工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ミズメのベンチ

制作までの経緯

ベンチは私の制作対象の中では決して多くはありませんが、それでも過去、10台近く作ってきているでしょうか。

今回制作したTop画像のものは同一意匠のものとしては2台目になります。
最初のものはWebサイトに掲載している(こちら)です。

このページにも書いたのですが、座板を円弧状にデザインし(ソラマメを長手方向に伸ばしたイメージ?)、これに合わせ、笠木も同じく円弧状に曲げているわけですが、この笠木は正面からも上部からも円弧状に成形され、その加工工程では大変苦労したものでした。

たぶん、もう2度と作りたくない意匠のものだと考えていたほどのものです。

ところが、これと同じものを作って欲しいとの依頼が飛び込み、いささか心中慌てました。
その理由には2つほどあります。

私としてはこのデザインは独立後 間もない時期の未熟なデザインということで、気恥ずかしさ満載なものであり、また前述の円弧状に加工する工程の難易度の問題がブレーキになります。

もし制作するのであれば、せめてディテールにおいて、あるいは全体的にもブラッシュアップさせた意匠で作りたいとの思いがあり、(こっそりと 苦笑)新たな設計プランを提示したのでした。

ところが、それらの作為はすべて見破られ、全く同じデザインでなきゃダメ、との厳しい注文。
その後何度かのやり取り、および現場見学などを経て、最終案へと絞り上げたものでした。
結果、大いに喜んでいただき、多くの汗も報われという次第。

顧客宅 名機タンノイが鎮座するリビングに納まったベンチ

上の画像は顧客のリビングに納まったベンチです。
タンノイのスピーカーでクラシックを聴くことが楽しみだと仰るN氏、このベンチが届くのを心待ちにしていたようでした。
遠方の方でしたが、制作途中の段階で工房にも見学に来られ、最終的な打合せを経て、完成に漕ぎ着けたものでしたので、愛着も十分のようです。

さて、以下、製作上のいくつかのポイントについて紹介します。

ミズメ材

材種ですが、今回は樺では無く、ミズメです。

座板も、他の部位も、市場では入手が困難になっているミズメの良材を惜しみなく使っています。

このミズメは20年ほども昔に松本の業者から仕入れたもので、南松本の製材所で挽いた思い出が蘇ります。
末口50cmを越える4m材を数本挽いたのですが、その当時でもこれだけの良材の入手は難しいのではと材木屋の社長も語っていたほどのものです。

この時のミズメの稀少な残りの材を用いたのですが、木理の細かさ、均質な肌、物理的強度、塗り上がった時の光の反射(トラメ)など、ミズメ固有の素晴らしさは他には代えがたい特有の魅力があります。

ミズメ(梓)別名:ミズメザクラ、ミズメカバ

  • 産地:本州、四国、九州
  • 特徴:木理は通直、肌目は緻密、重厚、靱性が高い、虎斑を醸す
  • 気乾比重:0.69

曲げ木

上述のように、笠木は3次元の円弧状に曲げねばなりませんが、一方は曲面で切り出しました。
うちではこんなミズメを3次元で曲げるだけの設備もありませんからね。

しかし残りの曲げ木工程は逃げるわけにはいかない。
半径約5,000Rの曲げ木ですが、塩ビ150φのチューブで作った蒸し器に入れ、100℃で3時間ほど蒸し上げ、あらかじめ作っておいたオスメスの型木で挟み、1晩、プレス。

笠木 曲げ木
曲げ木のための蒸し器・100℃まで上昇中

当初、釜からチューブまでの耐熱ホースが長かったことから、75℃くらいまでしか上がらず、熱損失を極力抑えるため、耐熱ホースの長さも極小までに切り詰めた結果、100℃まで上げられたものです。

その後、そのままでは当然にも戻りが多いので、トラック用のラッシングベルトで縛り付け、2週間ほど掛けゆっくりと乾燥。
それでも解放すると、かなり戻りますね。
ミズメの曲げ木は難しい。

やはりその硬質さと、42mmという厚さが困難を強いたのでしょう。
反省材料としてもっと長時間蒸すべきとの思いもありましたが、塩ビのパイプの方が軟化変形してきますので、それも限界があります。

本稿 続く

背束・ブラックウォールナットのarrow 成形加工
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