工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ナラのワードローブ

工房ではワードローブの制作に掛かっている。
「木工家具の工房悠」サイトに紹介しているものと基本的には同じデザイン。(こちら
このスタイルのものは過去10台近く制作してきているかな。
多くはワードローブという用途を持ったものだが、いくつかはロッカー風のものだったり、整理棚のようなものだったりと、内部の構成を変えることで様々に対応させてきた。
今回は以前、卓をお買い上げ頂いた方からの注文によるもので、制作に当たってはいくつかの条件が付いた。
中でも絶対的な条件として、扉、および帆立には杢を持つミズナラをふんだんに使う、ということであった。
しかも2尺幅の帆立もこの杢のナラの1枚板でという、かなり厳しい条件が付帯する。
ほぼこの仕事で杢のナラは使い切ることになる。オサラバだ。
このナラと出会って、そしていくつもの家具に使われ、そして残る数枚の用途も決まった。いささかの感慨もあろうというもの。
しかし作品となってお客様のところで楽しんでもらうことが最高の栄誉だからね。
この杢がかったナラ。今はない地元の原木市で競り落としたものだった。
末口70cm,、5m近い長さのものだったが、長さのその半分ほどはひどい虫害で家具材としては使用に耐えられそうにはなかった。
しかし丸太の木口を見ると実に年輪が詰まっており、ざっと見ただけでも200年は越えそうな年輪を数え、その魅力に惚れ込んでしまった。
要するにヌカ目であったわけだが、本来ナラのような広葉樹では過度なヌカ目は避ける。つまりナラの特性である重厚さに欠けることを嫌うからだ。
事実、投票ではあまり対抗する票がなかったのだろう、決して高い単価で入札したワケではなかったが、見事に競り落とすことが出来た。
製材では、まず5mという長さを半分に切り落としたが、片方には虫害にはほとんど侵されることなく、とても良い材が取れた。
一方の虫害を受けた方も、いわゆるアンティーク調の仕上げを持たせることで有効に使ってきた。
何故ならば、このヌカ目のナラは実に素晴らしい木目を有していたからだ。(欧州の木工品にはこの虫害を受けた材が良く用いられている)
皮に近いところ(辺材)には玉杢のような、あるいは葡萄杢のような、多様な細かな杢がびっしりと付いており、とても気品のある材で、それまでも、あるいはそれからもこのようなナラには一度もお目に掛かることのない実に稀少なものだった。
恐らくは同業の士でも、色を隠し、臭いを隠した状態でこの杢を見せても、その材種を峻別できる人は少ないだろうと思われるようなものだった。
天然乾燥を3年ほど。その後人工乾燥に入れ、工場に入ってからは、専ら拭漆の飾り棚などの羽目板などに用いてきたのだが、上述の顧客にこのナラ杢を用いたキャビネット()をお見せしたところとても気に入り、今回のワードローブにふんだんに使うこととなった次第。(本稿、続く、かもしれません)

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