工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

“プロダクト的思考”と“手作り家具”(その5/面腰・蛇口)

前回のドイツのテキストからの図版ですが、せっかくですので、解説のコメントを付しておこうと思います。

番号順にいきましょう。

面腰 事例 図版

面腰 事例 図版

#369

面腰の仕口ではありますが、枘が上端に開いていますね(次の#370も同様)。

枘と言うより、これは3枚組み手のような感じですが、欧米には比較的多く見られる手法のようです。

加工はノミで開口する必要性がなく、よりイージーですが、組み上げ段階では、接合位置が決まらずに、むしろ苦労します。

枘の位置に込み栓を打ち込んでいる画像を見ることがありますが、そうした手法で抑え込むのでしょうか。

面腰の個所ですが、この場合、正面のみが切削され、後ろ側は残してあります。
これは単に見栄え上の問題でしょうか。

#370

#369同様、枘は開いているものの、面腰部位は極めてスタンダードな事例。

いわゆる片銀杏面が施されています。
(横框の面腰部位は45度にカットされているはずですが、図からは読み取れませんね)

#369のように、枘の後ろ側を「違い胴付き」風にするメリットはさほど感じられませんので、開いた枘の問題は別として、この面腰加工が一般的です。

#371

貫部分への面腰のケースです。

このケースも正面側のみをカットしていますね。
本来はこうした加工が望ましいだろうと思いますし、私も後ろ側への配慮が必要な場合では、こうしたことも行いますが、特段の必要性が無いかぎりやりません。

これでは機械加工はできませんので、私の場合はそのまま後ろまで抜いてしまいます。
現代では、たぶん、そのスタイルが一般的でしょう。
普通には見えない後ろ側ですし、決して「逃げ」ているわけではないので、構わないと思います。

面形状はヒョウタン面に、丸溝が加わっています。様式的なデザインなのでしょう。

蛇口 事例 図版

蛇口 事例 図版

#372

小根付きの枘に蛇口です。

45度ではなく、60度ほどでしょうか。
私の場合、ほとんど45度です。

また扉など、木口側が見えるような場合、小根はあえて付けません。美しくないですからね。

#373

これは「違い胴付き」にした蛇口。

上述したように。この「違い胴付き」により、四角の枠は、後ろ側に一定の段差が生じ、ここに羽目板、ガラスなどを納めることができるようになります。

私は扉、引き戸などの場合、こうした「違い胴付き」にはせず、嵌め殺し、あるいは一部、押縁などで納めます。

ただ、地板などの場合、この違い胴付きは有用です。
納まりが綺麗です。

加工段階で全てが決まりますので、組み上げた後の手ノミ加工など不要に、一定の段差を作ることができます。

胴付きが2個所となるため、加工の精度は相応のものが要求されます。

お薦めの仕口ですので、経験の無い方はぜひトライを!(過去記事

面は片銀杏ですね。

これは、オスメス、2つのカッターが必要となります。
刃物は同時に制作依頼しないとダメです。

私の場合、ヒョウタン面で、こうした仕口を行うことがあります。
ヒョウタン面、つまりS字カーブであれば、1枚のカッターで済んでしまいます。

加え、私などは、このカッターを作る際、7インチの傾斜盤用のカッターとともに、ルータービットも同時に作ります。

直線だけであればカッターのみで構いませんが、曲面成型の場合はルータービットが欠かせませんのでね。
当然ですが、このような同一面形状で2種類の刃物を作る場合、信頼ある刃物製作所に依頼しないとダメですよ。

#374

これは#373の貫部分ですね。
「違い胴付き」になっていますので、この貫を境に上下に段差ができ、落とし込みができます。

工房 悠での事例(カップボード、建具など)

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面腰 貫、束 ディテール

面腰 貫、束 ディテール

さて、次はこのページに続き、紹介されている、扉などでの細い束、貫などの納まりです。
私も、この手の仕口は多用しています。

上画像はその一例でカップボードのガラスの扉(部分)です。

特段の説明は不要かと思いますが、図版とほぼ同じような仕口ですね。

ここはガラスが入ってきますので、裏側は図版のような「違い胴付き」ではなく小穴です。

留め、45度の胴付きが煩雑とお考えかも知れませんが、私は何も苦になりません。
特にジグなども作らず、昇降盤で淡々とやっています。

クロスするところの仮組(完全な仮組などせず、ただ手で押し込み、嵌め合いを見るだけ:組んでしまうと抜く時に破断するリスクがあるので)が上手くのは快感です。


貫を境とした2種の面腰

貫を境とした2種の面腰

最後の画像は、建具の部分。
以前も紹介しましたが、上にポリカが入り、下は腰板と同じレヴェルまで羽目板が納まるという意匠。

この上下2つを弁別させるため、あえて上部ポリカ部分を一段シャクって下げ①、面処理も異なるものとしています。
下は1分弱の坊主面の面腰②。
上は2×10mmほどシャクリ出し、ここにさらに1分弱(=2mm)の坊主面③。

当然ですが、束部分も面腰にしてあります。

こうした丁寧な仕事は古来より極めて一般的な意匠であり、年々、そうした意匠は前近代的とか言われて、捨象され、蔑ろにされている傾向がありますが、そうした「逃げ」に本当の意味での品格があるのかは疑って掛かっても良いかも知れません。

 

面腰、蛇口の使い分け

それぞれ特徴がありますので、構造的な要求、加え、意匠的な要求にしたがい、選別することになります。

面腰は45度の部位そのものも胴付部分となりますので、加工精度はかなり高いものが要求されます。
これが甘いと、どちらかが透きます。
設計通り首尾良くいけば、構造的な強度、剛性は通常の枘より高くなります。

また一方、蛇口と較べ、建具など幅広い縦框ですと経年使用から痩せてきて、胴付きが透いてくるリスクはあります。

面の形状ですが、面腰はあらゆる形状に対応する自由さがあります。
蛇口の方は、オス、メスそれぞれ個別の刃物の対応が必要です。
45度の角面、あるいは上述したS字カーブ(ヒョウタン面)であれば、1つのカッターで対応可能ですが、その他の一般的にはオス、メス2種類のカッターが必要となります。

前回、枠組み以外の面腰の事例として、机を紹介しましたが、
同じ枠組みでも、抽斗の前板を枠で組み、ここにシャクリ出した羽目板を嵌め、立体的な意匠で民藝風にするのも面白いですが、この枠も框で組み、ここに蛇口、面腰で面を施すということも屡々行われます。(この項、続

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