工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

クラロウォールナット、20年ぶりの邂逅

うちで造ったローテーブルを、引越を機に用途を変え、フツーの高さのテーブルに作り替えてくれないかとの相談のメールが入ってきたのです。

1.stコンタクトの場では思いおこせなかったのですが、その後、添付されてきた画像には、20年という月日を経、使い込まれ、色褪せた色調の甲板があり、その特異な形状から、確かに私が制作したクラロウォールナットのセンターテーブルであることが確認できたのです。

クラロウォールナットといえば、稀少な樹種とはいえ、日本国内で私だけが取り扱っているものでもなく、半信半疑で当時の書類と記憶を辿ったところ、もう20年も前のことで、伊勢丹新宿本店での「モダンクラフト展」に出品した会場で買い上げられたものでした。

このクラロウォールナットは原木丸太で求めた2本目のもので、長さこそ1.5mほどの短いものでしたが、太いところの幅はほぼ同じく、1.5mもの樹齢のあるもので、またそれだけに様々な杢を醸し、いかにもこれこそクラロウォールナット!といった、素晴らしい出遭いの原木でした。

この頃、毎年開催された伊勢丹本店での「モダンクラフト展」出品に誘われ、これをセンターテーブルとして設計製作、出品したものでした。


ただこの時は、2Wayで使っていただこうと考え、酒床といったイメージで、ローテーブルの機能と共に、高さ15cmほどにも設えることのできる設計、施行を加えたのでした。

そして、20年後、顧客の要望に拠るものであったとはいえ、2Wayだったものを、さらに3Wayとして使っていただく、まぁ、何とも贅沢なものになったという次第。

構成

この2Way〜3Wayの構造ですが、元々、決して複雑なものではなくシンプルな構造で、それ故に顧客からの要望、2Way → 3Way に比較的容易に改修することができたのです。

甲板

甲板の裏には、左右、寄せ蟻の桟を施し、この桟に、前後2ヶ所、脚部が相欠きで納まるよう左右と下部、3ヶ所に欠き取りが施されています(上図、参照)。

脚部を完全に接合する場合は、さらにこの欠き取り部の中央にホゾを建てることが基本です。
ただ今回のようにノックダウン方式の場合、枘建てにしてしまいますとノックダウン・解体が困難になりますので、この枘は設けず、別の方式で固定させます(後述)

脚部

元々のローテーブルの脚部の意匠は逆ハの字型でしたので、この新たな脚部も同様に逆ハの字型にします。

こうした設計、意匠は必ずしも正統的なものでは無いのかも知れません。
また、加工プロセスはこの傾斜により、精度を確保しながら行うのは、数倍も難易度が高まるのは必定なのですが、それがもたらす意匠的な効果を考えれば、労を厭わないというのが、うちの流儀。

シンプルに、ドドンと4本の脚部を建てれば、家具として要請される条件を満たし、それで事済むところですが、このクラロウォールナットの甲板形状を考えれば、その特異さに脚部が負けてしまう。
… であるならば、この特異な甲板のクオリティに合わせた脚部デザインが求められ、その1つの応答がこうした考えと意匠になるというところですね。

畳ズリ脚は吸い付き桟同様に左右と上部を相欠きで加工し、こちらはその中央に枘を建てます。

鉋イラスト

この脚部には、上部の寄せ蟻桟と接合する部位の左右にはこの寄せ蟻桟と結合させるための貫を設け、ここから左右2ヶ所にM8のボルトを埋め込みます。寄せ蟻桟側には鬼目を埋め込み、この貫からのボルトを受け、結合を適えます。

この方式は元々のものでしたが、さすがに20年の時間経過を窺わせるように、艶消し黒焼付塗装のキャップボルト(ボルト頭が六角穴になっている)が一部錆び付いていました。
焼付塗装ですので錆びにくいとはいえ、サビを完全に防ぐことはできなかったということでしょう。
あらためて今回はステンレスのキャップボルトに替えておきました。

左右の脚部を繋ぐ貫を加工します。
この貫の胴付きの距離は、あらかじめ決まっている甲板裏の寄せ蟻桟の位置関係に規定されます。
最初の逆ハの字型と同じ傾斜では脚部が長くなる分、やや安定性に欠けることから、緩やかな傾斜とし、この角度から設計上の貫位置の距離を求め、加工します。

甲板のリフレッシュ

今回はあらためて手鉋での削り直しはしていません。(顧客の予算との関係から)
サンディングと一部、スクレーパーでのリフレッシュで塗装下地を作りました。

サンディングですが、うちでは三点ベルトサンダーという機械で行います。
#180 でしっかりと塗膜を落とします。
その後、#240、#320と、素地調整を行っていきます

オイルフィニッシュですので、ほんのわずかな塗膜しか無いのですが、完全に削り取るのは簡単では無いですね。

こうしたマシンが無い場合は、125φとか、150φほどのランダムオービタルサンダーで行うことになるでしょうが、ポータブルサンダーですとその研磨力の非力さから大変な作業になってしまうだろうと思います。
その結果、こうした甲板のリフレッシュ作業で起きがちなのが、局部的に過剰にサンディングしてしまい、平滑性が損なわれてしまいがちという問題があります。
そうしたことにならぬよう、くれぐれも留意し、直定規で頻繁に板面の平滑性を確認しながら行いましょう。

なお、本来であれば、こうした甲板、板面の局部的な落ち込みを防ぐのはポータブルサンダーでは無理なのですね。
これを避けるには、大型マシンのワイドベルトサンダーで行うのが最善ですが、個人工房ではその活用は詮ないこと。
上述の通り、簡易なマシンである三点ベルトサンダーを正しく使いこなせば、そうしたトラブルはかなりの水準で避けられます。

こうした設備が無い個人工房の場合、どうすれば良いのか。
あれこれ考える必要は無いでしょう。寸八の手鉋で削り直せば良いのです。
この日本の台鉋さえ使いこなせれば、局部的な落ち込みは避けられ、また全く新たな木理を引き出し、すばらしい板面が得られるのです。

塗装

オイルフィニッシュを施しますと、以前とは見間違えるほどに、クラロウォールナットの光輝く板面が現れました。

hr

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