工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

『On Late Style』(晩年のスタイル)

エドワード・サイードと大江健三郎

エドワード・W・サイードの著作に『On Late Style』(邦訳:『晩年のスタイル』)というのがある。
タイトルからしてお判りのように、最晩年のものだ。
親交のあった大江健三郎は、ノーベル文学賞受賞後における自身の著作スタイルに、このLate Style、Late workを意識的に取り上げた時期があり、この対話をボクも興味深く受け取っていたことがあった(当時、朝日新聞の文芸欄に往復書簡が掲載されていた)。

そして、卑近な事例で恐縮なのだが、やがてはこの『On Late Style』は、ボク自身の問題として自覚するようになってきた。

木工職人の晩年にふさわしく、円熟した仕事に打ち込み、その資質にふさわしく社会にも受け入れられる、といった風に?
いや、サイード、あるいは大江の語る『晩年』とは、決してそうしたものではない。
むしろそうしたことに背を向け、社会への違和であったり、変調をきたす時代精神への反骨を飽くなく問い続けようとする〈若々しい精神〉を尊ぶ、というものであったはず。
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モノ作りに勤しむ、ということ

ボクの仕事は家具を作ることだ。
地元の家具屋からの依頼で制作するというスタイルからスタートし、やがて7~8年後からは専ら自身のプロパーなものを作るというスタイルに変え、今に至っている。

四半世紀もやっていれば、泰然自若とした振る舞いとは言えずとも、それなりに職人としての力も備わり、充実した日々を送っていると言えるだろう。
まぁ、しかしだからといって安泰な将来が待っているはずもなく、喰えない日々を送っている事も事実なのだが…。

ただ、どのようなスタイルに変わろうとも、家具を自らの手で作る、という姿勢は変わらないだろうし、あるいは変えようも無いだろう。

なぜこんな話しを始めたかと言えば、モノ作りに従事することは自分の性に合っているんだな、とあらためて思わされることがあったからだ。
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《東ベルリンから来た女》とドイツ映画、そして日本

120224a近年、多くの名作を生みだしているドイツ映画だが、この《東ベルリンから来た女》もその秀作リストに新たに書き加えられるべき作品だろうと思う。

内容の重さにしては、まるで解説的なナレーションも無ければ、セリフさえも少なく、役者の抑制的な演技だけでスリリングなドラマが展開していく。
低音部を効かせた控えめな弦楽演奏や、落とし気味のトーンの映像表現は、陰鬱で乾いた空気の東ドイツ社会をより深く印象づけ、息もつかせぬ、緊張感あふれる展開で終始する。

ここではストーリーの詳しい紹介は他に譲るが、ベルリンの壁が崩壊する9年前の東ドイツ北部の地方都市がその舞台。
多くの人々が西側の社会に憧れるように、主人公のエリート女医Barbaraもまた、何らかの機会に知り合った西ドイツの恋人の支援を受け、国境を越えようとするが、許可されなかったばかりか、制裁として地方都市の小さな病院に左遷させられてしまう。
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ホゾ取盤の効用

〈ホゾ取盤〉という木工機械は、いわゆる工房スタイル、スタジオファニチャーと言われる木工所には設置されていない場合が多いかも知れない。

ましてや、アマチュアの方々には、その名称すら知られていないのではと思う。

130218b小規模の家具製作現場において一般に良く見られるように、丸鋸昇降盤のような汎用機でも加工できる部分を、ホゾ取り加工専用機として特化したものである。

一方、建具屋という分野の木工所では、角ノミ機と並んで欠かせない必須の機械となるわけだが、決して建具屋でしか必要とされないというものではない。

うちのように框組を基本とする家具製作所にも、大いにその能力を発揮してくれる機械だ。

簡単にその機構を紹介したいと思うが、まず刃物の構成は以下のようになっている。

(手前からの配列順)

  • 横挽鋸(加工材の端切り用)
  • 上下2枚の毛引き付ホゾ取りカッターブロック
  • 縦軸カッター(馬乗りや二枚ホゾなどのためのカッター)

という4軸の構成。

横切り盤と同様、定盤は並行スライドする機構となっていて、
ここに被加工材を上部、奥、2つの締め付け機構で堅固に固定する。

加工工程は、移動定盤を手動で前方向に摺動させ、順次4つの刃物で切削加工していく。
被加工材は胴付き長さを設定するための位置決め板で定尺に複製加工される

本体にはこの4軸の刃物のX-Y軸(上下・左右)位置を可変させるためのハンドルなどが付く。

このように、さほど複雑な機構ではないが、これがあれば框モノのホゾ加工はいたって高精度、かつスピーディーな複製加工が可能となる。
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木材の中に隠れた表情を読む

