工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

BOSCH 10.8V コードレストリマー GKF10.8V-8H

BOSCH GKF10.8V-8H

ボッシュからコードレストリマーが販売されている事を知ったのは、最新のFWW誌 No.273の紙面からでした(右下)
その記事のタイトルは「Handy ergonomic router」というもの。

FWW #273 より

うちには Porter Cable〈PCE6435〉をはじめ、数種のトリマーがあり事足りているところですが、コードレスという利便性と、米国仕様では〈Palm〉と銘記されてるところからもお分かりのように、Handyで、ergonomic な構造と意匠にそそられ、購入に踏み切ったところです。

因みに、この機種の販売時期ですがAmazonには昨年3月の登録になっています(日米共に)ので、既に9ヶ月の余が経過するようです。知らぬは私だけだったのかも。恥;

Bosch Japanの公式機種名は、本件記事タイトルの通りで素っ気ないものですが、このFWW誌の表記こそがその特徴を良く捉えていると思いました。
以下、そうしたところを重点的に紹介していきましょう。

コードレス仕様


最初に最大の特徴でもあるトリマーというマシンにおけるコードレスという仕様はどのような意味を持つのかについてです。

まず前段にトリマーというマシンについて簡単に振り返っておきます。
このトリマーというマシン、木工においてはとても多様な働きをしてくれる事はご存じの通りです。
木工に従事していれば、業務対象に関係無くほとんど全ての方が1つや2つは所有しているほどのなじみ深い小さなモノだけど、欠かすことのできない工具の1つでしょう。

トリマーが担う加工対象ですが、ざっと上げただけでも以下のようにリストできます。

  1. 「小穴を開ける」(小穴というのは、2分ほどの細い溝のこと)
  2. 丁番を埋め込むような「倣いによる段欠き加工」
  3. エッジの「面取り加工」
  4. フラッシュ構造の「化粧板の切削整形」
  5.  
  6.  ・
  7.  
  8.  ・
  9.   
  10.  ・

といったところでしょうか。
ハンドルーターが有する機能をある程度補完するものと言えますが、小型であることで取り回しが容易であり、木工の現場では大変重宝されているわけです。

さて、こうしたトリマーにコードレスという機能を搭載したという意味合いですが、大きなサイズの被加工物などで苦労させられるケーブルの取り回しから解放されるという1点において、大きな優位性があるのは言うまでもありません。
またそれは、現場作業など電源確保が困難な環境で威力を発揮することにも通じます。

ただ、このBOSCHのトリマーの場合、わずかに10.8Vという電源仕様ではパワーへの期待はできませんので、ハンドルーター性能を代替させるような作業としては、かなり限定的と考えねばなりません。

次に述べるボデーの ergonomic の構造という新奇性を除けば、この非力なコードレストリマーは、せいぜい前述のリスト③のエッジトリマーとしての限定的機能に特化したものとして理解した方が良いでしょう。

したがって、①、②などの作業では現在においては標準的仕様となっているLEDランプ搭載による照度確保も不要とばかりに割り切りで非搭載になっています。

あるいはまた、BOSCHのコードレス電源として、この10.8Vに留まらず、当然にも14.4V、18Vといった商品群の展開もある中で、新奇性の強い新機種であるトリマーにあえて非力な10.8Vバッテリーをを搭載したことは、限定的な能力を越え、 ergonomicとHandyさを追求したものとしてポジティヴに評価したいと思います。

では、少し個別具体的にこのトリマの特徴を視ていきましょう。

仕様(Bosch Japan 公式サイトから)

定格電圧DC10.8V(充電式専用バッテリー)
無負荷時回転数13,000min-1(回転/分)
標準付属コレット径6.0mm
使用可能コレット径6.0/6.35/8.0mm
最大切削深さ36mm
質量1.3kg(2.0Ahバッテリー装着時)
充電時間約35分(空→70%ターボ充電)
約45分(空→フル充電)
(2.0Ahバッテリー使用時)

各部の構成と名称

  1. 電源スイッチ
  2. ECモーター(ブラシレスモーター)
  3. 深度調整のためのロック・開放ボタン
  4. 重心軸
  5. 深度調整ダイヤル
  6. 主軸
  7. スピンドルロックレバ
  8. 片手での操作可能なエルゴノミクスデザイン
  9. 板面への接触面が拡大
  10. バッテリーインジケーター
  11. バッテリーパック(Li-Ion 10.8V)
  12. 裏にベースロックの小ネジ

