工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

建具の制作


以前よりいくつかの家具を誂えさせていただいている顧客から住宅の建具の制作依頼があり、何度かの現地打合せを経、目下制作の途上。

うちの業務内容は家具制作がメインであり、建具制作を積極的に請ける態勢には無いわけですが、この顧客がたまたま我が家に訪問された折り、住まいに納まっている自作の建具を興味深く見入り、悠さんは建具も作るんですか、では、うちのもぜひに、との経緯。

今回の建具は13種、40枚ほどのボリューム。

用材の確保

あらたにタモ材の柾、40mm、天然檜の柾、40mmなど、それぞれ良質な材を手配。

私の家具制作においては、普段はタモ材を積極的に用いることはありません。
板目のあの大柄な木目はあまり好ましく思えないといった、極々個人的な嗜好からの忌避ですが、建具の材となれば、針葉樹の桧を別にすれば、このタモ材に信頼をおくことにためらいはありません。

言うまでも無く、柾目の通直性においては他材種を圧するからですね。
なにゆえ柾目の通直性を尊ぶのかと言えば、まず何よりも経年使用、季節変動における安定性がバツグンだからですね。
建具の框ほど、反張を嫌い、寸法安定度を嫌うものはありません。

加えて、通直性があるというのは、住宅の1つの大きなエレメントにおいて、気品があるからです。
大柄な木目というものは木を愛する人であれば誰しも好ましく思うところですが、壁面いっぱいに建具が並べば、その好ましさも一気に興醒めし、うざったく思わされることでしょう。

同様に、このタモ材の白さが好感されるということもあるでしょう。白を基調とした材色は空間に馴染みやすいものです。
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『〈木〉と修復・保存』講座のご案内

MoMA(ニューヨーク近代美術館)に席を置き、館内の美術工芸品の管理、修復の業務に携わっておられるRoger Griffithが来日され、本年5月末に開催される、松本クラフトフェアに併せ、タイトルに記した講座が開催されることとなりましたので、ご案内いたします。

〈木〉と修復・保存

  • 会期:2017年5月27日(土)16ー18h
  • 会場:県の森文化会館 本館(旧制 松本高校・信州大学キャンパス跡地、重要建造物)
  • 講師:Roger Griffith(ニューヨーク近代美術館 修復保存部門 Associate Conservator)
  • 受講費用:4,000円(当日、会場にて徴収)
  • 主催:木の大学講座運営委員会(代表:阿部藏之・平田哲生)
  • 申込方法:主催者の阿部蔵之氏のBlogにある「受講申込書」をダウンロードし、申し込んでください。

講師 Roger Griffithさんのプロフィール

Roger_Griffith__MoMAMoMAでの職務に就く以前は、James Madison Universityでファインアート・包括 デザイン・グラフィックデザインを修学。

その後〈College of the Red
woods Fine Wood working Program〉カリフォルニアの州立木工芸短大「カレッジ・オブ・ レッドウッド」において世界的木工家 J・クレノフ氏の下でに学び、
さらにその後、英国 ロイヤル カレッジ オブ アート/ ビクトリア アルバート ミュージアム大学院(Objects & Furniture)を経るという学識を積み上げてきた人でもあります。
学位:MA – Masters of Art Conservation (Objects & Furniture)

実務としては、メトロポリタンミュージアムアート部門、STEDELIJK MUSEAM(Amsterdam)を経、1998年、現在のMoMAの職場へと移籍しています。

この間、彫刻、オブジェ、装飾美術の修復保存に携わる中で、木はもちろん、プラスチック、セラミック、漆、紙など様々な素材の研究、実務で研鑽を積み、現在は所属するMoMAでの実務の他、大学、美術館関連部門での講演など多彩な活動を展開中です。

現在、Roger Griffith氏はMoMAから長期休暇を与えられ(こうした職場では、一定期間を勤め上げると、半年単位ほどの休暇を与えられるようです)、来日し、国内での調査研究(遊学?)や大学(武蔵美、東京芸大、京都大学、福岡大学、東北大学など)、美術館(森美術館、大分県立美術館など)でのレクチャー、講演、
さらには韓国へと脚を伸ばし、同様に大学(ソウル大学他)、美術館(国立近代美術館、光州市立美術館など)でのレクチャー、シンポジウムなどに参加され、研究調査活動を展開中とのことです。
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七回忌を迎える3.11震災被害(続

メルトダウン原発の廃炉への道は見えてるか

震災後、必死になって読みあさった資料、文献の一部

3.11大震災が深刻だったのは、大きな地震と史上稀にみる巨大津波の威力とともに、何よりも原発の過酷事故による被災というところに大きな特徴がある。

  • 影響を及ぼす範囲が地球規模という広域性
  • 膨大に放出された放射性物質Cs-137(セシウム137)の半減期が30年という、影響を及ぼす時間軸の長大さ
  • 目には見えないものの、人間が生存することを拒否するその猛毒性の深刻さ

