工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

講壇、あるいは説教壇(Pulpit)

講壇

教会で牧師が説教するための壇です。
牧師からの依頼で制作しました。

いくつもの意匠を提案させていただき、最終的に残ったのがこれです。
この意匠は必ずしも教会という特異な場における壇というものでもなく、一般的な講演台などにも用いられるデザインかもしれません。

構成と特徴

駆体は凸型の断面を持ち、上部のテーブルトップの部分は〈〉の形に傾斜させた枠が特徴的です。

この凸部分に合わせ、台輪も様式的と言えば良いのか、少しデコラティヴに構成しています。
駆体のボリュームと上部枠部位のボリュームの差があるため、これだけの台輪が必要とされたというところです。
そのため、これ自体、なかなかやっかいな作りではありました。

この講壇ですが、まずは何よりもマホガニーで制作して欲しいとの必須の条件が。
私がホンジョラス産の真正マホガニーを在庫してることを良く知る顧客でもある牧師からの依頼でした。

在庫する限りあるマホガニーの中から、最上品をふんだんに用いたものです。
いずれも矧ぎ無しの1枚板で構成しています。
教会の講壇を なんちゃってマホガニー(アフリカ産など、名称だけはマホガニーを僭称しているものの、その実 似て非なる材種)や、複数枚の矧ぎで構成するなどはもっての他ですから。

またこうした逸材を使うからには、納期がタイトであるとは言え、通り一遍の制作スタイルで済ますこともできず、顧客の期待以上のもので応えていくのが木工職人の心意気というものですので、力の入った制作でした。

講壇

仕口等

凸型の駆体、および上部の枠も、これらは全て留めで接合しています。
この辺り、どのように堅牢性を持たせるかも制作上の1つのポイントでしたが、30年後、50年後の状況を視てみたいものです。

聖書を置くための書見台も同じくマホガニーで制作しましたが、盤面はマホガニーの枠にローズウッド柾目の厚突きを展開張りしたものを落とし込んでいます。趣を持たせたわけです。
渋いコントラストが醸され、独特の雰囲気が出るものです。

支える傾斜状の左右の脚部は、それぞれ竣工年と教会のイニシャルを透かし彫りしています。
書見台のこれらの仕様は顧客からの要望ではありませんでしたが、制作途上に思いつき、試みたもので、いわば作り手の心意気です。

設計見積段階では、依頼者である牧師を越え、教団の審査もあり、何度ものやり取りを経ての設計見積でしたが、結果、関係者の方々には大変喜んでいただきましたので、深い安堵を覚えたものです。

いわば聖なるものの調度品であり、そうした特異なジャンルのものを専門的に制作しているわけでもない木工房に依頼する事へのリスクもあったでしょうが、牧師との徹底したディスカッションを経ることで、このジャンルの調度品を専門的に制作しているところの品質に負けない、優れたものを生み出す機会が得られたことには感謝するばかりです。

また、これもホンジョラスマホガニーという材種の品質と魅力に助けられてのことという側面は無視できず、こうした貴重な制作機会に備える在庫管理の重要さをあらためて思わされるものでもあったのです。

hr

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  • お見事 格調 正調 フォーマル ノーブル  リッチ 存在感 
    材料がはっきりもの言う世界ですね。
    辻パイプオルガン 辻さんは、楢F!でもおなじで
    刃物アタリよく、仕事が綺麗で速い クライアントはうっとり 素材力が高いと全てが順調、疲れを識らず。カメラマンも物はよいと撮影のクオリティ、評価はたかく、疲れないそうです。
    ナポレオンはじめ、目の色かえた稀少材 侵略、略脱の歴史 アフリカ・中米の悲劇は木材貿易支配から。もう地上にはないので平和ですかね。
    キコレオンAB

    • マホガニー時代とも称された18世紀。確かに欧米の材木業者が奪い合うように伐採し尽くし、はげ山に。
      残された限りある材木を用いる私も罪深いものです。
      それだけの稀少材とあって、確かにこうして視ると、美しい輝きを放ってると思いますよ。
      仰る通り、良材は仕事も快適ですし、木工を心から楽しむ事ができますね。

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