パワー

前述したように、現在のコードレス電動工具のLi-Ionバッテリーパックは14.4V、あるいは18Vが主流となっており、このトリマーの仕様である10.8Vは小型の電動ドライバー、インパクトドライバーなど限られた機種に搭載されている程度の非力なものです。[1]

私が所有する充電工具では10.8VのものはBOSCHのインパクトドライバー、およびこれとバッテリー互換性のあるライトの2つです。
14.4Vのインパクトドライバーとそのパワーを比較した場合、明らかに半分ほどのパワーしか出力しないことは良く承知しているところです。

回転数もワイヤードのものと較べても半分ほどの13,000rpmです。

駆動モーターは ECブラシレスモーターで、整流子への電力供給のカーボンブラシの経年使用による劣化交換という問題はなく、長期にわたり使用に耐えられるものと思われます。

コレット対応

コレットはありがたいことに、6.0/6.35/8.0mmの3種が対応、供給されているようです。
因みにBOSCH Japanに確認したところ、標準添付は6mmだけですが、別売として8mmが提供されています。
残念ながら6.35mm(つまり1/4インチ)は提供が無いとのこと(これは日本仕様のモノは独本国からの供給であることからです。たぶん)。

日本では提供の無い1/4”の仕様のものですが、米国などからは入手できるでしょう(パーツの商品コードがネット上から取得可能)

私はBoschの《PMR 500》というトリマーを使っており、それに対応するインチ仕様のコレットも所有していますが、この新しい機種はコレットの仕様が異なるため互換性はビミョウですね。

重量

PMR500・GKF10.8V-8H

バッテリーを装着しての重量の1.3Kgですが、《PMR 500》より0.2Kg軽量です。
この200gの差ですが、意外と実感的には大きいと言えるでしょう。

以上、数値上の仕様から視てきましたが、この機種はそこには表れないユニークな特性を持っています。


エルゴノミクスデザインで抜群の操作性

BOSCH Japanの機種のページにも
コンパクト設計でワンハンドが可能
・エルゴノミクスデザインで抜群の操作性

と謳っていますが、この部分について少し詳しく視ていきます。

ユニークな形状

機種本体はご覧の通り、とてもユニークな形状をしています。
主軸に対して非対称な、こうした形状のトリマーは、他にFESTOOL社の〈MFK 700〉というものがあります。これもエッジルーターと銘記されていてその機能においては似ていますが、この〈MFK 700〉はフラッシュのエッジ専用とも言って良いほどの特異な機能を前提とした開発であるのに対し、GKF10.8V-8Hはもっと汎用性があります。
こうした設計は、たぶん、世界初なのでは無いでしょうか。

何も奇をてらっての設計、意匠ではなく、求めた機能と、操作性を全く新たな設計思想から考えた結果としてのエルゴノミクス設計による構造と意匠の開発に繋がったものと考えて良いでしょう。

トリマーというマシンは世界の電動工具メーカーのほとんど全てが市場に投入しており、成熟され尽くした工具と思われがちなところ、あえてそれらの堅固な標準仕様を排し、あるいはそれまでの電動工具の進化に踏まえつつ、全く新たにゼロから発想しなおし、開発しようという進取の精神は高く評価されて良いでしょう。

次ぎに述べるベースのユニークさとも相まって、エッジトリマーとしての機能を重視し、片手での安定的な操作を意識してのものと思われます。

片手での操作

  • 軽量である(バッテリー搭載で1.3Kg)
  • 一般にルーター、トリマーの重心は主軸にあり、当然にもマシンの中心部と同一であることが基本ですが、このマシンは違っていて重心と主軸は離れている(というか、主軸が大きく外側に偏倚している)
    またベースを繋ぐものは昇降のストッパーを兼ねる刻みが施された1本の太い軸であり、ここが重心です(「各部の構成と名称」の画像④)
    この特異な基本設計が、片手での安定的な運行を確保するものとなっています
  • 片手で斜め上から主軸のオフセット方向に重心が掛かるような形状と位置にグリップがあり、持ちやすい特異な形状をしています。

オフセットのベース

「エッジトリマー」としての基本設計から、ベースはU字型の形状をしていて、その中心は主軸ではなく前述の重心軸におかれ、安定的なエッジ加工の運行を確保する形状となっています。

