剣先の仕口に紐を巻く

これは書棚の一部。
帆立 柱と、棚板の結合部位の拡大です。
ご覧のように、剣先での枘組みですが、そこに紐を巻いたものです。
私はいわゆる和家具的なものはあまり手掛けませんが、李朝の調度品は魅入られることは少なく無く、
この李朝家具をベースとしたいくつもの家具を手掛けています。

ところで、この李朝家具の棚物には、剣先の仕口が広く一般に多用されていますし、またここに紐を巻かれることも少なくありませんね。
そこで私も、この手法を書棚に援用したというところ。
こんな書棚ごときに剣先と紐面…、キッチュじゃ無いの?、との陰口も聞こえてきそうですが、
今回はいわば習作のようなものです。
仕口の加工について
剣先の仕口ですが、決して難しいというものでも無く、ようは、剣先のオスメスを高精度に加工するというところに尽きます。
留め定規で高い精度で墨付けし、これを手鋸、手ノミで丁寧に加工していくだけですが、
私は精度と加工性を高めるため、一部に剣先カッター、あるいはV字ルータービットを用います。
ただ全てをカッター、ビットで加工することはできません。局部への極々、ギリギリの深度で無いと、その奥にある枘に影響してしまうからです。
あくまでも45度×2の墨線を入れる目的といった感じと言えば良いでしょうか。
後の残りは手鋸、手ノミで除去します。
つまり、ケガキや硬度の高い鉛筆などによる墨付けで行うより、45度、あるいは90度の刃物で一発で切れ込みを入れることで、高精度の位置決めが可能となり、ここに手鋸、手ノミでの加工を進めるのはとてもイージーなものとなるという考え方です。
注意しなければならないのは、剣先の深さですね。
いわゆる、この剣先の仕口というのは、胴付きがWになりますので、同一の胴付きで無ければ、具合が悪い。
〈面腰〉の仕口も同じですが、胴付きが複数あるというのはやっかいなもので、神経磨り減らしながら複数の胴付きを合わせていかねばなりません。(ノミのような心臓のあたしは特に…)
剣先の場合も同じで、切れ込みの深さは、その後ろにくる本来の胴付きに高精度に合わせることが肝要というわけです。
紐面カッター(ルータービット)について
因みに、V字カッターの入手法は問題無いと思いますが、紐面のルータービットは、昔、刃物屋さんにカスタムで作ってもらったものです。
国内では既製品は無いのと違いますか?

右がそれです。
曲面へのアプローチも可能なように、コロも付けています。
Top画像をご覧のように、紐面でも他の面取りカッターでも構いませんが、見付、柱の内側、および棚板の上下の面、ここに面を施していくわけすが、途中で加工を止めたりする必要も無く、シンプルに直線的にカットするだけです。
そして、柱と棚板を結合させれば、綺麗にグルリと紐は回ります。
紐面ビットの画像で、紐面の下のなだらかな曲面がありますが、この先端までの距離を剣先の深さにすることで、全ては美しく納まります。
つまり、面形状から剣先の深さが規定されるということになります。
このような関係性は面腰の加工においても同じですね。
腰の量で、面の量も決まり、その範囲ではどのような形状の面でも取れるということになります。
木工の仕口のクールさ
また、剣先も面腰(腰落ち)もそうですが、ちょっと面倒な加工であっても、面取りそのものはストレートに行うだけで、留めの部位は完璧に綺麗に繫がります。
こうしたクールな加工こそ、木工作業における魅力の1つと言えるかも知れませんね。
またこれも良く見掛ける話しなのですが、イモで接合された部位にグルリと面が施されているものの、交叉する部位の片側は、イモであるために、途中で面が切れている(って言うか、イモであるために、切らざるを得ない)ことも見掛けます。
交叉部分はしたがって面が繫がらず、接合後、手作業で面を作ってやる必要が出てくるというわけです。
まったくクールじゃ無いですね。
こうした部位というのは、〈面腰〉であったり〈馬乗り、蛇口〉と言った仕口を施すことで美しく納まるのです。
イモはダメです。
〈面腰〉や〈馬乗り、蛇口〉の加工法を習得されておられない方は、訓練校で教わる、あるいはキャリアの木工職人に一升瓶ぶら下げ、教えを請う、などで、ぜひ自家薬朗中のものにしましょう。
圧倒的に仕事は綺麗で、早く、楽しくクールに展開できることでしょう。
急がば回れ、です。
キャリアの職人の家具というのは、すべからく〈納まり〉が理に叶った、美しいものが多くあります。
中にはごまかしの仕口を多用する著名な木工家もいますが、日本の木工加工技術は古来からほぼ確立されており、この先人の美意識、技術革新への絶え間ない努力をリスペクトし、これに恥じない木工をしていきたいものです。
「FineWoodworking」誌
ところで、この書棚、お判りかも知れませんが、Taunton Press社の〈FineWoodworking〉誌と、カタログ収納のためのものです。
私がこの〈FineWoodworking〉を知ったのは、訓練校の指導教官から貸し与えられた時のこと、
それ以来、定期購読していますので、溜まりに溜まって、その整理のため専用の書棚を作ったというわけです。
〈FineWoodworking〉誌をご存じの方はお分かりでしょうが、
現在、この雑誌はデジタル化され、インターネット上のサイトからアクセスできる他、
DVDなどでもバックナンバーが公開され、お判りのように、検索等の高機能性もあり、リアル雑誌とは違って、利便性が高いものがあります。
また10数年前からは、ここに動画もハイパーリンクされ、リアル誌には無い魅力がありますね。
したがって、こんな書棚で保存する意味がどこまであるのか、疑念無しとしませんが、
私は昔の木工屋ですので、やっぱり、リアル誌のインクの臭い、ページの肌触りから離れるのは無理、無理!


木工家具のデザイナー & 職人のartisanです。
