木工家具制作におけるサンディング (その7)
スピンドルサンダー
スピンドルサンダーとは垂直に固定された電動機の軸(スピンドル)の延長部分に様々な径の筒状のスピンドルを連結させ、これにエンドレスのサンディングペーパーを巻き付けたものである。
これを高速回転させ、被加工材を手動にて押しつけて研削する。
スピンドルサンダーの普及はどの程度なのかは不明なるも、簡単な構造の機械ではあるが設備されていないと良い研削作業はできないのではないだろうか。
椅子などのいわゆる曲モノ(クセモノ)を対象とせず、例えハコモノ専門の業種であっても幕板などの成形部位の研削などにも有力な機械だ。
いくつか種類があるので、それぞれ紹介する。
3、(a) エアスピンドルサンダー
スピンドルサンダーの筒体は様々な素材のものがある。
スポンジ、フェルト、ゴムなど。それぞれ被研削曲面へのなじみを良くするため柔軟な素材が用いられる。
このうちエアスピンドルサンダーというのは中空のゴム袋、つまりタイヤ状のものに適切な圧力でエアを充填し、これにエンドレスのサンドペーパーを装填したものだ。
うちにあるのは100φ、200wのサイズのものだが、このサイズは様々なものがあるだろう。
説明するまでもなく曲面形状の部位を研削するものだ。
椅子の脚部、笠木、帯など様々な2次曲面に有用。
当然にも研削可能最小Rは筒の径に規定される。
うちの曲面加工工程を簡単に示すと‥‥、
型板作り → 材料へのスミ付け → 帯ノコでのaboutな切削 → 縦軸面取り盤(あるいはヘビーデユーティールーター)での成形切削 → エアスピンドルサンダーでの研削、となる。
材種により、あるいは高品位な精度が要求される場合には、サンダーの手前に鉋掛けを入れることも多い。
しかし良く研磨されたカッターを取り付けた縦軸面取り盤の曲面切削加工であれば、かなりの程度に逆目も止まり、ナイフマークも極小で済ませることが出来、そのままサンディングに移ることは可能だ。
番手は#180ぐらいから始めて、塗装システムにもよるが一般的には#320あるいは#400ぐらいで良いだろう。
さて、このエアスピンドルサンダーの使い方はここで終わらないところがユニーク。
これまでの2次曲面に留まらず3次曲面の研削を可能とする。
経験のない人も既にお判りだろう。
エアの充填量(空気圧)を変えることで、かなりの程度に3次曲面への研削を可能としてくれる。
当然にもここで使われるエンドレスベルトの基台は布。
例えば椅子の笠木などのように2次曲面から上部に掛けてなだらかな3次曲面に移るところなど、待ってましたとばかりにこのサンダーの威力は遺憾なく発揮することができることだろう。
使用上の注意点は他のサンダーと同様であるが、エアの空気圧が不十分であったり、押さえ方が強すぎたり、あるいは当て方が不均一だったりすると、面精度を大きく損なうことになる。(これはある程度の経験が必要ということになるが、こんなものすぐに慣れる)
なおこのエアスピンドルサンダー特有の問題点もある。被研削曲面へのなじみの良いゴム袋であるために、被研削材の当て方によっては特にエッジ部分のサンドペーパーが局所的に焼けやすいということがある。
焼けるということはつまりその部位が過剰に圧着され、目詰まりすることで研削力が落ち、結果焼けが生じてしまうのだ。
この問題の回避には定盤とスピンドルの位置関係を替えるしかない(多くの機械は手動で上下させることが可能)。
うちの機械は工房起ち上げ時の機械導入の時、機械屋の倉庫の隅にあったのを無償でもらい受けて来たものだが、銘版も無いどことも知れぬ機械屋の製作によるもの。
このエアスピンドルサンダーに興味があれば機械屋に頼んでおけばさほどの出費を強いられることなく入手できるのではないか。
オシレーティングスピンドルサンダー
この機械はRYOBIも含め、海外の電動工具メーカーが手広く扱っているのでご存じの方も多いことと思う。
回転部分の素材はエアスピンドルと異なり、無垢のゴムになる。
