工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

BOSCH 電動工具 10.8V シリーズ

リチウムイオン二次電池(概論)

BOSCH 10.8Vシリーズ

木工関連の電動工具では、既に多くのものがコードレス化されていますが、その中にあって今回の Li-ion 10.8V の位置づけ、意味合いなどを少しく考えてみましょう。

電動工具のコードレス化は私が木工を始めた80年代末あたりからでした。

ニッケル・カドミウム電池(Ni-Cd)

Ni-Cd
Ni-MH
Ni-Cd とNi-MH

ただ、当時は電源となる二次電池・バッテリーはニッケル・カドミウム電池(Ni-Cd)で、公称電圧が1.2Vと、乾電池よりも低く、パワーを要求される工具には不向きで、実用性のあるのはせいぜいドリルドライバーなどの限定的なものでしかなく、しかも言ってしまえば玩具のレベル。

ニッケル水素電池(Ni-MH)

その後、1990年代に入りますと、市場では小型電子機器が急速に普及していくことになりますが、これは公称電圧がNi-Cdと同じ1.2Vではあるものの、エネルギー密度を大きく向上させた、ニッケル水素電池(Ni-MH)の量産化によるところが大きかったのです。

電動工具にもこのNi-MH電池が搭載されていくことになります。
私もさっそくNi-MH電池の開発製造メーカーでもあったパナソニックのドライバードリルを購入したものでした。

それまでは〈ヤンキー〉と呼ばれる、上下運動を回転運動に変換するハンディなドライバーを使うか、電動ドリルにドライバーの先端ビットを取り付けて作業していましたので、このコードレスの電動工具の登場は木工現場において大いに歓迎されたものです。

リチウムイオン電池(Li-ion)の登場

その後、2000年代に入ると、ゲームチェンジャーとも言うべき、メモリー効果などの問題から自由で、かつ公称電圧が3.6Vという高密度の二次電池、Li-ionバッテリーが登場することになります。
電動工具の分野でも一気にこのLi-ionバッテリー搭載のものへと進化していくことになったのはご存じの通りです。

なお、Ni-MH の方ですが、Li-ion電池に駆逐されたわけではなく、現在も独自に進化しつつあるようで、乾電池との互換が可能な形状であるところから、様々な小型電子機器に使われています。

ちなみにわが家では、ポータブルラジオ(災害時用ですが、普段は入浴時に活用 😓)、カメラのストロボ、LED懐中電灯などに、このNi-MH二次電池を使っています。
代表的なものが、今はパナソニックに吸収合併され、会社自体が無くなってしまいましたが、三洋電機のエネループですね。

ただ、電子機器の方は乾電池の1.5Vの倍数(×3、or ×4)で設計されており、Ni-MHは1.2Vという低電圧のため、ものによっては駆動しない場合もあるようです。
バッテリー残量のグラフィカル表示が、フル充電だと3つのところが、Ni-MHですと、2つにしか表示されない、といったように。


さて、今や市場を席巻した感のある、Li-ion 二次電池ですが、エネルギー密度が高く、高電圧(1セルの公称電圧:3.6V)、500〜1,000回もの充放電に耐えるサイクル特性を持つという長寿命、メモリー効果が無く自己放電が少ない、等々、良い事づくめの特性を持ち、携帯電話から自動車まで様々な用途に利用されるなど実に汎用性の高い二次電池として社会に広く普及し、電動工具の世界もこのLi-ion電池開発の恩恵を被っているというわけです。

ただ、このLi-ion電池はあまりにも高密度であり、充放電電圧の管理のシビアさなどから爆燃現象を起こすなどの問題を抱えていて、正負の極の新素材の開発や、有機溶媒を用いない全固体電池の開発など、EV車両の普及という社会的要請からも、より長距離運転を、より安全に、高密度の電池開発が喫緊の課題になっていることはご承知の通りです。

この決定打と言われる、次世代・全固体電池の実用化も間もないとされています。

Li-ion EV用電池の世界シェア

現在、Li-ionバッテリーの世界は、車のガソリンエンジンからEV駆動へと歴史的に大きな転換期にあり、各国、新たな参入企業も含め(というより、こうした新規産業界が牽引する形で)、猛烈な勢いで開発が進められており、世界の自動車産業のシェア争いは熾烈なものがあります。

Li-ion、EV電池のメーカーごとのシェア
EVバッテリーの世界シェア(Reuters)

これを主導するのは中国BYDであることに異論を挟む余地はないように思われますが、この企業は元々、バッテリーの製造業だったのです。
つまり、EV車の製造においては、なによりもバッテリーの開発と、製造能力がモノを言う世界だというわけです。