これまで幾たびも日本列島は大地震に見舞われ、大きな傷跡を残しつも、しかしたくましく復興させ、生活基盤を再生してきた歴史だったとも言える。

しかし3.11大震災は、この原発過酷事故を伴ったために、復興の歩みは他の震災とは大きく様相を異にしている。

福島第一原子力発電所(以下、F1)の過酷事故。4基のうち3基までが炉心溶融(メルトダウン)の壊滅的破綻を起こし、既に6年。

このF1は当然にも廃炉決断へと追いやられ、日々漏洩する汚染水対策とともに、人類未踏の難事業に取り掛かっている。
しかし廃炉への具体的方策は未だに見いだせず、断片的に伝えられる報道からは、6年を経た現段階でもなんらポジティブなものが見いだせないという状況。

以下、小出裕章氏のF1(福島第一原子力発電所)・2号機の現状解説の一部を引用する

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七回忌を迎える3.11震災被害

2011年3月11日、北関東から東北一帯、沿岸部に襲いかかった震災被害から今日で6年を迎える。

私たちの生活に深く根を下ろしている仏教の概念からすれば、犠牲者遺族にとっては七回忌と言うことになる。
その数、15,891人。

さらに、6年経ち、未だに行方不明者としてリストされる2,584人を加えれば、18,475人という数になる。
福島県下で、あるいは全国に散らばった避難先で、犠牲者遺族の法要が執り行われたものと思う。(人数は警察庁、2014.03.11現在)。

行方不明者の家族にとり遺体が揚がらぬままに迎える6年目をどう受け止めているのだろうか、その胸中は安易な想像を拒否するほどのものがあるだろう。

そして未だに沿岸部に向かい、我が子を捜し求めスコップを振るう親、あるいは新たに潜水士の免許を取り、海中に娘の姿を探し求める親もいるとのこと。

通常の死者との関係で考えれば、故人を意識外に置き、弛み無く日常を送りつつある遺族もこの日ばかりは故人に向き合う場というものが七回忌ということになるのだろうが、3.11犠牲者遺族にとっては、それほど単純では無い。

今日、政府主催の追悼式が執り行われた(福島や仙台で無くて、なぜ東京でなのだろう?)が、これに併せ毎年決まって開かる記者会見は開かれなかった。
「節目」だからだそうだ(ハフィントンポスト)。


なるほど、6年という月日の流れは節目と言われるほどの時間の単位なのか。
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小さなキャビネット

ケンポナシ(玄圃梨)の壁掛けタイプのキャビネット。

80年代末期の制作。
私が木工を初めて数年後の習作。

少し前、旧い工房を整理していたら出てきたもの。つまりは死蔵品。

想い起こせば、1988年の夏、J・クレノフ氏による高山でのキャビネット講座があり、そこではクレノフ氏自身による指導の下、1つのキャビネットを制作したのですが、その後、この経験を元に、地元開催の原木市で買い求めたケンポナシの根上の杢を木取り、クレノフスタイルの小さなウォールキャビネットの制作に挑んだというわけです。

懐かしく、気恥ずかしく、またちょっぴり思い入れのある習作ですね。
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グローバル世界と国民国家への回帰の狭間で(トランプの時代)続

トランプをひと言で言い表せば帝国としての世界大的な展開が困難になってきた時代、この転換点に生起している様々な歪み(国内外の経済的分断、人種的、宗教的分断など)からくる国家としての沈滞を、右翼ポピュリズム的手法で打開しようとするファシズムの1つの政治形態なのだろうと考えている。

その具体的手法ネオリベラリズム(新自由主義)とナショナリズムの組み合わせだ。
それがトランプの既成政治支配層・エスタブリッシュメントへの憎悪であり、法的手続きの無視であり、移民の排斥であり、批判を許さないメディア弾圧であり、女性、LGBTQ、黒人、有色人種への差別偏見であり、恐怖政治の創出として表れていると理解することができる。

ただ孤立と保護主義を「アメリカ・ファースト」とポピュリズム的物言いで一方では語りつつ、他方で「アメリカを再び偉大な国にする」と世界的ヒエラルキーへの欲望を語る、この相反する矛盾をどう理解すれば良いのか。

結局は「自由と民主主義」というソフトパワーを掲げつつ、世界大的な軍事展開も止めない、という方向は見えつつも、果たしてこの矛盾がどう展開され、収斂していくのかが理解できるまでにはかなりの時間も必要になるようで、現段階では全く未知数。

でも、そうはいってもそれが多くの人に見えてくるまで、既に生じているような暴政による市民の人権への侵害などを無視することもできない。

既に欧州の主要国ではこの2017年、いくつかの国政選挙があり、トランプのサプライズ的な勝利に浮かれ、励まされ、右翼ポピュリズム政党が勢いづいている。
1年後の本年末、私たちの前にどんな世界が表れるのか、悲劇的な様相を見せることは無いだろうとする楽観的な予測など誰もできないほどに、世界は流動化している。

