工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

スパニッシュ風のワードローブ

ワードローブ1

Webサイトにも初期から収めてあるタイプのものと基本的には同じ構成とデザインのもの。
小さな画像ではさほど感じさせないが、現物はとてもボリュームがあるので、なかなか豪壮で存在感を与えてくれる。
加飾を避け、シンプルなデザイン、構成で、無垢材が放つ力をそのまま活かし、いくつかのディテールにおいて良質で高度な仕事を見せるという手法。
これらは注文主の意向でもあり、またボクのデザインと、木工への志向とに合致するものでもあった。
駆体そのものの構成は大型の框組による筺であるということにおいてさしたる特徴を持つものではないが、この駆体に付設する扉において、他には見ることのない固有の構成とデザインを認めることができるだろう。
同時にそれが醸すユニークな構造と美質は全体の品質と存在感を確かなものとしている。
この構成とデザインは独立して間もない頃に自家消費の家具として試作していて、その後間もなくワードローブとして当工房のラインナップにリストされたものだ。
その頃、もっぱら辛口の陶芸家・小川幸彦さん(故人)からはめったにないことであったがどういうわけかずいぶんとお褒めにあずかったことが印象深い。


ワードローブ(内部)その後、幾たびも作り続けてきたが、そのうちの一竿は自宅で現在使用している。
これは特徴の1つでもある、木の丁番の耐久性がどうかという問題の検証のためでもある。
はっきりと申し上げるが、この木の丁番は金属のそれと比し、決して耐久性に劣るとは思わない。
もっと言えば、以下のような理由によってむしろ金属のものよりも耐久性は高いと言い切ってしまおう。
根拠は言うまでもなく、金属は経年変化、環境による汚染により、錆びる、錆びれば劣化する。木も劣化するが、その時間単位ははるかに異なる。
また金属丁番は木ねじによって駆体に緊結されるが、この木部への木ねじという接合手法は、木部と木のほぞによる接合と較べ、果たしてどちらが親和性が高く、耐久性があるかと考えればその意図も理解していただけるだろう。
ま、そうしたロジックでの確証があるものの、実証はしておいた方が良いだろうということで、1竿のワードローブと、同様のシステムの他の2つのキャビネットを自宅で使い続けているが、いずれも全く機能障害もなければ、劣化の兆しもない。
ワードローブ(部分1)
画像:中、下はそのディテールを示すものだが、インディアンローズウッドの丁番をほぞにて打ち込み、これにホンザネで構成される無垢板2枚の扉を貫く、腕木様の反り止めを兼ねた吸い付き桟が伸び、いわばナックルジョイント風に接合され、これを丁番として機能させている、というものだ。
因みに上下3本の腕木のうち中央部は、ハンドルとしての機能を持たせるべく、然るべく大きく削りだし造形させている。
これらの部分にはシャープな面処理を施すことで造形的にもシンプルで簡明なデザインとする。
この扉の特徴的な構成は、無垢板である場合框構造にするのが一般的であるところ、あえて板が持つ力強さを損なうことのない構成とデザインにするために、こうしたホンザネと、吸い付き桟による構造とした。
ワードローブ(部分2)以前、世話になったある家具製造販売の店舗の親方にまるごとコピーされてしまったことがあった(ヘヘヘ、と笑って誤魔化されたが、)。
他にもある知人の建具屋にも真似された。
ただ、イメージだけ似ていても、丁番機能までは作れなかったみたいで、金属の普通の平丁番を使用していた。
習作でやるならばともかくも、よい子はそんな真似しないようにしましょう。
丁番という高度な精度と機能性を要求されるところなので、かなり神経をすり減らしながらの加工となり、あまり薦められるものではないしね。
内部は中央で仕切り、右は下部に抽斗2杯を設け、ロングコートを掛けられるように配置。
左は上下2分割。ジャケット、スカートなどに対応。
かなりのキャパシティーを持つ。
背板は無垢4分板のホンザネによる羽目板。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • ブログへのコメントとは趣旨異なって申し訳有りません
    数年間伐倒放置された 楢 白太 ボロボロ ですが芯材は
    チェンソウが食い込まないほど硬いものがあります。
     外径65CM L5m 片端径60CM です。
    こういったものは 製材して乾燥させると はぎ合わせてテーブル材に 利用可能なものですか?
     茨城県北部で 森林ボランテイアで整備中の平地林の一角に放置されている材です。
     ダメ と言う方と まあ工夫と管理次第と どれくらいで妥協我慢出来るか?だね ! と いろんな意見があって
    、使える と言う確信が得られません。
     多少お金がかかっても 利用できればと思っています・・。
    合掌

  • 森林のボランテイア さん、ご苦労様です。
    まず断っておかねばなりませんが、ボクは残念ながら立木から伐採という経験はありませんので、信頼に値する回答はできません。
    そうした制約でお答えしますと、
    茨城北部というところからは、比較的良いミズナラが供給されるとの話しは聞きます。
    記された数値からでも、なかなか見事な材木のようです。
    ただやはり懸念材料としての長期にわたって放置されていたことのダメージの評価ですね。
    楢の場合はいずれにしても白太は使えませんので、製材後はしっかりこの部分を取り除くことが肝要です。放置されていたということであれば間違いなく虫害が深く及んでいると考えられますので。(一部、心材にまで及んでいる可能性も考えられます)
    とりあえずは通常の原木への評価方法同様、木口を中心に、全体の形状、欠陥、などを良く見て、決断すると言うことになりますね。
    どんな品質のものが獲れるかは結果次第というところがありますが、決定的な欠陥(内部亀裂、虫害、枝=節)が無ければ、ある程度の品質のものは獲れるでしょうから、何らかのモノにすることは可能なのではないでしょうか。
    Do your Best !

  • ご丁寧な ご教示有難う御座います。
    多少の欠陥は 愛嬌として 自分達が 木を生かした と思えれば 嬉しいかな?
     で、もう少し板材の管理と知見を高めて 資金の目処をつけて 板材にしようと思います。
     小口を切って 確認して見ます。チェンソウのチェンも新しいものにして・・。
     また 筋違いの投稿をする可能性高いですが その時はまた宜しく 御願い致します。
                            合掌

  • 森林のボランテイアさん、良い結果がもたらされることを願っています。
    あらためて申せば、最後の乾燥材までの製材、乾燥管理などの諸費用をどのように評価するのか、ということに関わりますが、ご自身で家具などに制作されるというのであれば、市場での価値基準とは異なりますので、可能であればぜひモノにしてやってください。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.