工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」“工場再建屋”

先々週のNHK番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」ではWebデザイナー「中村勇吾」を取り上げたが(こちら)、今週は“工場再建屋”としてその名を轟かす山田日登志さん。
(火曜日の放送だったが、ドメイン・レジストラ移管問題でエントリが遅れちゃった)
この山田という人、以前経済誌での紹介で知っていたこともあり、興味深く見ることができた。
産業界のジャンルを越えて、数々の低迷する赤字工場の再建を成し遂げてきたというツワモノ。
当工房も考えてみれば低い生産性と、決して良いとは思えぬ作業環境であれば、この鬼の山田さんに掛かれば、果たして蘇ることができるか(笑)
というのも、実は番組ではいくつかの工場が紹介される中で、中心的に取り上げられたのが高山の飛騨産業という日本の家具産業では老舗中の老舗の本社工場だったからだ。
キツツキマークの飛騨産業と言えば創業90年近くにもなるのだろうか。日本の近代化の中にあって、いわゆる洋家具の普及、大衆化ということでの貢献度 No.1の会社かもしれない。
70年代には対米輸出なども試みたりと、家具産業界での一方の雄であったことは誰しも認めるところだろう。
高山と言えば全国有数の家具産地であるが、いわゆる脚物(アシモノ)と言われるものが得意であるところに産地としての特性がある。
これも飛騨産業の歴史と現在というものから読み解くことができるだろう。
しかしこの脚物というジャンルは、現在のようなグローバル化社会にあって、いわゆるBRICs諸国、東南アジアなどからの輸入攻勢で市場における競争力を著しく低下させてきていることは周知の通り。
しかも老舗中の老舗ということでの様々な伝統的な経営戦略、工場運営というものは、時として旧弊に閉ざされることで未来を展望することが困難、ということは想定にあまりある。
そうした状況というものを抜本的に打開するには、この鬼の再建屋、山田さんの手を借りるっきゃ無い、とばかりに番組が構成されていた。


具体的取材対象としては家具のパーツである曲げ木の成形、仕上げ工程をめぐる生産性の向上に取り組むものであった。
木取り、圧力鍋で蒸し上げ、プレス成形し、サンディングして仕上げる。
これらの工程をそれまで3人の職人でやっていたものを1人でできるようにと、工程全般にわたって見直すというもの。
そのセクションの責任者は数十年のベテラン職人、最初は山田の要求にはとても応えられない、と反発するが、そこは職人としての経験と、自ら細かな工程を検証することで工夫を懲らし、相当程度の時間削減に繋げ生産性向上を成し遂げてゆく。
最後は「本当はこうして工夫するのは好きなんだよね」と 笑って応える。
ここには老舗と言われる名門製造業における日々の仕事のルーティンワークも、外部からの厳しい指摘により、想定を越える生産性の向上をなし得ることが示されている。
こうした規模の工場での生産システムの管理というものの多くは工場長の資質によって決まる要素が大きい。
やはり職人的資質に富んでいることはもちろん、個性豊かな職人達をまとめ上げる組織運営者としての才覚にも優れた物を持ち、進取の精神を尊ぶ人でないと生産性向上も為しうるものではない。
恐らくはこの飛騨産業でもそうした有能な工場長が在籍しているに相違ないだろうが、しかしやはり外部の目で見なければ、無駄であったり、硬直化した生産システムというものが顕現されないということがあるのだろう。
この山田さんという人は木工は全くの素人だが、実は家具産業でも木工コンサルタントという人材がいた。(児玉さんという人は関連書に良く出てくる人物)
現在はどういった状況なのか不明。
産業としての低迷ぶりからすれば、そうしたフリーの人材はいないのだろうか(寡聞にして聞かない)。
さて翻って我々のような木工房はこうした生産性の問題から自由であり得るだろうか。
全くそんなわけがない。
しかし、一方その視座はかなり違うものになるだろうことも明らか。
生産性を過度に追い求めることからは、我々のような立脚点は存在し得ないものとなってしまう。
もっとオールタナティヴな、あるいはファジーな要素も含んだ“もの作り”という立脚点が無ければ、飛騨産業のような量産家具メーカーとの区別もなくなってしまう。
もっと言えば、明確に峻別するところから始めねばならないということになるだろう。
量産家具メーカーの生産性というものを対象化しつつも、はるかにその上をいく品質と創造性豊かな“もの作り”の現場を創造していかなくてはならないということになるのだろう。
■ プロフェッショナル 仕事の流儀▽輝け社員、よみがえれ会社〜工場再建・山田日登志 再放送:08/04/22(火)01:10〜01:55(21日深夜)

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • ここのところプロフェッショナル見逃してるのですけど。
    飛騨産業そんなことになってたんですか。
    知りませんでした。
    秋田木工は会社更生法適用されちゃうし。
    家具見本市がお粗末になる訳ですね。

  • ユマニテさん、この度はお騒がせしまして相済みませぬ。
    湯沢市の秋田木工の創業は飛騨産業よりも遡るはず。
    現在は結局自主再建は成らず、大塚家具の傘下に入って細々と継続しているようです。家具産業界の疲弊と、地域経済の崩壊と、取り巻く環境は厳しすぎます。
    ユマニテさん羨望(かも知れない)の裏刃付き南京鉋を駆使する職人さんたちも高齢ですからね。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.