進行しているトランプの矢継ぎ早の大統領令に目を奪われがちな今だからこそ、ここでいったん立ち止まり、いったい何が起きているのか、冷静に見据えていきたいと思う。

世界を司ってきたこれまでのシステムは構造的疲労を起こし、このままの延長線上に予定調和的な未来を展望することなどできないと言うこと。
弥縫策を講じようとも、それは単なる一時しのぎでしか無く危機の先延ばしでしか無いこと。

今はそうした新たな世界システムへの大きな転換期として、そこでのギリギリとした軋轢による歪みの1つとしてトランプ現象が現れている。
例えこれに翻弄されがちであるとしても、トランプ現象のその先にかすかに見え隠れしている対抗現象を捉え、良く考え、あるいは指標としつつ、歩み始めることだろうと思う。

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グローバル世界と国民国家への回帰の狭間で(トランプの時代)

はじめに

米国トランプ政権は波乱の幕開けのうちにスタートしたようだ。

President Donald Trump acknowledges the audience after taking the oath of office. REUTERS/Jim Bourg

就任時、20日のワシントンD.Cも大荒れだったようだが、翌21日の〈Women’s march on Washington〉は会場周辺に50万人、全米では100万人がトランプへの抗議に声を上げたと言われ、キング牧師が率いたあのワシントン行進以来の盛り上がりを見せていたというし、国境を越え同じテーマで世界中で470万人が行進したとされ、これにはホント驚いた。(下のELLEが発信した記事に詳しいので参照してください)


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ブラックチェリーの李朝棚

李朝棚スタイルの飾り棚です。

2017年、新年の賀状に用いた新作です。

こうした飾り棚ですが、過去、様々なスタイルで作り続けてきたジャンルであり、私にとっては欠かせないものです。

ショールームに鎮座していた同種のものが買い求められ、それに代わるものとして制作しました。
ただこのブラックチェリー材では初めてのことで、どのような表情を見せてくれるのか、私としても気掛かりでもあったのですが、この材の淡く柔らかな赤身が映え、良い仕上がりになったと安堵したところです。
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《Shaper Origin》の驚き

2017年が明けましたね。
本年もこのBlogの運用を通し、日々の活動を記したり、思考のプロセスを残したり、さらには木工関連の情報を共有したりと、これまで同様に活用していこうと思います。

どうぞ本年もヨロシクお付き合いください。
そして遠慮なくコメントを入れてください。

コメント投稿ですが、これまで過去に1度でも投稿したことがあれば、[submit]ボタンを押せば、そのままダイレクトに反映し、ただちに表示されます。

初めての場合は、管理者(私)による認証のプロセスを経てのものになりますが、Macから離れている時間帯は無理としても、数時間後、あるいは数日後には反映するはずです。

さて、本年初のエントリですので、少し明るい話題をと考えてみましたが、なかなか見いだせないというのが正直なところですが、ただ1つ、近未来(数ヶ月後という程度の)にリリースされそうなマシンがありますので、これを紹介させていただきましょう。

過去、本BlogではFestool社のDomino、およびハンドルーター(OF 1400EQ)など、いくつかのマシンを国内のこうしたインターネット世界では最初に紹介してきたわけですが、今回はどうなのでしょう。
今現在、国内の木工関連のサイトからの発信はなさそうですが、ご覧になった方はいらっしゃいますか?

しかし、米国の木工関連ツールの販売店サイトなどには昨年6月頃から関連記事が上がっていましたので、知っていらっしゃる方は少なく無いかも知れません。

私も忙しさの余り、あまり深く追求することなく推移し、どなたかが発信されるのを待っていたわけですが、発売まで時間切れになりそうなこの時期、やや中途半端な記事にならざるをえないという限定的な条件をお許し頂いた上で、触れて見たいと思います。

さっそく紹介しましょう。
《Shaper Origin》というマシンです。

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ハシバミの効用と、視覚的美質と、経年変化への怖れ

ハシバミとは

ハシバミ(端嵌?orハシバメ?)は無垢材を扱う木工の仕事においては比較的一般に広く用いられる手法の1つです。

私のハシバミ(裏側)

私のハシバミ(裏側)

無垢材は置かれる環境(湿度=大気中の水分量)の状況変化により、間違いなく反ろうとします。
木は伐採してしまえば死んだも同然と思いがちですが、さにあらず、いくらでも動こうとします。
樹種により多少の差はあるとしても、あるいは同種の木であってもそれぞれ固有の条件で反ってしまうものなのです。

家具などに木部を取り入れる場合、このような特性をそのままにしておくわけにはいきませんので、何らかの方法で反りを止めねばなりません。

これには、人々が古来から編み出してきたいくつかの手法があるわけですが、表題のハシバミもその代表的な手法の1つというわけです。


私のハシバミ(表側)

私のハシバミ(表側)


木の物理的特性として、反るのは繊維方向と直交する側、つまり木口側になるので、ここに反りを止めるための板を嵌め込む手法がハシバミです。

繊維方向と直交する側に、無視できるほど反ることの無い繊維方向の部材を結合させ、全体の反りを止めようという手法です。
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