工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

建具の制作


以前よりいくつかの家具を誂えさせていただいている顧客から住宅の建具の制作依頼があり、何度かの現地打合せを経、目下制作の途上。

うちの業務内容は家具制作がメインであり、建具制作を積極的に請ける態勢には無いわけですが、この顧客がたまたま我が家に訪問された折り、住まいに納まっている自作の建具を興味深く見入り、悠さんは建具も作るんですか、では、うちのもぜひに、との経緯。

今回の建具は13種、40枚ほどのボリューム。

用材の確保

あらたにタモ材の柾、40mm、天然檜の柾、40mmなど、それぞれ良質な材を手配。

私の家具制作においては、普段はタモ材を積極的に用いることはありません。
板目のあの大柄な木目はあまり好ましく思えないといった、極々個人的な嗜好からの忌避ですが、建具の材となれば、針葉樹の桧を別にすれば、このタモ材に信頼をおくことにためらいはありません。

言うまでも無く、柾目の通直性においては他材種を圧するからですね。
なにゆえ柾目の通直性を尊ぶのかと言えば、まず何よりも経年使用、季節変動における安定性がバツグンだからですね。
建具の框ほど、反張を嫌い、寸法安定度を嫌うものはありません。

加えて、通直性があるというのは、住宅の1つの大きなエレメントにおいて、気品があるからです。
大柄な木目というものは木を愛する人であれば誰しも好ましく思うところですが、壁面いっぱいに建具が並べば、その好ましさも一気に興醒めし、うざったく思わされることでしょう。

同様に、このタモ材の白さが好感されるということもあるでしょう。白を基調とした材色は空間に馴染みやすいものです。

また市場からの調達は比較的潤沢だと言うことも上げられます。
建具と言えば、タモ材、というのは1つのセオリーのようなものですので、国産材の流通が少ないのは時代の趨勢ではあるものの、それに代わるロシア材はまだまだ潤沢に供給されているようです。
ただこれもいつ突然断たれる可能性が無いわけでは無く、安定的というものではありませんね。

鉋イラスト

さてこのところ、ほとんどの仕事は在庫でやりくりしており、新たに購入することも無く推移していたこともあり、その価格の高騰には驚かされます。

他の材種も同じでしょうが、国産材のタモは絶えて久しく、もっぱら極東ロシア材。
国産(道産)のものも無くは無いのですすが、目が粗く、とても良質な建具に供することはできないのではと思わされるほどのもので、残念ながら対象にはなりません。
ロシア材はやや重厚ですが、寒冷地の植栽でもあり、比較的木目も細かく、建具材に供するタモ材に求める要素は備えているように思われます。

木曽桧

木曽桧

檜は障子などに用います。
現在、一般に障子に用いられる用材は米国産のスプルース材が一般的かと思われますが、障子のように和室に用いる建具であれば本来の檜を使いたいものです。
記紀の時代から日本建築と言えばヒノキですから。

檜の場合、一般に「桧」として流通しているのは植林のものです。檜に変わりはないので、植林のものでも構いませんが、可能であれば天然桧を使いたいところ。

一般に天然の檜となりますと樹齢があり、木目の細かさが全く異なります。樹齢が増すごとに成長は遅くなり、より緻密で靱性も高まり、強度が増します。

天然のヒノキ(木曽桧)と一般の桧


天然のヒノキ(木曽桧)と一般の桧

天然のヒノキ(木曽桧)と一般の桧[/caption]一般に植林の檜は1cmあたりの木目は2本〜3本のところ、木曽檜などの天然物はその3〜5倍もの年輪を数え、とても緻密です。そして何より美麗です。

これら天然の檜の場合、市場では名称に木曽桧、尾州桧などと、産地名が付くようですね。
材の価格はまちまちでしょうが、一般の桧と較べた場合、天然檜はその5〜10倍〜、といったところでしょうか。

意匠、構成

顧客の住宅は関西に立地し、在来軸組構法の豪壮なイメージの住宅です。

したがって、奇をてらった意匠は却下、日本固有の伝統的な意匠に準ずるといった考えでデザインしていきます。

在来構法の和風住宅に、どうだとばかりに奇をてらった建具を納め、粋がったとしても、しょせんは木に竹を接ぐような愚かな結果をもたらしかねません。

それよりも素材を吟味し、高級建具に用いられてきた意匠を参照しつつ、顧客とも相談しつつ、その住宅にマッチした意匠を考案し、丁寧に作り込むのが私の流儀です。

建具は平面構成ですのでシンプルなものではあるのですが、またそれだけに住宅の品格をも左右するほどの要素を持たせますので、慎重にいきたいものです。

またその建具が納まる部屋の特性を良く理解し、光の透過性をどの程度にするのか、部屋のイメージに合う意匠としてどのようなものが的確なのか考えねばなりません。

板を嵌め殺す板戸のような場合は、家具の帆立などと同様に考えれば問題ありませんが、ガラスなどが入る建具の場合、その出し入れを考えた時、この挿入アプローチをどう確保するのかは制作上、大事な課題です。

このため、建具の意匠によっては、3mm程度の間隙を残し、裏表、両方に組子を配置することも多くなりますが、これらの納まりをどうするのかなど、建具特有の難しさがあります。

新素材の評価

自宅の建具では、ポリカーボネートを積極的に取り入れましたが、今回は住宅の鴨居、敷居から規定され、建具の見込み寸法が1寸というところから、厚みのあるポリカーボネートは断念せざるを得ません。

ワーロン

ワーロン


したがって、ガラスの他には、ワーロンプレートなどを取り入れることに。

この工業製品のワーロンですが、当初は塩ビ素材のもので、焼却時ガスの環境汚染問題等で忌避したいと考えていたところ、数年前からアクリル素材のものが市場展開され、使いやすくなっています。

障子紙も手漉きの和紙を使おうかとも考えましたが、まだ小さな子供さんもいらっしゃるところから、耐久性を考慮し、ワーロンの強化和紙を使うことに。

これまで私はフロアスタンドのシェードに、ワーロンシートを使ってきたわけですが、当初は専用のボンドしか無く、プラスチック素材共通の悩みである接着作業の困難さに辟易とした思いがありますが、その後専用の両面テープが提供され、作業性は著しく改善しています。

加工途上の框など

加工途上の框など


鉋イラスト

加工途上の框など

加工途上の框など

(続、かな?

hr

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