工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

〈現代の名工〉に32歳の建具職人

〈現代の名工〉とは

卓越した技能を持ち、その道で第一人者と目されている技能者を表彰するものであり、昭和42年の創設以来、技能者の地位及び技能水準の向上を図るとともに、技能の世界で活躍する職人や技能の世界を志す若者に目標を示し夢と希望を与えてきた。
                (所管の厚生労働省サイトより)

この〈現代の名工〉の第13部門(木・竹・つる製品製造の職業等)に32歳の若さの建具職人が選定されたというので話題になっているようだ。(毎日jp
新潟の渡邊文彦さんという人。 
ネット上ではいくつか関連する情報があるが、ここでは再び担当官庁のサイトから
渡邊文彦さんの作品写真等を(こちら
この〈現代の名工〉、以前地元でも家具職人が選定されたことがあったが各地域でも同じように話題に登ったこともあるはず。
今回の渡邊さんの場合はその32歳という年齢が意外性を呼んでいるのだろう。
しかし詳細を垣間見ただけでもその技の冴え、アイディア、デザイン性に優れたものがあることは間違いないように伺えた。
参照(「渡辺文彦さんの妙技」
昨今、建具職と言えばもっぱら大手メーカー製の既製の建具を入手し、これを建築現場で寸法合わせするだけといったイメージがあるかもしれないが、どっこい、まだまだ伝統的手法を駆使し、より高精度で美しい日本建築に欠かせない建具を制作している職人は多いだろうと思う。
昔から家具職人に較べれば建具職人の方が高度の技を必要とされる、といった言われかたも事の全てでは無いにしても、あえて異論を挟むものではないようにも思う。
建具におけるデザインの妙である組子の加工というものは、我々の家具制作における加工とはかなりその様相は異なる。
あまり詳しく知るものではないのだが、その多くは〈ラジアルアームソー〉という機械を駆使しているのだろう。
上記参照サイトの組子を見ただけでも、その要諦は1枚の建具の全体的なデザインと、組子細工におけるディテールのデザインアイディアか。
そして多様な幾何学的構成を産み出す頭脳の柔軟さというものが決め手なのかもしれない。
そうした意味合いでは、年齢が32歳というのもおおいに首肯できるところだろう。
家具の世界では有名なJ・ナカシマだが、彼の一連の照明シリーズ、キャビネットの一部にも用いられている麻の葉文様の障子をイメージした扉なども、まさに日本の建具そのものであり、彼のアシスタントの建具職人の尽力なくしては産み出し得ないものであったことを想起することもできるだろう。
また建具の世界は2次元での表現であり、家具のそれは3次元という違いがあるのだが、その精緻なデザインと加工においては学ぶべきところは大きいと思う。
この渡邊さんという若い職人も海外での紹介活動も活発なようで、今後の活動を期待したいと思う。
なお木材工芸の世界では林久雄さんという建具技法を縦横に駆使した照明を制作している工芸家がいて良く百貨店の展示会などでご一緒するのだが、次にお会いすることがあれば、今回の選定などについてもお聞きしたいと思っている。

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  • 渡辺文彦

    「現代の名工」150人選出、シェフの三国氏ら日本経済新聞選ばれたのは伝統建具「組子」製作で優れた技能を持つ新潟県の渡辺文彦さん(32)や高級装飾メッキ技術を編み出した東京都の石川進造さん(72)、独創的なフランス料理を生みだし小学生らへの食育にも力を注ぐ東

  • はじめまして
    blogいつも興味深く拝見させてもらっています。
    5年前に初めて渡辺さんの作品を拝見した時に衝撃受けました、
    私の見た作品は組子で飯豊連峰を表現した作品で、
    感動した事を今でも良く覚えています。
    この渡辺さんの記事を見た時なぜか自分の事のように嬉しかったですね。
    お忙し中blogの更新お疲れ様です、
    これからも頑張ってください。

  • nsiさん、お初のコメントですね。
    渡邊さんの組子は想像を超えるインパクトがあるもののようですね。
    まだまだ若い人ですので、今後の活躍が楽しみです。
    ぜひ実物を見たいものです。
    nsiさんのような読者からのコメントがBlog運営継続へのインセンティヴです。
    これからもよろしくおねがいします。ありがとうございました。

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