工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

高速縦軸面取盤(SHAPER)の安全フェンス

面取盤 安全フェンス

面取盤 安全フェンス

〈高速縦軸面取盤〉という木工機械は決して特殊なものでもなく、ごくありふれた機械です。
中規模の木工所、特に椅子や、複雑な造形を伴うような業種のところでは、むしろ必須の機械と言っても良いほどのものです。

ただしかし、私のような個人工房では導入しているところは少ないのが実態のようです。
機械の導入にあたっての思考基準、ポリシーは、制作スタイルから、求める品質等で決して一様ではなく、様々なわけでしょうから、導入しない相応の理由もあるのでしょう。

またさらには、ピンルーター(ルーターマシン)さえ導入していないところも多いのが実態であれば、ましてや面取盤など、といった感じでしょうか。

高速縦軸面取盤という機械

高速縦軸面取盤は様々な加工能力を持っています。

まず、名称通り、被加工材に面取り加工をすることができるマシンです。
ピンルーター(ルーターマシン)も同様の能力を持っていますが、ルーターは一般には1/2”(≒12mm)シャンクですので、刃物径も30φほどが限度になります。

これに対し、高速縦軸面取盤は1”(25.4mm)シャンクですので、100φ〜125φほどまでのカッターが使えます。

この差はとても大きいものがあります。
単に面形状の制約だけではなく、ルーターマシンの回転数が20,000rpmであるのに対し、高速縦軸面取盤の方はわずかに6,000〜10,000rpmではあるのですが、刃物が大きく周速度が高いため、その分切削肌は美しく、また逆目にも強いということになります。

次ぎに、これもルーターマシンと同様の性能になりますが、型板を用いた倣い成形が得意です。
ルーターマシンとの差は、上述通り、切削肌に関わると同時に、大きな刃物が使えますので、例えば100mm幅ほどの椅子の笠木なども1発で成形加工できます。

こんな場合、ルーターマシンでは数回に分けて切削しなければなりませんので、単に生産性に差が出るだけではなく、数回に分けるために、どうしても境界のエッジが残ってしまいます。


双方の機械、いずれも導入していなければ、帯ノコでざっくりと成形した後、結局は南京鉋、反り台鉋などの手工具で成形するプロセスを取りますが、いかに腕利きの職人とは言え、彼我の差を考えますと、生産力の差は歴然とするだけでは無く、複製における精度の差は著しいものがあると言わざるを得ないでしょう。

曲面成型の多い椅子のように、一度に複数脚制作するような場合においては、倣い成形が可能なこうしたマシンを導入するのは、極めて合理性の高い判断になるのはもちろんですが、

単品制作であればさほど問題にならないと考えられる加工においても、曲面成型の一部に胴付きが来るような場合では、カネが正しく取られていないと密着不良になるでしょうし、また成形部が、他の部位と結合、嵌め合うような仕口であれば、寸法精度、平面精度の確かさは必須の要件になります。

こうした加工において圧倒的な能力を発揮してくれるのが、ルーターマシンであり、さらには高速縦軸面取盤ということになります。

欧米における木工所では、こうしたマシンが設置されるのはごく一般的ですし、個人工房でも小型の同様のマシンが導入されているのをよく見掛けます(J・クレノフ本でも、小型のSHAPERについて触れられています)

国内でも、いわゆる洋家具を専らとする木工所ではありふれたマシンです。
私が修行当時世話になった親方(元、横浜クラシック家具の職人)も、これらの機械の優れた使い手でした。

高速縦軸面取盤

高速縦軸面取盤

フェンスを考える

さて、この度、この高速縦軸面取盤のフェンスを新たに導入しました。

日本で流通している高速縦軸面取盤のフェンスは、一般にはデコラ製の分厚い、とてもシンプルなフェンスです。

面取盤、一般的なフェンス

面取盤、一般的なフェンス

刃物のサイズ、形状により、左右のフェンスの位置を調整し、加工に備えるわけですが、刃物の位置には当然にもフェンスが断絶しているため、加工材の運行を制御するものが無くなり、とても危うい作業になりかねません。

