工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ステキな女性に乾杯 !

秋桜
今日は野暮用があり電車で出掛けたのでしたが、帰路の車内で大変気分が良くなることに出くわしたのでした。
それはごくありふれたことへの結末に起きたことでした。
発車まで数分残した電車に乗車しましたら席の8割方埋まっていましたが、座ることが出来ました。
ボクはすぐ鞄から文庫本を取り出ししおりのところから読書を始めたのです。通勤ということの必要のない仕事環境では、なかなか電車に揺られての読書という楽しみは得られず、こうしたことは貴重な時間ではあるのです。
間もなく発車の時間が来ましたが、続々と乗客が増えていることは読書していてもそれなりに感じ取ることは出来ました。
発車とともに少し大きく電車が揺れましたので、ふと周りを見回しましたら、数席離れたところで支柱に掴まり倒れまいと自身を支えている老女がいました。
年の頃70歳前後程の買い物帰りと思えるような出で立ちの人でした。
ためらうことなくこの女性に席を譲ったのは当然のことでした。
「すみませんね、よろしいんですか?」と返されましたが、どうぞと促したのです。
一礼して座ってくれました。


その後ボクが降車する駅まで6駅、約30分の行程でしたが、1つ手前の駅でかなり空いてきましたのでボクも腰掛けました。
降車駅はその女性と偶然にも同じ駅でした。
彼女の方が先に席を立ちましたが、その時に冒頭に述べた気分を良くする声が掛けられたのです。
「本当にありがとうございました。とっても助かりました。」と2度お辞儀をされてしまいました。
ボクは声は返しませんでしたが、めいっぱい笑顔で2度うなずき返しながら「いえいえ、どういたしまして」と手を横に振ったのです。
何故かその時最初から横に座ってケイタイ操作に終始していた若者は苦々しい顔をこちらに返して来たのでしたが…。
その後ゲートを通過し、駅前の駐車場へと向かったのですが、彼女も同じ方向に向かっていくのです。
トートバックのような手提げ袋を2つ重そうに持ちながらやや前屈みにしかしスタスタと歩いていくのです。
そこであらためて「車でお送りしましょうか?」と、声を掛けようとも思いましたが、逡巡し止めました。度を過ぎればおせっかいですからね。
と、そして最後にオチが待っていました。
何と彼女も駅前の駐車場に入って行くではないですか。
やや旧型の国産普通乗用車の運転席に乗り込んだのです。
オワリ。
気分が良かったというのは、席を譲ったからと言うことではなく、彼女がとても自然にステキな笑顔で心のこもった感謝を表現してくれたことに対してです。
ごくありふれた顛末ではありますが、考えますに彼女の生育してきた時代背景と、家庭環境から育まれたごく自然な人と人との関係性の表出であったろうと思うのですが、このややまぶしいばかりの豊かな心性に対して、鋭く官能してしまったのです。
人への信頼というものが失われるような世相の向きもありますので、今更そうした大人などには期待しませんが、こどもを含めた若い人たちには、こうしたありふれたところでのごく当たり前の暖かい人の関係性を作ることのステキさを伝えていければうれしいですよね。
車で送ることを申し出なかったことは良かった(ホッ)。老女でもあのような素敵な人は自身で運転しちゃんだもの。
こうして今日は歳を取ることも決して悪いものじゃないことを教えられたのでした。

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  • Oh, how photogenic this one is!
    風が左のほうから、吹いてきているね。
    もう、秋の風なんだね。秋の桜が咲いているね。
    ピンクの花のなかで、白い花が生き生きとして。
    バックのぼけが、ゆたかさを感じさせて……。
    (an artist なら、ここでメロディーを口ずさむかな)
    そうだよ、裕次郎、これが《写真》なんだよ。
    よくいわれているように、《写真は引き算》。
    これに尽きる。
    なぜなら、写真は、余分なものまで写してしまうから。
    夾雑物を極力、切り取ること。
    そうすれば、写真は生きる。
    文章は、写真とちがって、意図したことをギリギリまで
    シャープに表現できる。
    本質的に、《文章は足し算》なんだけど、artisan の
    場合は、すこし「引き算」をしたほうがいいかな……。
    再見

  • ものを書くということは難しいです。
    文体、喩体、メタファー、情報力、知力、思考力、分析力、いずれも相応のものがないと良い文章は書けないもんね。
    まぁ、端から失格ではあるけれど、ブログ的生活も欠かせないものになってきていて、いくらかの努力で文章力を付けていきたいとは思いますので、どうぞ今後もビシバシご指摘、ご指導いただければ幸いです。

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