玉杢・ケヤキの卓
うちではほとんどと言ってケヤキで家具を作るということはない。
あまり好まないからなのだが、どうしてかと言えば、日本の木工芸において、ケヤキはある種、絶対的なイコン。特有の材種であることへの忌避があるからだね。
絶対的なイコンという意味は、もちろん国産材の中では一等級の価値を持ち、好まれるだけの理由があるからなのだが、ただモダンな木工家具の作り手の立場からすると、この材種が持つ固有の価値に依拠して家具制作に当たることに、言うに言われぬ後ろめたさみたいなものを感じてしまう。
このようにボクにとってはあまり幸せな関係では無い樹種ではあるが、それを克服して立ち向かわねばならない時もある。
Top画像はケヤキのいわゆる玉杢を持つ板面の画像だが、これを座卓として刻んでいる。
大径に生育したケヤキの木理は乱れることが多く、これは様々な杢として表出することがある。
ケヤキの玉杢はその代表的な杢であるが、ご覧のようにこの板にも立派な杢が表れている。
あまり好まないボクがなぜ所有しているかというと、数年前にキャビネット、椅子などを受注制作した際、その家の亡くなられたご主人が生前どこからか探し出してきて、物置の隅に置いていたもの。
これを引っ張り出してきて、もし使えるようであれば何か作ってもらいたい、との依頼に基づくものなのだね。
それ単体の依頼であればお断りもできたろうが、顧客からの依頼であればむげに断るわけにもいかずに預かるままに捨て置いたのだったが、最近になって同じ顧客から椅子の追加受注があり、慌ててこの材を引っ張り出してきて刻み始めたというところ。
材のボリュームは480w 1100l 120t
この塊は製材後、相当の時間経過があるとみえ、また置かれた環境が悪かったのだろう、両面とも干割れが深く、果たしてものになるかどうかさえ確信を持てないでいた。
ただ1つ、魅了するのが、この玉杢だった。干割れの奥に潜んでいる豊かな杢には「何とかしてやってくれよ ! 」という靜かな叫びが聞こえてくるようだった。
そしてやっと数ヶ月前の原木製材の際に、ついでにこのケヤキを割ってもらった。
干割れを除き、50mm近くの板を2枚。1枚の片側はうろが取り除けなかったものの、2枚のそれぞれ内部を表にし、ブックマッチで矧げば3尺角ほどの卓が十分にできるほどのボリューム。
2枚に割ったものを数ヶ月大気中に置き安定させた後(シーズニングなどという処置)、刻みに入った。
普段の木工では感じ取ることのできないケヤキ特有の芳香にくらくらしながら、刻み、削った。
杢の削りのフィーリングは、また独特なものがあり、楽しむことができた。
仕上がりが楽しみだ。
昨日、いつも世話になっているロクロ師のSさんが機械を借りに立ち寄った時のこと。
彼は好んでケヤキを挽くが、ケヤキ固有の鮮明な木目を上手に挽き出し、すばらしい器を作る職人だ。
この板面を見て曰く、こんな玉杢はめったにあるものじゃない。すばらしい、と褒めちぎる。
へぇ〜、そうかなぁ、と生返事のボク。
まだまだその価値を正しく評価できないようである。