工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

雇用不安と手仕事の相関

派遣切り、雇い止め、などと言った、これまであまり聞いたこともなかった言葉が飛び交う中で開けた2009年だが、自動車産業をはじめとした雇用環境をめぐる情勢は日々深刻の度合いを増している。
期末決算期へ向けていよいよドラスティックな雇用破壊の情勢も不可避かと喧しい。
さて今日はこうした状況下にあって、いわゆる手作業に関わる仕事へと向かう若者が増加傾向にあるという話しだ。
先日雑誌メディアの編集者とお会いする機会があった。
事務的な打ち合わせが主であまり余談もできなかったのだが、いくつかおもしろい話しがあった。
この景気悪化というご時世は、必ずしも悪いことばかりではなく、若いもの作りを志す人にとってはチャンスかもしれない、というのだ。
けっして難しい論理ではなく、またパラドクスというものでもない。
つまり、雇用環境が安定している時代にあっては、これから社会人になろうという人は、まずは会社組織の一員としてスタートしようと志向する人が多い。
例え独立心があっても、まずは会社に入って経験を積み、スキルを身につけるというプロセスを取るというわけだね。
ところが急速な景気悪化で求人は来ないどころか、労働市場は収縮し、若手の未熟な職員は解雇されてしまう。
こうした雇用の不安定化を前にして、若者たちの中には手業に自身があり、もの作りに興味を持つ者の選択肢として、木工家具制作などに従事しようと言う者が増加しているというのだ。
う〜む、なるほどね。
そうしたこともあるだろうね。
大いに結構。
新しい若き作り手が産まれるのは良いことだ。
若者ならではの斬新さと大胆さで木工家具業界に新しい流れを作ってもらいたいと思う。
こうなればもはや老兵は去るのみ、であるが、しかしそうした木工志願の若手に、決して安易に備わるものとも思えない木工技法体系を伝えていくのもOld Woodworkerということだろう。
また、ただ雇用不安だから職人の世界に飛び込んだ、と言ったことだけではなく、終身雇用が当たり前の日本社会の有り様そのものが瓦解しつつあることの意味、つまり社会的な、あるいは歴史的な背景を考え、そうしたものとの対比で、もの作りというものが意味する労働観、人生観ということについても考えていただくならなお良いだろう。

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  • 先日、軸傾斜を納入してくれた中古機械店の人も同じような事を
    言っていました。
    「最近、木工始める人、増えてますよ」とのことでした。
    その中には「趣味」の人も含まれているとは思いますが雇用不安との
    相関関係はありそうに思います。
    木の事を知ってくれる若者が増えてくれることは、ありがたいことです。

  • acanthogobiusさん、
    へぇ〜、そうなのですか。
    機械屋にとっても喜ばしい話しでしょうね。
    こういう話しになりますと、私たちの側からはパイを奪われると見るか、木工界全体の活性化に繋がると見るかで、まったく違った視座があり得るわけですが、個人的には後者でありたいですよね。「武士は喰わねど‥‥」の伝で‥(苦笑)

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