産業用の電動工具に用いられるバッテリーは、いわばこれらEV車用バッテリー開発の副産物として恩恵を受ける形での小さな世界というわけです。

10.8V 電池容量の増進

今回の〈BOSCH 10.8V バッテリー〉もまた、Li-ion 二次電池の単三型と近似サイズのセルを、3本直列に繫げ、パッケージされたものですが、年々、エネルギー密度の高度化から電池容量も昔は1,500mAhだったものも、2,000mAh2,500mAh と増大され、今では3,000mAhが主流になっているようです。
それだけ仕事量は増大するということになりますので、現場作業では重宝されるというわけです。

購入する際は単価だけではなく、この電池容量の確認は必須になりますね。

BOSCH 10.8Vバッテリーと、専用充電器について

我が工房ではBOSCH コードレス電動工具のラインナップが増えたこともあり、バッテリー管理を増強しました。

BOSCH 10.8V バッテリーと,新旧の充電器
BOSCH 10.8V バッテリーと,新旧の充電器

あらたに、BOSCH純正のバッテリーを充電器とのセット品で新規購入。
これに加え、純正品は高価であるため、代替品のバッテリーを6本ほど購入しました。

実はこの充電器購入には1つの理由が・・・、
所蔵の10.8Vバッテリーのいくつかが、充電器にセットしても、充電不良、あるいは不安定な状態に陥り、
これは充電器本体の問題もあるやもしれず、との思いからのものでした。

なにせ、この充電器は、2007年にBOSCH 10.8Vの電動工具(小型インパクトドライバー:現役です)をはじめて導入した際に付属していたものですし、その後、増強したバッテリーははほとんどが代替品で、しかも不良品も混在していたものと思われ、充電器に差し込んでも「充電不可」のお告げに頭を抱えるという状態。 

さてところが、充電機を更新したところ、こうした「充電不可」のものが正常に充電できるではありませんか。
これには 口あんぐり…、破顔一笑

この Li-ion バッテリー、充電時の電圧、電流制御がとてもセンシティヴだということで、この「充電不可」も、そうした充電規制によるシャットアウトの可能性もあるのではと推察。

旧型の充電器自体の不調というものでは無く、充電器の設計、製造における技術的進化が為され「充電不可」の閾値が緩和され、充電可能になったということなのでしょうかね。

この新たな充電器(GAL12V-40)は2020年の市場リリースされたもののようですので、この間、13年の経過があり、進化も当然というわけでして、これまで諦めていた古いバッテリーもそれなりのパワーを与えられ再び使えるようになり、廃物になる寸前のものが資源の有効利用という面からもありがたいことです。

代替品のバッテリー、6本も買うことは無かったというオチではあり…、
やや自虐的な話しになってしまいましたが、この記事の本旨はそこではありません。

BOSCH 10.8V Li-ionバッテリーを動力とした電動工具の積極的な開発という企業理念と、これら工具群について、さらに考えを進めていきましょう。
(この項、続きます

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • BOSCH JAPANで展開しているラインナップの少なさにガッカリしています。
    柱材に下穴なしでコースやコーチを100本も打つならともかく、通常の作業では家具什器の製作のみならず現場作業においても10.8(12)のインパクトとドリルで困った事は年に1度あるかないかという実感です。
    6Ahで重くて重量バランス悪い18Vを使うのが大好きな人たちばかりですが手腕の負担を考えるとバカバカしい話です。
    海外で買える10.8と同じラインナップを売って欲しいと思います。

    • BOSCH コードレス、10.8Vシリーズへの評価を補強していただくような
      プロフェッショナルと思しき方からの、嬉しいコメントじゃないですか。

      >海外で買える10.8と同じラインナップを売って欲しい
      >BOSCH JAPANで展開しているラインナップの少なさにガッカリ

      私もBOSCH JAPANの取り扱いが少ないことには辟易することも屡々。
      PSE取得手続きが煩雑なのかどうか知りませんが、
      日本でもBOSCH愛好家が佐々木さんはじめ大勢おられ、
      十分にペイすると思うのですが、残念ですね。

      >海外で買える10.8と同じラインナップを
      ということですが、日独のカタログを確認してみました。
      確かにこの分野でもラインナップが多少違っていますね。

      以前、私はBosch Japan のカスタマー窓口に、
      ハンドルーターの導入を願い立てしたことがありますよ。
      佐々木さんも是非 ٩( ᐛ )و

      https://koubou-yuh.com/blog/wp-content/uploads/2024/12/bosch.G.Bosch_.jpg

      https://koubou-yuh.com/blog/wp-content/uploads/2024/12/bosch.J.Bosch_..jpg

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