工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

テーブル移動横切り丸鋸盤は無用?

昨日のエントリでは“薪ストーブで暖を取りながらの休憩”に留めるつもりが、筆が滑り加工プロセスを如何にスムースに無駄なく進めるかなどという話しに及んでしまった。また悪いクセ。
この中で横挽き丸鋸での胴付き加工について触れてしまったのだが、滑りついでにこれについて少し敷衍してみよう。また開き直り。
所謂ホゾの胴付き加工のプロセスのことなのだが、ボクはよほどの理由がない限り丸鋸昇降盤で行う。
当たり前じゃん、と眉をひそめるそこの人、そうばかりではないようなのだよ。
タイトルの「テーブル移動横切り丸鋸盤」でこれを行う人もいる。
せっかく横切り盤があるのだから、とばかりにね。
確かに木工所ではこの「テーブル移動横切り丸鋸盤」が設置してあることは多い。
この機械は汎用性も高く、切削性能力も高い。おおいに活用されるべきものだ。
他でもなくボクも工房開設にあたり様々な木工機械を設備したが、新品で購入したのは確かこの横切り盤だけだったような記憶がある。

ここでちょっと余談。昔J・クレノフ来日時の高山でのワークショップに参加させていただいた時のこと。機械設備のことについて印象的なことがあった。
この「テーブル移動横切り丸鋸盤」を前にして、氏は
… ? 何故こんな機械を必要とするのか
スタンダードな丸鋸昇降盤を使いこなすようにしなさい。
と、訝るのだった。
(一方超仕上鉋盤には強い関心を示し、少年のような笑顔で幅広の鉋屑をカバンにこっそり忍ばせたのは見逃さなかったが←本件記事には無関係なエピソードだが)

さて、ほぞの胴付き加工。この「テーブル移動横切り丸鋸盤」でも確かにできるだろう。しかし実はいくつかの点において非合理的な方法であり薦められるものではない。
ここは丸鋸昇降盤に譲るべきものと考えたい。
以下、理由を列記。

  • そもそも「テーブル移動横切り丸鋸盤」という機械は工房スタイルのような機械設備においてという制約のある環境では、長さを切る、パネルを切る、傾斜でカットする、などといった“丈決め”に特化すべき機械と認識したいもの。この加工プロセスでの有用性は高いものがあるからね。
  • ほぞの胴付き加工というものは例えば1つのキャビネットなどの場合、ほぞの長さなどは1つ、あるいは2つといった極小の単位での共通事項となる。
    したがって丸鋸昇降盤に1度フェンスと刃の出をセットしたならば、部位が異なるホゾ加工であっても、ほとんど1度のセットで加工が進む。部品の寸法に関わりなく一定のホゾ胴付きが施される(もちろんその前提において、総長さの精度が要求されることは言うまでもないが ← この丈決め加工に横切り盤が活躍する)。
  • また如何にレール上をスムースに摺動する「テーブル移動横切り丸鋸盤」とは言っても何10Kgという重さの移動定盤を操作するよりも、数Kg単位の軽量の三日月定規(Mighter定規)の方が数倍のスピードではるかに軽快に行うことができることは理解してもらえるだろう。
  • なお、框モノのホゾの胴付き加工の場合、可能な範囲(手で掴める量)で複数の部品を一気に加工することも重要。
    何故ならば、▼切り落としの際のバリの影響を極小に留めることができる、▼フェンスとの間のゴミの付着などで胴付き寸法がビミョウに違ってしまうケースでのチェックが可能となる(複数並ぶことで、胴付きのラインが直線であるのが正常のところ、その中でずれているものを瞬時に視覚的に確認できることでミスを防止できる)、▼無論加工スピードははるかに向上する。

因みに当地静岡は量産家具産地で数多くの下請け木工所があるが、物置小屋のような工場に軸傾斜丸鋸昇降盤を1台だけ設置して、様々な加工をしているところも実はあったりする。
この職人らの昇降盤使いの見事な様は惚れ惚れとしてしまう。
曰く、何、横切り?、そんなもん邪魔くさいわ、などと。
今日はホゾ加工における機械選択について少しだけ取り上げたが、工房には様々な機械が導入設置されていることと思う。それぞれに汎用性があり、共通の加工機能を持つ物も多いもの。
これを合目的的に使うための選択基準を設け、適切に使い分けることが肝要ではないだろうか。
例えばもう一つだけ簡単な事例を上げてみれば、坊主面を取るのにハンドルーター、あるいはトリマーで取る人も多いのかと思われるが、丸鋸昇降盤が設置してあるならば、坊主面のカッターを購入して、これを用いての加工の方がはるかに良好な作業環境で高精度(周速度における圧倒的な差異による切削性能の差←切削肌が美麗。逆目にも強い)でスピーディーな加工ができると言うように。
なお、ここではホゾ取り盤でのほぞ加工の方式については無視した。
工房スタイルのところではあまり設置されていないだろうからね。
でもこのホゾ取り盤のホゾ取り加工は、上述した手法とは全く異なり、総丈には関係なく常に胴付き間寸法が同一になるような方式であるところに独自の機能性と、作業性の高さがあるのだが、ここでは詳述を避けたい。
……以上、木工機械加工技法向上委員会、あるいは丸鋸昇降盤徹底使い倒し委員会 書記ヨリ(仮称 笑)
*画像下
丸鋸昇降盤での框組、60wの横桟4本を一度に胴突き加工しているの図
胴付き加工
*補記 (07/11/22)
ほぞの胴付き加工は横切盤ではなく丸鋸昇降盤に譲るべきもの、という理由に以下の1項目を付加させていただきます。

  • 椅子のようないわゆる曲者(クセモノ)と言われる傾斜を伴うホゾ加工の場合を考えてみよう。
    3次元での傾斜を伴うようなケースなども丸鋸昇降盤であれば難易度が高まるとはいうものの、特段ジグなどを作成しなくとも加工が可能。
    また左右の勝手の違いでもそれぞれに対応が可能。
    対し、横切り盤では鋸の傾斜は同様に可能なものの、移動定盤側の傾斜は専用の角度フェンスを用意するか、ジグを作成しなければ対応が困難となる。
    またこちらでは左右の勝手の違いに対応させるのはとても困難。
    テーブル移動横切り丸鋸盤というものはシンプルな丈決めプロセスで使用に供される有用なものではあっても、ホゾ取りを含む細かな加工に対応させるにはそのガタイの大きさ、機能性からしてふさわしいものではない。

なおテーブル移動横切り丸鋸盤には固定定盤が大きく2軸になったものもある。
これはいわゆる軸傾斜丸鋸昇降盤と同様な機構を付加させたものであり、それなりに有用と考えられるが、しかし2軸であることから危険性もあり、単機能のものと較べ作業性は決して良くないと思われる。

《関連すると思われる記事》

                   
    

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.