工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

電動工具界におけるDewalt社の野望と進化著しいツール

ここ数年、DEWALTという米国の電動工具メーカーが何かと話題を提供しています。
私自身ユーザーであり、なおかついくつもの記事を上げているにも関わらず、この会社についての基本的なプロフィールも良く知りませんでしたので、少し調べてみました。

日本の代理店について

DeWALT日本の商品展開

DeWALT日本の商品展開

日本での代理店は〈ポップリベット・ファスナー株式会社〉という会社のようです。

ご覧のように取扱商品のラインナップをみれば、まだまだ限られたもので、残念ですが木工ツールという分野ではあまり力を入れていないように感じられます。

DEWALTが展開している電動工具は、いまや日本のマキタ同様に様々なジャンルへと拡張されているにもかかわらず、ですね。

この代理店〈ポップリベット・ファスナー株式会社〉ですが、元はブラック&デッカー社の代理店であった経緯から、本国の経営再編成に併せ、そのままDEWALT社の代理店へと移行したものと思われます。

いずれにしましても、DEWALT社の木工関連のツールを求めるためには、日本市場からは無理ですので、当面は米国の通販会社サイトへとアクセスするしか無いという現状に変わりは無いのかも知れません。

ただ、次回に触れる予定ですが、日本の工具メーカーとの一部商品開発における連携も見られるところから、一部機種では将来的には日本国内での入手も可能になるのかも知れません(あくまでも可能性の話しですが)。

また、この代理店展開などを含む購入ルートにおける国内、海外の選択の問題は意外とビミョウです。

この「ビミョウ」ですが、何を意味しているか、少しお話します。


かなり昔のことになりますが、埼玉全域で展開していたホームセンター・ドイトという店舗が、この黄色いボデーのDEWALTを取り扱っていましたが、今はどうなのでしょうか。
代理店展開が変わったことで、無くなってしまっていることも考えられますね。

代理店展開の“功罪”

例えば、ある海外メーカーの商品展開において、全面的に国内販売網が代理店により整備されたとします。
購入のアクセス、その手法は大いに簡便になることは言うまでもありません。

しかも、保証期間における修理対応も国内であれば安心というわけです。
しかし他方、そうしたメリットだけではなく、逆の面もあることは見逃すわけにはいかないのです。

1つの事例を上げればご理解頂けることでしょう。
FESTOOL社の電動工具の商品の取り扱いに象徴されていますので、少しその事例を紹介しましょう。

私が最初にこのFESTOOL社の商品を購入したのは、OF1400という、大変優れたハンドルーターでした(本Blogより)。

DeWALT Woodworking PowerTool

DeWALT Woodworking PowerTool

その頃は、米国の木工ツールの通信販売会社のいくつもが、このFESTOOL社の商品をラインナップし、日本にも他の商品同様に、何らの足枷も無く送り届けてくれていました。

当然にも価格は、米国市場と同一であり、そこに輸入にともなう搬送費用、時には関税が掛けられるだけで、まずまずの納得の経費で手にできたものです。

その後、木工関連の電動工具界に衝撃的なデビューを果たした同社のDominoも同様に米国の通販会社から容易に入手できたものです。

鉋イラスト

ところが、その後、ドイツの家具金具の一大販売会社であるハーフェレジャパン社が、このFESTOOL社の日本における正規代理店となり、その時点から、米国からの個人輸入は大変困難を強いられることになったのです。

ご存じの通り、ハーフェレジャパンでは、ドイツ本国、あるいは米国直営店での販売価格の2倍〜2.5倍ほどの価格帯で展開しはじめたのです。
これには大変驚かされたものです。

これでは、一部富裕層の趣味的なツールとしてはありがたがられたのかも知れませんが、第一線で活躍する木工関係者からはとうぜんのように総スカンされたのは言うまでも無いでしょう。
使われてナンボの工具が、高嶺の花では話になりません。

鉋イラスト

さて一方、日本国内における代理店展開を受け、米国からの個人輸入はとても困難になりました。日本向けには出荷しない規制が掛けられることになったのです。

まさに非関税障壁的なゲスな取り扱いとなり、FESTOOL社とエンドユーザーとの距離はこれを機に大きく遠ざけられてしまうという経緯でした。

少し余談ですが、これは電動工具だけの話しではありません。
私は30年ほど前から、米国のアウトドア商品で有名なL.L.ビーンなどを米国から購入していました。
当時はインターネットやメールなどはありませんので、国際電話でのFaxとクレジットカードでの発注方式でした。

ところが15年ほど前、このL.L.ビーン社が日本に進出したところ、米国の価格とは大きくかけ離れた高価な価格帯で国内展開が始まったわけです。
私はUSAから個人通販で正規な価格で購入していた経緯からすれば、米国市場とはかなり異なる価格帯での購入などできようもありませんでした。

さて一方、その後も米国からの購入もそのまま可能ではあったのですが、しかしどうでしょう、日本向けには独自のカタログが編集制作されたようで、国内での購入とほぼ変わらぬ価格帯に改変されてしまったという経緯がありました。
言うまでも無く、日本での代理店展開を守るための処置でしょう。

まぁ、私は天の邪鬼でして、国内で広く知られ、普及してしまった後は、むしろ魅力は半減されてしまうので、その後はL.L.ビーンには全く手を出さず、日本ではほとんど普及していない他のブランドに移行したというだけではあります。

