工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

座刳りは楽しからずや

座刳り
ボクが最初に手鉋での座刳りを間近に見たのは信州の訓練校でのことだったが、その時は軽い衝撃に近いものを受けたように記憶している。
反り台鉋、四方反り、南京鉋、それら数種のものをそれぞれ刃口サイズの違い、反りの円弧の違いを含め何丁も使いこなし、目的とする任意の形状を作り出すその技にはほれぼれとしたものだ。
確かに椅子制作のプロセスの中ではこの座刳りという作業には熟練の技が要求され、また肉体的にはかなり過酷なものといえるかもしれない。
しかし恐らくは椅子制作に於いて求められる機能(デザインを含む)の大きな要素の1つである座り心地を決定づけるものとして欠かせない重要な工程といえるのであり、逃れることなく楽しくやるのが良いだろう。
良く「手作り●▼」と称しつつも強力なサンダーなどで強引にやってしまう場合もあるようだが、これではお尻に優しく、美しい座面を得ることにはならないだろう。
ボクは「手作り●▼」という呼称は使わないが、もし「手作り●▼」という冠を字義通りの解釈、あるいはシニフィエとしての優位性が担保されるのであれば、こうしたプロセスこそそれにふさわしいものと言えるかも知れない。
これまで数100枚にもわたる座繰りを経験し、今や様々な他の加工工程同様、事も無げにやってしまう作業だが、ポイントをいくつかあげてみよう。
まず最初に書き置いておかねばならないことは、日本の台鉋のすばらしさということである。
冒頭述べたように、座刳りには様々な小鉋(台鉋)を使い分けていくのだが、これを可能ならしめるのが鉋の台と刃の形状だ。
被切削物としての座に求める3次元の座刳りは、そのポイントにおける形状をある固有の小鉋の刃と台の形状よって制御される。
小さな半径の円弧状であればそれに適合するRを持った刃と台の小鉋が必要とされ、しかし同じものでは平面に近いようななだらかな円弧状の部位は削れない(削れるが、適切な曲面にはならない)それぞれのRに最適な鉋を選び使いこなさねばならない。
このような作業に求められる小鉋は個々の作業者が自ら仕込むことが求められる。
もちろん基本的なサイズ、R曲面を持った既成の小鉋は市場でいくらでも入手できるが、現場の要求にはそのままでは応えることはできない。
やはりそれれぞれの曲面に適合させるために、刃と台の形状を整えなければならない。
恐らくは世界にはこうした作業に応えるための様々な鉋があると思われるが、日本の小鉋ほど洗練された機能を持ち、また任意に形状を変えることができるという意味において、最もすぐれたものとして分類されるのではないだろうか。(本稿続く)

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