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画像の部材は椅子の笠木(背の部分、Topにあたるところ)。
厚板のブロック(この場合3寸厚)を連続した曲面で木取ることが一般的。

これは帯ノコで切り取った状態だが、このままでは表面が粗いので、次に両面を削り仕上げる。
うちでは高速面取盤でサラサラと削り上げ、最後は手鉋で仕上げる。
おっと、その前に、ホゾを付け、必要に応じて、成形切削することも多い。

さて、今日はこの仕上げに関する話しでは無く、木取りについてである。
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ルーターマシンの効用(追記あり)

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ルーターマシンは木工加工にあって、とても有用な働きをしてくれるツワモノだ。
またその用途は幅広い。
キャリアの家具職人では、このマシンに依存している人も多いと思われるが、しかし広く一般的には、必ずしもその汎用性について十分な理解がされているものでも無いようだ。

例え設置してあっても、一部の限定的な用途に留めていることも多いのでは無いだろうか。
〈面取り〉、〈丁番彫り〉など、といった単純な用途に留め、捨て置かれている、といったように。

あるいはまた、ハンドルーターで事足りる、とするところも多いかもしれない。

もちろんこれは、制作対象によっても異なってくるだろうから、必ずしも木工全般、家具制作全般に及ぶものでは無いことは理解できるところではあるのだが・・・。

さて、ここではその汎用性を個別具体的にリストして解説を試みるということではなく、1つの代表例、〈倣い成形〉において大きな性能を発揮するケースを紹介してみようと思う。

画像は椅子のアームのホゾを付けているところ。
後ろ脚の見込み部分を彫り込む作業だね。
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SHAPERカッター・市場での困難な購入

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アベノミクスなる新経済政策のあおりを受け、為替が大きく円安に振れているが、海外からの個人通販愛用者としては悩ましい。
同様の思いに沈んでいる人も少なくないだろう。

100円/1ドル、という相場までいってほしい、などと財界は期待するが、トンデモ無い過熱ぶりだ。
アベノミクスは早晩、その危うさが現実のものになるだろうと思われるが、今日はその話しでは無い。

画像のカッター、加工済みの材をご覧頂ければお分かりのように、フローリングのためのもの。
訳あって、このカッターが必要となり入手したのだが、国産ではなく〈Amana Tool〉というアメリカの刃物メーカーのもの。
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2013年・新春のお慶びを申し上げます

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めでたさも 中くらいなり おらが春

良く知られた小林一茶の晩年の句ですが、こんな句が似つかわしい2013年新春です。

この句は江戸から故郷の信州柏原に戻り、新たな家庭を築いて間もない頃に詠んだものだそうですが、不幸続きのその時期の新春を迎える心境を表し、いかにも一茶らしい句です。

そして2013年新春の日本もまた、希望に満ちあふれた大吉とは言いがたい春です。
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2012年の〆

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2012年も終わり、数時間後には新しい年が明ける。
今日はお昼までにはすべての仕事も仕舞い、近隣の世話になった数軒のお宅に挨拶回り。

デスクに座り、来し方行く末に思いを馳せるが、大変な年だったことにあらためて思いがいってしまう。

ボク自身の怪我であるとか、工房の突発的なトラブルなども業務に支障を及ぼすほどのものだったし、一方では、ポスト3.11状況下での、原発再稼働をめぐるのっぴきならぬ状況への対応で、福島や郡山に走ったり、都心を埋め尽くす脱原発の人並みに洗われたりと、めまぐるしい日々が続いた。
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芹沢銈介美術館・企画展〈小さきものへのまなざし〉

121228a芹沢銈介美術館から、次の企画についての案内が来ていた。
〈小さきものへのまなざし〉と題された、芹沢の小さなコレクションを展覧しようという企み。

燐票、書票、人形、小布、などとあるのだが、この「燐票」、「書票」というのは、恥ずかしながら分からなかった。

燐票とはマッチ箱のラベルであり、書票とは蔵書に貼るための所蔵者の名入りラベルのことだそうだ。
しかし、マッチ箱といっても、若い人には馴染みが無いものになってしまっている。
昭和は遠くになりにけり、である。
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