工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

天秤指し

天秤指し1

湿潤な大気から、乾燥した大気に代わる、というのが梅雨明け後の気象でもある。
もちろん日本のそれは、不快指数で言い表されるように、蒸し暑いと言うのも一方の事実ではあるものの、湿度40%前後の湿度で安定してくれるのであれば、キャビネット制作には許容できる範囲。

さっそく板指しのキャビネットの木取りから天秤指加工まで一気に進める。 

雨期の前にあらかじめ木取りし、矧ぎあわせ、毛布で簀巻きにしてあったものだが、やはり反張は避けられなかった。

昨日1日、乾いた大気に陰干しして表面の湿気を抜く。
その後、丁寧に手鉋で基準面を削りだし、プレナーで厚み決め。
所定のサイズに切断し、まずは天秤指し加工へと進める。

画像の甲板用の板面にはいくつかの定規がある。左から‥‥

[天秤指しの墨付けのテンプレート]、
[15cm直定規]、
[30cm直定規]]、
[自由がね小]、
[自由がね大]、
[スコヤ小]、
[自由がね大]、

天秤指しの墨付けのテンプレートは米国からのもので、以前より数種用意してあったものの、うちではさほど活用されていない。
天秤指しのピンの細い方は、わずかに2mmというのがうちの基準だが、これを可能な範囲で機械加工で攻める。


いわゆるハンドルーターでのダブテールのテンプレートガイドでは、ピンのサイスはルータビットの軸系に規定されてしまうので細くはできない。最低でも1/4インチほどか。
これでは見るからに機械加工だね。美しくはならない。

丸鋸昇降盤で自由に操作できるボリュームを超えるものは全てが手加工となるが、厚み1寸、幅1.5尺、長さ4尺までぐらいのものであればかなりのところまで機械で攻めることが可能。
オスメス、縦挽き部分は100%できるだろうし、胴付き部分も8割ほどは機械で攻める。
残るところを手ノミで裁ち落とせば OK !!

機械加工ということになれば、したがって高精度の墨付けなど無用。
間違いを避けるためのものとしての、簡単な勝手墨ぐらいで OK !
天秤指し墨付けテンプレートはそのような程度の墨付け用に使ってみよう、というところだね。

天秤指し2

この画像は、見付け側の留め接合部分を手鋸で切削しているところ。
下手くそなので治具を使っている。
いやいや、こういうところは潔く、治具を使い、高精度に一発で裁ち落とすこと。
胴付き鋸とはそういう目的のもの。
ただあれだよ、いわゆる一般の胴付き鋸は横挽きの用の刃が付けられているものだが、それで縦挽きしてはいけない。
縦挽き用の刃が付けられた胴付き鋸を求めて使おう。
この鋸の名称はあまり一般的ではないけれど、「ホゾ取り鋸」とかいうのかな。

機械刃物の丸鋸でも、縦、横、関係無しに使い回しするのも如何なものか。
当然にも良い切削はできないし、また切れ味も一気に落ち、劣化していく。
簡単な区分としては、横挽きは80p以上。縦挽きは60p以下、あたりが基準だろうか。

ところで余談だが、画像の直定規。墨付けにはできるだけ肉が薄いのが使いやすいものだ。
15cmであれば0.5mmあたりが標準だが、30cmともなると1.0mmと厚くなり芳しくない。
この画像のものは0.5mm。これだと精度追求にありがたい。
なお、これまた余談だが、寸法の刻みだが、一般的には片方が0.5mmで刻まれていることがあるが、あれはボクらには使いづらい。
あくまで1.0mm単位の方が識別しやすいので、両側とも1.0mm単位のものを探して使うようにしている(1mm単位の精度で十分というのではなく、0.1mm単位での識別においても、かえって0.5mm単位の刻みは見づらいもの)

天秤指し3

さらには、おもしろい直定規もあるもので、全長1/3ほどの位置に0と刻まれて、左右に振り分けられているものがあり、これはボクらには好都合だと感心したものだ。
こうした定規類は大工道具コーナーだけでなく、文房具、印刷、編集関係の道具コーナーなどにユニークなものがあったりする。

ところで話しを戻せば、「悠さんのところの箱物、安すぎ (-.-#) などと言われるのは同業者、さらには木工家具をよく知るギャラリーオーナーであったりする。
これは、価格設定における本人の気の弱さということもあるだろうが、仕事が早い、という要素が大きいかもしれない。

もとより、うちは「手作り○△」などとは自称していないが、この天秤指し加工に見られるように、過度に手作業に依存させることはしないように心がけている。
汎用機械(木工業では必須の基本的機械設備)をとことん使いこなすこと。
それにより、生産合理性が図れるだけではなく、かなり微細で高度な仕口もできるということを知るべしだろうね。
おおよそ、手作り陶芸、なんて聞いたことないし、手作り織物、な〜んてあるかな。
なぜ木工だけに ?

機械で攻める方が明らかに高精度に、かつ合理的に早くできることは多い。
そうした思考で攻めることで、それにより浮いた時間をもっとクリエイティヴな領域に使えればより良い木工へと進めるだろう。
(これに関しては、かつて膨大な論考を試みたこともあるので、興味があれば参照いただきたい → [Categories] > [ [“手作り家具”と機械設備]]

〈雨蛙〉
早朝、就業前の涼しい時間帯にと思い、洗車をしていたのだが、いつのまにか、ボンネットに1匹のアマガエル。
何を考えているのか知らないが、小さい身体をして少々のざわめき(カメラ接近)にも動じない。
さぁ、すぐ炎天下になるから、さっさと茂みに隠れなさいな。

アマガエル

《関連すると思われる記事》

                   
    

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.