被加工材は制御を失い、刃物側に食い込むリスクが出るでしょう。
また一方、作業者の安全に関わるリスクから逃れられなくなる危険性もあります。

これを抜本的に解決するためのフェンス導入が迫られていたのでした。

オルガンメーカー、山野さんの指摘

この高速縦軸面取盤に関しては、以前、大阪の知人木工家が導入する際、機械屋の斡旋等を行った経緯があり、それに併せ、知人木工家の工房において、このマシンのワークショップを行ったことがあります。(本Blog記事

大勢の木工家の参加を仰ぎ、盛況に行われたワークショップだったわけですが、この参加者の一人にオルガンメーカーの山野さんも、遠路はるばると、下関から駆けつけてくれたのでした。

このオルガンメーカー氏とは、ネット上で情報を交わしたことがあるものの、お目に掛かるのは初めてのこと。ナイスガイの男性でしたよ。

ドイツでオルガン製作の修行をしてきた国内でも数少ないオルガンメーカーで、オルガン製作には欠かせない、彼の国の木工機械に関する優れた情報、および豊富な経験を有した人です。

この人が持ち込んだのが、この高速縦軸面取盤をいかに安全に使うかというノウハウでした。
彼のWebサイトにも詳細な紹介がありますので、ご案内しましょう。
山野オルガン・〈安全〉[案内定規(フェンス)]

ここに紹介されているフェンスはドイツAIGNER社のもので、優れた機構を有するものであるようでした。

このワークショップを終え、私もさっそく導入をと考えはしたのですが、ただかなりの高額商品であるため、購入への飛躍はためらい、今日まで経緯してしまったという状況。

後年(とは言っても先頃のことですが)、やはり安全性を確保しないとヤバそうな成形作業があり、あらためて導入へと踏み出した次第。

そうは言っても大型機械1台が買える価格では手が出ませんので、他に探しました。
同等機能を持つ製品を。

英国 Axminster社の〈integral fence〉

ありました。英国の〈Axminster Tool Centre Ltd〉という会社の製品群の中に。
似たような機構を有したものではないですか。(こちら
しかも何と価格はAIGNER社の製品の1/16。

本当かいな、と、その価格差から当然にも疑って掛かり、いわゆる口コミでのレビュー、評価を探し回りましたが、ほとんど皆無と言って良いほどの情報量。

いよいよ不安は増すわけですが、探し出せた喜びは失われることなく、さっそく購入に踏み切ることに。
そして昨日やってきたわけです。

外見からは、想定以上の堅固な作りと、機能性を読み取りました。

さっそく本日装着してみたところ、フィッティングもまずまずです。
まずまずという抑制的物言いは、固定のためのボルト、Tスロットの位置が私の高速面取盤(国内では最も普及していると考えられる庄田鉄工製)の位置より若干低いため、定盤上に数mmの隙間が空くわけですが、作業性において大きな支障になるものではありません。

本体側にも、フェンス側にも、一切の加工を施すこと無く、ボルト一本(M10)で固定することができたのです。

購入前、その仕様など細部は全く不明で、どのような固定方法なのか分からずのままの発注でしたので、かなりの工作を強いられるものと覚悟していただけに、肩すかしでしたね。
ありがたや、ありがたや。

axminster integral fence

axminster integral fence

品質ですが、アルミダイキャスト製で、その肉厚も4mmとハードな木工作業にも十分に堅牢な作りです。

AIGNER社の製品との差異は、恐らくはフレシキブル機構を持つ複数本の棒状のフェンスの位置決めをする際の方法であるようです。

Axminsterのものはキャップスクリューで固定する方法ですが、AIGNER社のものは、ツールフリーでもっと容易にできるようです。

またさらに、他にも様々なアタッチメントの展開もあるようです(被加工材押さえのスプリング機構など)。


他にも欧州には様々なフェンスが市場展開しているようです(末尾に参考となる関連ツールのカタログを置きました)。

例えば、国内でも広汎に代理店展開している、オーストリアのFelder社には、とても良い高速面取盤があり、国内でも普及していると思われます。
この機種にも〈安全バーガイド〉と称する同様のフェンスがあります。

