工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

「縦軸面取盤」はなぜ忌避されるの?

昨日「お知らせ」として告知したように、来週末阪南で「縦軸面取盤」のレクチャーをする。
ワークショップといきたいところだが、時間的制約、準備不足ということもあり、いやそもそもこんな企画の構想が初めからあったわけではないのでレクチャー的なものとなった次第。
企画主催者がこの機械を導入するにあたって、経験者としてのボクが個人的にその使用法をアドバイスしようという意向を示したところ、せっかくだから皆さんに見てもらったら、という「瓢箪から駒」のような企画になってしまったのだ。
うちの工房起ちあげの際の曲面成形の機械と言えば、ルーターマシーンしかなかった。
一応はこれで事足りていたというのも事実。
この一応という限定が何を意味するかだが、やはり切削能力において劣勢であったということを指す。
確かにうちのように家具全般何でもござれの木工房としては、ルーターマシーンさえあればとりあえずは曲もの(クセモノ)、と言われる曲面成形を伴う複雑な形状のものもやり遂げることができるものだ。
信州で基礎的な修行をしていたところでもルーターマシーンはあったが、あまり活用されているような気配はなかった。せいぜい丁番彫りと面取りぐらい。
それがその後世話になった親方のところでは、もはやルーターマシーン無くしては何もできないほどに八面六臂の大活躍ぶりであった。
残念ながらそこでは「縦軸面取盤」は設置されていなかったが、この親方が働いていた横浜クラシック家具のある工場には2軸の立派な縦軸面取り盤があり、その性能には親しんできたらしい。
そうした環境下で修行した者として、また椅子をはじめ、様々な成形加工を伴う業務をしていきたいという構想を持つ者として、機械のラインナップから外せないものとして「ルーターマシーン」があった。
そして7、8年後、やはり「縦軸面取盤」の必要性に迫られ導入したのだが、なぜもっと早く導入しておかなかったと悔いたものだ。
したがってこの機械は全くの独学(と言うほどの難しい機械などではないのだがね)。


さてこの「ルーターマシーン」と、「縦軸面取盤」との差異だが、
まず機能面においては「ルーターマシーン」の方が汎用性は高い。
しかし切削能力の限界がある。倣い成型で使える刃物はせいぜい30φ×50mmほどの刃物か。
これでは椅子の笠木などの幅のあるものは2段階に分けて切削しなければならない。
あるいはいかに20,000rpmという高速回転ではあっても、30φという刃径から産み出される切削肌は必ずしも満足できるものではない。
10,000rpmの「縦軸面取盤」と比し、その周速度の差異は大きい。
80〜120φという大きな刃物が使えるからだ。
これは切削肌において美しくなるばかりか、逆目にも強く、またかなりの負荷にも耐えられる。
当然にもその後の成型加工作業は飛躍的に向上し、状況によっては手鉋など不要なまでに切れてくれるので、そのまま素地調整に移すことが可能だったりする。
やはり3Kと言われる木工といえど、快適に気持ちよく高品位な加工をしたいものだ。
この機械に投資する資金など、中古で入手できるなら、この機械の働きの余力ですぐさま稼いでくれるというものだ。
なぜこんなことをくどくど書かねばならないかと言うと、くだらん理由があるから。
この機械を導入しようという人に、あれこれと根拠があるのかどうかも怪しい間違った情報を与える向きがある。
キケンな機械だ。不要だ。etc,etc
木工機械などみな危険と隣り合わせ。
怪我をするのは、その機械の特性に反する使用法を取るであるとか、刃物の切れなどを含むメンテナンスにおける整備不良などに依るところが大きいのではないか。
然るべく機械の特性をよく知り、本来の機能を発揮させ、必要とされるジグなどを合目的的に作成し、安全装置を整備し、そして被加工材をよく知り、その被加工材の木目の流れを熟知し、コントロールするならば百戦危うからずである。
恥ずかしながら若い頃はボクも機械で良く怪我をしたもの。しかしこのルーターマシーン、面取盤での怪我は1度もない。
またこれらの機械への偏見は、あまりにもその実態を知らされていないことによるのではないかと考えられる。
訓練校などの教育機関では、例え設置してあったとしてもカリキュラムの対象としない、あるいはアブナイからと、触らせない、といった事なかれ主義に支配され適正に指導されていないのかもしれない。
あるいは町の現場においてもあまり普及していないことから、偏見だけが既知の事実の如く喧伝されてしまっているのではないか。
昨日このBlogで告知したことで、ずいぶんと遠方からこの機械を熟知するマイスターにもエントリーしていただいた。
逆にボクの方が教えを請わねばならない立場であるというのに。
あるいはもっと近ければ埼玉の「木工所のにーさん」に講師を代わってもらいたいぐらい。
そんなわけで、この講習会は機械への偏見と誤解を解きほぐし、正しい理解への一里塚になることは間違いないと思われるので、曲面成型を伴う工程を必須の業務内容とする工房主の方には有益なものとなるだろう。
付随して考えている丸鋸昇降盤での仕口のレクチャーも、恐らくは目から鱗の人も少なくない内容になるだろうと思う。
精度、生産性がはるかに向上すること請け合う。
なぜうちの家具がその品質にしてはこれほど安価なのかの背景がバレるというわけだね。

《関連すると思われる記事》

                   
    

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.