工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ホゾ取盤の効用

〈ホゾ取盤〉という木工機械は、いわゆる工房スタイル、スタジオファニチャーと言われる木工所には設置されていない場合が多いかも知れない。

ましてや、アマチュアの方々には、その名称すら知られていないのではと思う。

130218b小規模の家具製作現場において一般に良く見られるように、丸鋸昇降盤のような汎用機でも加工できる部分を、ホゾ取り加工専用機として特化したものである。

一方、建具屋という分野の木工所では、角ノミ機と並んで欠かせない必須の機械となるわけだが、決して建具屋でしか必要とされないというものではない。

うちのように框組を基本とする家具製作所にも、大いにその能力を発揮してくれる機械だ。

簡単にその機構を紹介したいと思うが、まず刃物の構成は以下のようになっている。

(手前からの配列順)

  • 横挽鋸(加工材の端切り用)
  • 上下2枚の毛引き付ホゾ取りカッターブロック
  • 縦軸カッター(馬乗りや二枚ホゾなどのためのカッター)

という4軸の構成。

横切り盤と同様、定盤は並行スライドする機構となっていて、
ここに被加工材を上部、奥、2つの締め付け機構で堅固に固定する。

加工工程は、移動定盤を手動で前方向に摺動させ、順次4つの刃物で切削加工していく。
被加工材は胴付き長さを設定するための位置決め板で定尺に複製加工される

本体にはこの4軸の刃物のX-Y軸(上下・左右)位置を可変させるためのハンドルなどが付く。

このように、さほど複雑な機構ではないが、これがあれば框モノのホゾ加工はいたって高精度、かつスピーディーな複製加工が可能となる。

黄色:この奥にカッターブロック、緑色:加工後のホゾ成型

黄色:この奥にカッターブロック、緑色:加工後のホゾ成型


ところでこの機械、うちではとても稼働率が低い。
例え框モノであっても、単品制作が多いため、複製加工の魅力が少なく、あまり使われることがない。
カッターの位置決めが必ずしも簡単では無いからなのだが、最近の機種は数値制御されているようなので、そうしたやっかいさは克服されているのだろうと思う。

ではうちのようなところで、このような大型の機械をなぜ設置しているかというと、この機械の汎用性を買っているからである。

画像は、この機械で椅子の笠木部分のホゾを取っているところだ。
円弧状の部材にホゾを付けるのは、それだけでかなり困難だし、さらにはこの胴付きが傾斜しているとなれば、なお難しい作業になる。
いくつものジグを作り、かなり高度なテクニックで臨まねばならないだろう。

しかしこのホゾ取り盤を使えば、簡単なジグで、確実、安全に加工を施すことができてしまう。

これはホゾ取りのための刃物がカッターブロックという形状を持ち、かつ上下に2つあることにより可能となっている。
さらに、ホゾを取るためのカッターブロックに毛引き機能を持たせていることで、シャープで高精度な胴付きをもたらし、任意のホゾ厚、ホゾ位置設定を可能としている。
そのため、一度の運行操作で、片方のホゾ成型ができるというところに、大きな優位性を認めることができるのだ。

また不定型な部材への確かなホゾ加工は困難な工程を強いられるが、移動定盤に数個の対応ジグを付加させれば、かなりの汎用性が拡がる。

今回のような円弧状の部材の場合・・・
円弧に対して正しく矩(カネ)が取れ、また確実に固定させるための山型のブロック1つ、傾斜が必要であれば、その角度にカットした木片。
ただこの2つがあれば十分。

後はホゾの長さ、厚み、加工位置さえ設定すれば、複数での同一加工が高精度に行われる。

この機械には単純なホゾ加工はもちろん、このような曲者(クセモノ)の他、いくつもの用途が考えられると思う。
過去、フィンガージョイントのためのカッターブロックを縦軸に取り付けて加工したこともあった。
こうした加工材への大きな負荷を強いる加工の場合、いかに安全、確実、然るべく設定で高速回転する刃物に当てることができるかが、重要となるが、この機械はそうした領域では汎用機械と位置づけられるものの、十分に作業者の要請に応えてくれるだろう。

工場のスペースが許されれば、設置導入の対象として一考しても良い。
とりわけ、椅子制作が多いところは、困難な加工工程に恩恵をもたらすこと必定だ。

hr

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  • 通常、昇降盤でほぞ取りすると木端が出ますが、ほぞ取盤の場合は胴付の幅以上のカッターで一気に削り取るという考え方でしょうか?(欧米では同じようなほぞ取り加工の場合、縦軸モルダーを使っているようですね)

    木端ならストーブで燃やしやすいので、カッターで全部木くずになってしまうのは、ちょっともったいない気がしてしまいます…ケチくさいですが(笑)

    • motorajiさん、仰る通りですよ。
      昇降盤で用いる鋸ではなく、カッターブロックですので、
      強力に粉砕しちゃいます。グァ〜ッって感じ。
      切削負荷も大きいので、被加工材の固定が重要です。

      手動モルダーの趣きとでも言いましょうかw

  • ご無沙汰していてすみません。
    この機械、ブログ仲間の家具作家さんが使われています。
    こういう使い方もあるんですね。
    ただ、四方胴付きは作れない、と聞いた覚えがあります。

    • acanthogobiusさん、その作家さん、デキル方ですね、きっと。

      構造、特性からして、一度の操作では四方胴付きはできません。
      然るべくホゾ位置設定を行い、90度起こし、操作することになりますね。

      一方、二枚ホゾなどはお任せください。
      蛇口(馬乗り)なども一気!です。

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