それぞれ特徴を持って展開しているわけですが、基本機能においては、さほどの差異は無いと思われますし、今回私が導入した製品は、価格もさることながら、その機能におきましても、大いに推奨できるものと考えられます。

もちろん、より優れた、高級なものをお求めであれば、AIGNER社、Felder社という選択をお薦めしましょう。
選択肢が増えることは良いに決まっています。

日本国内でのネット情報では、この製品への言及は皆無ですので、この記事も、高速縦軸面取盤を設置している木工所に目が留まることを期待したいですね。

山野オルガン氏も語っているように、日本での製造機械における安全対策は欧州に較べ、相当に後れを取っています。まったく無用とばかりに等閑視されていることに愕然とする思いです。

業界団体、経産省、学会、いずれに責任があるのかは分かりませんが、ぜひ現場の我々から、大きな声で安全性確保への基準制定を呼びかけ、またアドバスしていきたいものです。

このAxminster社のものは国内での代理店展開は無いようですが、AIGNER社のものはあります。
こうした木工機械の輸入代理店としては著名な「協和機工株式会社」です。
   製品の紹介頁はこちら

関心のある方で、価格等の情報をお知りになりたい方は、会社に直接アクセスしてください。
(もちろん私も問い合わせましたが、当然にも欧米での価格に、それなりの経費が上乗せされています)

しかし、この円安、留まるところを知らずに暴走していますねぇ。
130円もねらいすましている感じ。
数年前、80円半ばを長く推移していた頃の1.5倍ですよ。

アベノミクスとやらが続く限り、この円安傾向は終わらないでしょうし、黒田バズーカの第三弾が放たれる前に、普段気になっている海外からのツール購入などは、はやめに手当した方が良いかも知れませんね。


【参考資料】
▼PANHANS(HOKUBEMA 社)Safety tecnology カタログ
▼PANHANS(ドイツ HOKUBEMA 社)Safety tecnology 対象Web頁

(これらを閲覧すれば、彼の国の木工産業における安全性追求、高速縦軸面取盤への並々ならぬ位置づけと技術追求を思い知らされます)
因みに上記Felder社のものは、ここに掲載されている製品と、同一のものと思われます。

▼また、こうした資料を渉猟している中で、木工機械全般への安全対策を記述したドイツ語の書類(PDF)が出てきましたが、画像しか解読できない身であるものの、一応参考までに貼り付けておきましょう。(PDF:9.7MB

▼当Blogでの高速縦軸面取盤の関連記事

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • おひさしぶりにコメントさせて頂きます。
    AIGNERのフェンスは気になっていましたが、安全のためとはいえあまりにも高価なため「ここにも経済格差が…」とぼやいていました。同等製品があったのですね!自分でも多少調べたのですが、A社のものばかりなのでパテントの関係で一社独占かと思っていました。

    Felderのものは簡易版といった雰囲気ですが、それでも公式ショップで約5倍の価格ですので、こちらの製品はかなりお買い得ですね。ショップの情報のみでは購入に踏み切るのは困難なところ、こうしてご紹介頂き大変参考になりました。ありがとうございますm(_ _)m

    • motorajiさんも面取盤の効用を良く理解されていらっしゃる方のようで、喜ばしいです。

      AIGNERのフェンスが高価であるのは、それなりの理由もあるのでしょう。
      ご指摘のように独占とは言えずとも、その企業理念、社会的影響力からの価格ポリシーであり、ドイツ、欧州における安全対策への関心の高さの反映とも言えるのかも知れませんね。

      比して英国人はケチなのかな 笑

      もともっとケチな私は、執念を燃やし、探し出したという次第(ちょっと大げさ)

      英国からのAir便は安くはありませんが(本体価格×0.9ほど)、本体が割安ですので、
      我々にも十分に入手可能なものになります。

      motorajiさんの幸運を祈ります。

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