工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ナラのワードローブ(その2)

杢楢
このワードローブ、過度な装飾もなければ新奇な造形を持つものでもない。また特段新たな技法を用いたものでもない。
何がポイントかと言えばナラという重厚なイメージの材料を選択し、簡素ではあるがこの材種の特性を活かした重厚なデザインとしたところにあると言えば良いだろうか。
厚めに木取った4本の柱は互平(ごひら)に配置され、帆立には無垢の3枚構成の羽目板がホンザネで継がれ柱と上下3枚の横框に落とし込まれている。
柱はややテリ脚の造形が施され、安定感と重厚さを視覚的に与えている。
上下の棚口は互平の柱からそれぞれやや張り出させ、支輪、台輪のイメージをも兼ねさせる。
扉は框組とせず、左右2枚づつの無垢板をホンザネで合わせただけのもの。
この扉板は、吸い付き桟の機能を持たせ、左右それぞれ3箇所に打ち込まれたナックルジョイント様の丁番へと接合される腕木によって支えられている。
中央のこの吸い付き桟を兼ねた腕木は、それぞれ端末で大きくしゃくり出されハンドルとして機能させている。
あえてデザイン様式を辿ればスパニッシュ風と言えるかも知れないが、お客様への説明では「鎧戸のような」というような言い方をしたりする。
デザインはいろいろと盛り込む必要はない。簡明で、シンプルに。
しかしボクたち木工家はデザイナーが描くデザインプロセスとは異なり、あくまでも木に始まるということにおいて優位性を持つだろうし、さらにはまた木工技法(仕口などの体系を含む)を自家薬籠中とすることで、デザイン領域においても自由が獲得できる。
楢、拡大このキャビネットにそうした木工家ならではの優位性を見ることができるならば木屑にまみれるのも悪くないものだとひとりほくそ笑む。

Top画像は昨日話題にした杢けのある楢だが、帆立の羽目板として木取るべく、厚板を再製材するための基準面出しの合間に撮ったもの(今日はお天気がすぐれず、コントラストが悪すぎた)。
下は拡大(部分)

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  • こんな立派なワードローブに入れる服を私は持って
    いません。ウォークインクロゼットが増えている現在
    この手の家具を注文される方は、やはり木の好きな方
    なのでしょうね。
    この材は以前、仏壇として紹介されていた材ですね。
    その表情とは裏腹に良く安定している材に思えます。
    ひとつ、質問があります。
    柱と横框に落とし込まれた材を帆立とされていますが
    この場合は鏡板という表現は使わないですか?
    帆立というと中仕切りというイメージがあるので
    少し意外でした。

  • acanthogobiusさん、こんにちは。
    >その表情とは裏腹に良く安定している
    仰るとおりですね。樹齢が長く、完全に乾燥していますのでお守りは楽です。
    何事においても(?)若いモノと較べ老齢な方が安定的で落ち着きがあります。
    >柱と横框に落とし込まれた材を帆立とされていますが
    この場合は鏡板という表現は使わないですか?
    記事では
    [帆立には無垢の3枚構成の羽目板がホンザネで継がれ柱と上下3枚の横框に落とし込まれている]
    としていますように、いわゆる側板にあたる側面全体を[帆立]と表現した積もりでしたが、誤解を招く表記だったかも知れません。すみませんでした。
    [帆立]はまた[方立]あるいは[方建]などとも表記されるようですが、どれが正式かというものでもなく、地域により、あるいは業種により、あるいはまた個人的な違いによるものと解釈するしか無いのかもしれません。
    理解の仕方としては“見込み”の枠全体を[帆立]はまた[方立]と解釈すべきで、場合によっては“中仕切り”を[帆立]はまた[方立]と称することも多いようです。(ちょっと余談でした)
    したがって[鏡板]という表現は全く正しく、ボクも一般に良く使用する呼称です。
    この記事では意識して使わなかったわけではないのですが、羽目板は[鏡板]と同意です。誤解を招いた結果を見ればむしろ[鏡板]と表記すべきだったのかも知れません。悪しからず。
    ここ数日よんどころ無い所用でネットアクセス出来ませんで返信遅れました。

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