ベースはアルミダイキャストですので、刃物周囲への視認はやや難しい感じがあります。

刃物交換がより容易になっている

この機種は本体とベースは分割できない構造になっていますが、意外と刃物交換は楽です。
操作しやすい大きなレバー(画像の赤い部分)でスピンドルロック機構が働くようになっており、また主軸を除けばベースを支える機構部品は1本の軸だけという開放感の高いユニークさからのものです。

刃物交換の場合、いちいちベースを本体から外して行うのが一般的ですが、そのプロセスは不要で容易にアプローチできるというわけです。

スピンドルロック機構ですが17mmのスパナ1本で刃物交換が可能です。
この標準添付のスパナですが、一応付けておくわ、といった感じの鉄板を切り出しただけのものが一般であるのに対し、これは鋳物製であるところは渋く評価したいです。

緑のボデーがアマチュア仕様であるのに対し、このブルーのボデーはプロフェショナル仕様というBOSCH電動工具の位置づけからすれば当然の品質と言えるでしょう。

刃物深度調整の精度の高さと容易さ

ベースの深さ制御は大きなボタン1つで叶えているわけですが、ベースを繋ぐ軸に刻みが施され、まずは目視でのアバウトな高さ調整をし、次ぎにテストカットなど行いつつ、細かくは微調整ダイアルで行います。

この操作感は良いですね。大きなボタンを押せばロックが解除され、ベースが自由に動き、任意なところでボタンを外せば再びロックが掛かる。
しかもこの昇降の軸が1本の太い金属製で、安定性に優れ、スムースな摺動が確保されています。

この微調整のダイヤルは1回転、1mmの昇降という設計になっており、遊びもほとんどなく、かなり精度が高い機構になっています。

さらに試し切削を終えた後、緩みを無くし安全性を高めるためのベース固定ネジがあり、長時間の運転でもずれること無く固定されます。

使用実感

能力

3分のボーズ面などは軽快な切削運行ができるようです。4分の角面は難しかった

回転数も少なく、パワーも非力であり、どの程度の実用性があるのかは、この機種のユニークさを評価したとしても譲れない基本のところですが、エッジトリマーとして考えれば、十分な能力を持つと考えてよいでしょう。

試して見たところ、R面取り(ボーズ面)では3分(≒9mm)までは全く問題無く軽快に切削運行できます。

ただ、角面取り(45°の面取り)では1片12mmほどになると、過負荷で停まってしまいます(広葉樹種の中でも硬質な樺材の場合ですが)。
この辺りが限界と言ったところでしょうか。

片手での操作など、エルゴノミクスな設計と構造という握りの部分ですが、最初は慣れないために戸惑いますが、慣れてくれば、片手でのとても安定的な切削運行ができます。

昔のトリマーなどでは重心位置が高く、ベースも小さいところから、片手での安定的な運行は容易では無かったものですが、大きく改善されるでしょう。

総評

Boschのこのまったくユニークで新たなコードレストリマーですが、さすがBOSCHの面目躍如といった感じで、市場に驚きを与えているのでは無いでしょうか。

ただ、その限定的なパワーと、ユニークな形状から、あくまでもエッジトリマーとしての位置づけであると言う事は理解せねばなりません。

したがってBosch Japanの機種名はそうした特性を表しておらず、誤解を招く恐れ無しとしないので如何かとは思います。
米国では〈12V Max EC Brushless Palm Edge Router 〉と表記され、その特性を示していて好感が持てます。

なお、これは余談ですが、欧州では予備バッテリーとバッテリー充電器を含めたパッケージが、先に紹介したBOSCHの収納BOX、L-Boxxとともに販売されているようです。(なぜか日本ではそのようなパッケージはありません)

ま、そんなわけですので、L-Boxxではなく、私はこれまで使っていた[PMR500]に替え、PorterCable・PCE6435とともに、Systainerに納まったという次第です。


My Best Router & Trimer

最後に、私が考えるジャンル別の最強なマシン群をリストしてみます。

ジャンル 機種名
(解説Link)
製造メーカー出力(バッテリー仕様)特徴
ハンドルーターOF 1400EQFestool1,400 w高機能
ユーザビリティ
超オススメ
コンパクトルーターDWP611Dewalt700 w 8mmプランジなど2種ベース
Dewalt式深さ調整機能
汎用トリマーPCE6435Porter Cable5.6ADewalt式深さ調整機能
コードレストリマーGKF10.8V-8HBosch10.8Vエルゴノミク
様々な新機構

