工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

クラロウォールナット 小卓

クラロウォールナット

異形のテーブルです。

木に少しでもお詳しい方であればお気づきのことと思いますが、
原木丸太から製材された板の、隣り合わせのものを左右に展開し、結合させたもので、
いわゆる“ブックマッチ”という手法で構成された甲板です。

ただフツーの材木では無いがため、このような異形になってしまった、
と言うか、この異形を異形として味わい、活かす試みです。

フツーで無いというのは、
まずはこの形状であり、そして特有の木理、あるいは色調ですね。

甲板の形状

まず始めに、この異形の形状について簡単に説明を付します。
クラロウォールナット、という樹種ですが、これは接ぎ木されたウォールナットの台木の方のことです。

一般には北米の在来種のブラックウォールナットに、欧州のウォールナットを接ぎ木するのだそうです。
無論、用木のためではなく、クルミの実の採取のため。
その結果、異種材での接ぎ木により、一般のブラックウォールナットには視られない、色調、木理、あるいは特有の物理的特性が生成されていくのです。

そしてこの形状ですが、前述したように、接ぎ木であることで、このように台木の方は根踏ん張りの部位が大きく迫り出し、偉容を誇る、というのがクラロウォールナットに一般的に視られる、この異形の形状なのです。

私は、過去、このクラロウォールナットの原木を7〜8本購入し、製材してきていますが、
最初はこの台木の部分が2mを越える巨大なもので、
普段から取引のあった材木屋に、ドンッ!と屹立しているのを見掛け、それはそれは圧倒されたものです。

クラロウォールナット、バール杢部分

樹径も1.5mを越え、1.2mが限界の製材機に掛けることは敵わず、泣く泣く、クラロウォールナットならではのバール杢、縮み杢が集中している根踏ん張りの部分を大型チェンソーで切り落としたものです。(その部位から穫ったのが右の扉部分。ちょっと凄くないですか、この木理)〈クラロ飾り棚


鉋イラスト

今回は、実は私が製材したものでは無く、乾燥材のクラロがあるので買って欲しいとの話があり、長さが短く、しかも半割りの形状というのが難点ではあったのですが、
木理が良いものを数枚選び、その中の2枚をブックマッチでテーブル甲板に仕上げた、という経緯。

ブックマッチではあるのですが、クラロウォールナットの1枚板でも、こうした形状と木理の配置になるのは、比較的一般的なものですので、さほど違和感は無いと思われますがいかがでしょうか。

ただ、あえてそのまま矧ぎ合わせることはせず、矧ぎ口は1分(3mm)ほど間隔を開け、左右と中央に3つのバタフライのチキリで繋いであります。

2枚は矧いではいませんし、結合安定させるためのチキリだけでは不十分ですので、裏側にくる寄せ蟻の吸い付き桟により、安定的に接合されるという具合です。

仕事としては矧ぎ合わせた方がはるかに容易ですが、あえてブックマッチであることを明示する意味合いからこうした手法を取っています。
工房 悠は誠実さがキモ、(なんちゃって)

クラロウォールナット、拡大
部分、拡大

大小のバール杢(瘤杢:大小の枝の部分ですね)、縮み杢が配され、またクラロウォールナット特有の美しい色調、チョコレートブラウンから、明るいピンク系、あるいは緑色から紫色まで、多彩で複雑な色調が絡み合い、美しいです。たまりませんね。

脚部

クラロウォールナットの脚部

一言で言えば、工房 悠のスタイルといったところでしょうか。
3本の束を持つ中央の根太に、左右のズリ脚を相欠きさせ、ここに2本づつ、傾斜、成型させた柱を枘建てさせるという構造です。

日本の家具市場にもクラロウォールナットの甲板を持つテーブルは決して珍しくもありませんが、
ただ残念ながら、脚部は4本の角柱で支えるだけという、有り体なものがほとんど。

クラロウォールナットという稀少で高品位な甲板を、量産家具や、手作りナンチャラなどで見受けられるあまりに安易な脚部デザインで事済ませているというのは、クラロウォールナットと言う樹種を蔑むものであり、木を愛するものからすれば犯罪的であるとさえ思えてなりません。
きちんと仕事しなさい!と言いたくもなります。

ようするに、品質におけるバランスです。
甲板にいかに稀少材で魅力ある材と意匠を適えたとしても、それを支える脚部にも、この魅力ある甲板にふさわしい材質と意匠を備えたものでないと、どうも落ち着きが良くありませんね。

ふさわしいバランスを考えませんと、クラロウォールナットの甲板もキッチュなイメージに堕してしまう結果にもなりかねません
バランスです。

鉋イラスト

ところで、この脚部はクラロではなく、一般のブラックウォールナットですが、市場で流れているものではなく、調達した原木丸太から製材、乾燥させたものを使っています。

市場に流れているブラックウォールナットのほとんどは生産地である米国で乾燥されたもので、本来の色調を失っている“なんちゃってウォールナット”であり、家具として製作された時点で、既にクラロウォールナットとの色調の差異は大きいものですが、経年変化とともに、この差異は限りなく拡がっていきます。

どういう事かと言えば、クラロウォールナットの天然乾燥材は、本来の魅力ある木理と色調を留めるだろうことに対し、工業生産向けに乾燥管理されたブラックウォールナット材は、本来のブラックウォールナットの材色は失せ、劣化の一途をだどる傾向が強いのです。

クラロウォールナットを用いる家具の場合は、こんなことは許されませんので、色調、物理的特性を損なわない、天然乾燥のブラックウォールナットを使うに限りますね。🤨

このクラロウォールナットの小卓で、お茶を啜るのも良し、お茶漬け啜るのも良し。
いやいや、シャンパンを楽しむのはサイコーでしょう。

hr

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