代に感謝しておくのも罪ではないだろう。
Chest on Walnut Standこの画像のチェスト(部分)もそうした遠い記憶を呼び覚ましながらの制作だった。
一品ものの家具制作の過程は多くの困難を伴うのは必然だが、しかし今回のようにカール・マルムステン、あるいはJ・クレノフの系譜に繋がるスタイル、またそういっても良ければModern Furnitureの「普遍性」への接近というものは、微熱を呼び寄せながらの楽しく心躍る過程であったことを告白しよう。
着想から、ラフスケッチ、そして製図の過程を通してのデザイン、ディテールの検討、あるいは仕口の検証。
そしていよいよ材の吟味、加工作業、金具の確認と、今回は想定以上の制作時間を要することになってしまったが、何とか完成を見る。
フォルムといくつかのディテール、そしてブラックウォールナットをベースとするスタンドにブラックチェリーのチェストという構成、およびその材色のコントラストは、果たしてキッチュに陥ってはいないかとの懸念は残ったが、いずれ顧客、あるいは数寄者、批評家の眼に委ねることになるだろう。

スタジオの提供とともに撮影の労を執っていただいた森下氏の好意と才能に謝辞を !

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  • こんばんわ
    件の写真、暇をみて
    修正。してお送りいたします。

  • ここ数回分の家具関係エントリーがここに結実しましたね。
    やっと全体像が把握できました。
    良いですね、私も作ってみたいです。
    FWW誌に出て来そうな感じではありますが。

  • >FWW誌に出て来そうな感じ
    Taunton Press社にデータ送りましょうかね(笑)
    ま、しかし日本という家具文化の土壌にこうしたものが正当に評価されるのかはビミョウ。
    むしろ難しいかもしれない。

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