余談が長くなりすぎましたが、戻りましょう。

Dewalt社とは(沿革)

創業者Raymond Dewalt氏

創業者Raymond Dewalt氏

同社Webサイトなどを参考に、この会社の沿革を見てみましょう。

創業は1922年。ラジアルアームソーの発明者だった、Raymond E. DeWalt氏が創業者です。

その後、戦時中の軍事需要などで大きく成長したようです。

戦後、1947年に再編成された後、1960年、Black&Decker社に身売り。
この辺りの経営判断などの経緯はよく分かりません。

Stanley Black&Decker 社傘下のブランド

Stanley Black&Decker 社傘下のブランド

しかし近年、Black&Decker社はいわゆるホームセンター向け、つまりアマチュアユーザー向けの商品展開でそのブランド力は落ちていく一方だったのでしょう(こちら)。

そこで新たな経営刷新でブランドイメージを上げるため、Black&Deckerブランド名をブラインドさせ、これに替え、〈Dewalt〉ブランドを再興し、強力なブランドイメージを作り上げ、プロユーズに再編成していったようです。
大きく舵を切ったのですね。

1994年、ドイツのELUを買収(私はビスケットジョインターでこのELU社に注目していた時期があります)。

さらにその10年後、国内でも愛好者が多いと思いますが、優れたハンドルーターのメーカーであったPorter-Cable社を買収

現在はStanley Black&Decker(Black&Decker商品を扱う会社では無く、DeWALT社を含む、複数ブランドを傘下に置く親会社)社の傘下の下、世界各国から部品を調達し、これを米国国内7ヶ所の工場でアッセンッブリ、製造し、現在にいたります。

Dewaltブランドのスマホ

DeWALT Phone

DeWALT Phone

少し驚きましたが、Dewalt社では2m上からコンクリート床に落下させても平気で、-20℃〜60℃の温度範囲で動作保証するという、ガテン系向けヘビーューティー仕様のアンドロイド、スマートフォン、DeWALT PHONEまで作っているようですよ。(英国BBCによる関連報道)

日本のキャリアに対応するかどうかなど、その詳細な仕様については良く分かりませんが、
GSM 850/900/1800/1900 MHz、WCDMA 850/900/1900/2100 MHzにそれぞれ対応しています。
関心のある方は、3G、4G LTE、およびそれぞれの帯域など、どこまで対応するのか、キャリアが公開している情報と照合してみてください。

とにかく頑丈に作ったので、先進的な機種ではありませんよ〜、というものではなく、4G、Dual SIM、IP68(耐水等耐久性)、Q1 Charging(ワイヤレス充電)など、スマホの最新技術を搭載し、同社電動工具とのアプリを介した操作なども試みているようです。
あっぱれ! ですね。

日本のマキタにもヘビーデューティなスマホを作ってもらいましょうよ。
ルンバとおなじような掃除機ロボットも作っているマキタですので、その気になりさえすれば・・・(苦笑)

〈DWP611〉と、系列メーカーによる派生的な機種の市場展開

前回投稿も含め、何度も取り上げてきたコンパクトルーターの〈DWP611〉も、実は買収したPorter-Cable社のハンドルーターの基本構造を移植した(ハウジング本体に刻まれたスクリュー溝に沿い回転させることで、任意の刃物高さ設定が可能となるPorter-Cable社固有の機構)ことによる、画期的な商品開発であったわけです。(「トリマー DEWALT〈DWP611〉という優れもの」

というよりも、この〈DWP611〉はDewalt社傘下のPorter-Cable社による製造とみなすことができるでしょう。

Dealt社の傘下に納まったものの、現在もPorterCable社ではこれまで同様、ハンドルーターなどの製造販売は行っています(こちら)。

このラインナップをご覧いただければお分かりのように、Porter-Cable社は、このコンパクトルーターの〈DWP611〉と瓜二つの商品を市場投入しています。(Model #450、450PK

たぶん、設計のほとんどは同一ですが、PorterCableの方は一部機能を制限し、廉価で市場展開させているのでしょう。

  • DEWALT〈DWP611〉は可変速であるのに対し、PorterCable〈450〉は固定速度。
  • DEWALT〈DWP611〉はLEDランプがデュアルであるのに対し、PorterCable〈450〉は単体。
  • ベースもDEWALT〈DWP611〉の方が多彩。


さて、ここ5年ほどで電動工具業界に留まらず、建築、土木におけるファスニングなどケミカル分野にも進出するなど、急速に伸張してきているこのDeWALT社ですが、充電電動工具においては、20v、60vという高電圧バッテリーパックの開発など、そのラインナップの拡張などを見れば、大きな成長株であり、業界の雄のポジションを獲得しつつあるように窺えますね。
今後も注目していきたいと思います。

今後、このDeWALT社の商品は日本国内でも関心を呼んでくるものと思われますが、当然にも気掛かりな日本における代理店展開ですが、上述した事情もありますので、あまり期待しないというのか、Festool社の商品展開の二の舞に陥らぬよう、ご配慮いただきたいと申し上げておきましょう。

本稿、もう少し続けたいと思っています。
実は、このDEWALT〈DWP611〉と似たようなトリマーが日本国内で市場展開しており、それについて検証していく予定です。

hr

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