Bosch Japan 公式な動画

hr

《関連すると思われる記事》


❖ 脚注
  1. 電動工具が発揮するパワーは電圧と電流の積算になりますが、電流を上げれば熱の発生に繋がるなどの負荷が大きくなることから一般には電圧の高度化でパワー増大を叶えてきてるわけです。

    現在では18Vの倍の36V仕様などというものもあるようです。
    この10.8、14.4、18,36という数値ですが、既にご存じの方も多いと思いますが、Li-Ionの単体(セル)の起電力が3.6Vであることでその倍数になっています。

    セルを直列に繫げることで、セルの倍数で高電圧化を図っているのです。

    ところが、この〈BOSCH 10.8V GKF10.8V-8H〉ですが、米国や欧州仕様では 12V になっています。 【12V Max EC Brushless Palm Edge Router GKF12V-25N】 たぶん、同一仕様のものと考えて良いでしょう。

    これはBOSCHの他の電動工具においても以前からも同じ表記であり、定格を表示する基準の違いだと考えられます。

    10.8V、14.4Vという電圧表記は、いわゆる「公称電圧」というものであり、フル充電し、負荷を掛けずに計測した端子間の電圧ということです。 Li-Ion電池の公称電圧は3.6〜3.7Vですので、3つのセルを直列した場合、10.8〜11.1Vになります。 12Vという仕様は11.1Vの繰り上げ的な感覚でしょうか。

    しかし、前述したとおり、まったく同一の規格と考えて良いでしょう。

    因みにパナソニックなどにも12V仕様というものがありますが、これらはLi-Ionではなく、ニッカド電池、あるいはニッケル水素電池です。 いずれも単一セルの公称電圧は1.2Vです。

    本件、BOSCH Japanに糺したところ「アメリカはただ大きく表したかっただけでは?」との迷回答があっただけで、その根拠までは辿り着けていません。 ご存じの方がいらっしゃれば、ぜひご教示ください。 []

                   
    
  • お~これは面白いですね。
    動画で見たら思っていたよりコンパクトでGOOD。

    ④も手軽にできそうですね。
    ②はそんなに切削抵抗ないかなと思っていましたが、③の方が抵抗ないのですね。

    コードレスは惹かれるなぁ

    • 早々のコメント、ありがとうございます。momoさん。
      「おもしろい」トリマーだと思います。

      ②の彫り込み、段欠き加工ですが、材種の硬軟と、深さによる負荷の違いから様々でしょうね。
      ただ、テンプレートガイドや、エッジフェンスが装着できる機構にはなっていませんので段欠きや倣い成形はできませんね。
      あくまでもエッジへのアプローチ専用と言うことで受容するしかないようです。

      したがって、トリマー初導入の方にはお薦めできません。
      momoさんのようなキャリアの方には強くお薦めします ^^)/

  • 大工家具職の道具Wスキー
    こんなののいるん地球より

    便利なものにとびつく前に
    道具箱に溢れる電工ツール
    ごらんじイッパイゴロゴロ

    利益がでる、仕事が出来る
    さつかく、ザッ科のならい。

    主要な電子材料のCu AuAg SnPb Brなど
    埋蔵資源は既に75%は消費されています。
    (20年前の国連ミネラルレポートを購入)

    多層チップ・ソルダリングだけでも浪費加速
    買え変えで実需のこの先は危ういのですョ。
    上からの眩しいハイライトと雲の下の暗さも
    ミネラルショックアリランとみゆる21世紀末。

    今のうちにツールジャパン保存記録板し隊ab

    • コメントありがとうございます。

      ご批判の向きは理解したいと思いますし、甘んじて承ります。
      業務上、用いる道具に使われている素材の中には稀少資源のものもあるのでしょう。
      罪なことをしてると言われれば、口をつむぐしか無いでしょうね。

      他方、これらの道具を使うことで作業性が向上し、省資源に繋がることもあります。
      また私はこの種の道具の物持ちは良い方で、20〜30年ほど使い続けており、決して無駄にはしていません。
      13年使ってきた、本件記事の旧型のPMR500は、近々チルトベースを導入し、さらに活用場面が増えていくでしょう。
      木工機械に至っては主要部分は70年代に製造されたものを使い続けていますしね。

      良い道具を見出し、快適に長く使いこなし、作業性の向上を図るのも、現代社会に生きる家具職人の1つの姿です。

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