様々な径が用意される。
因みにうちのラインナップは15φ、30φ、60φ
特徴的なことはエアスピンドルサンダーのところで記述した焼けの問題を回避させるために、スピンドルが高速回転するのに合わせて、垂直方向にゆっくりと上下運動をする。
被研削物のエッジなどが局所的に当たることを回避させ、満遍なくサンドペーパーが接触するように改善されている。
うちの曲面研削作業では、まずエアスピンドルサンダーで掛けられるものは、それに依拠し、曲面半径が小さいものをこのオシレーティングスピンドルサンダーで行うという使い分けをしている。
どちらか1つ導入したいが、という場合の優先順位の考え方は難しいかもしれない。
汎用性の高さ(3次曲面への対応も可)、研削力からすればエアスピンドルサンダーを優先させるべきかも知れないし、小さな径に対応させたい、あるいは予算が限られている、入手のしやすさから、ということであればオシレーティングスピンドルサンダーの方になるだろう。
研削力という1点で考えれば、スピンドル径の太いものほど有利というのが常識的な考えであることは言うまでもない。
同時に太いほど面精度の崩れは起きにくいものだ。
さて、こうした機械を設備させずにポータブルな電動工具、あるいはまた手作業で同じ事をやろうとするとどうなるだろうか。
まず作業性は全く良くないことは明らかだが、それ以上に研削精度をこうした工具、手作業で確保することはほとんど無理な注文と言うことになるのでは。
面精度は確保出来ない、均一な研削品質を得ることは至難。
本稿で縷々述べてきたように、サンディングというのはとても大切な工程であるが、仕上げ品質を獲得するために適切な機械設備を確保することが如何に重要なことであるかあらためて考えていきたい。
(ここにおいては「手作り云々」という思考は時に独善的なものでしかないことに気づく)
サンディング機械の記述へ向けたリストの最後に「プロフィールサンダー」を上げたが、これは工場のライン生産のものだろうから、ここでは記述はしない。(経験がないから記述できない)
次回は電動工具の世界でのサンディングを考えていきたい。
(うちのサンディングシステムは機械に依拠しているところが大きいので、電動工具はあまり詳しくはない。さて読むに値する記述が出来るかはとっても不安)
acanthogobius
2007-4-8(日) 15:02
「型板作り → 材料へのスミ付け → 帯ノコでのaboutな切削 → 縦軸面取り盤(あるいはヘビーデユーティールーター)での成形切削 → エアスピンドルサンダーでの研削」という工程の
中でエアスピンドルサンダーの工程では型板は付いていないのでしょうか?
成形後のサンディングなので切削量はごく僅かだと思います。軟らかい素材とはいえ円柱状のスピンドルに材を当てる場合
当て方によっては一瞬にその部分が凹になってしまうと思う
のですが、それを避ける方法は慣れでしょうか?
artisan
2007-4-8(日) 23:19
acanthogobiusさん、いつも良い読者としてコメントいただきありがとうございます。
スピンドルサンダーでの研削工程は画像のように型板を用意したいわゆる倣い成形ではありません。あくまでも素地調整としての研削、研磨ですから。
確かにその取り扱い方によっては過度に研削してしまうリスクが無いわけではありません。
被研削材の進行スピードのコントロール、およびその押し当て方は一定の経験が必要ですが、記事中書いたように、すぐ慣れてしまう程度のものです。
ここで求められるのは、手動の不如意さを機械的精度に高めるというアプローチではなく、やはり木の木目を瞬時に読み込み、これに合わせて適切な研削肌を獲得するという力量の方です。
(例えば過日どこかで記述したように、一旦逆目で研磨し、ひっくり返し順目で仕上げるなどというプロセスを織り込むことなども含め)
機械、道具というのは何につけても、やはり手技の延長という考え方が重要だということになりますね。