工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

環境問題の視点(最近のニュースから)

4月6日地震に襲われたばかりのイタリアの古都ラクイラ(L’Aquila)で開催されていたG8・主要国首脳会議が閉幕したが、今日はこのG8でも主要議題の1つであった地球温暖化問題に関わることについて最近の報道からのいくつかの覚え書きを。
ラクイラG8では
G8ラクイラサミットでは先進国側は2050年までに地球温暖化ガスの排出量を80%削減することで合意し、バラク・オバマ米大統領は「歴史的な合意だ」として自賛するなど、“一定の前進”が見られるようだが、
同時開催された中国やインドなど新興・途上国を交えて開いた主要排出国会議(MEM)の首脳宣言では「50年までに半減」の目標は結局合意に至らず、「主要国の取り組みは十分でない」との潘基文・国連事務総長の落胆は、今後世界の多くの良識ある人々に広く共有されるだろう。
先に麻生首相は2020年までに05年比で15%削減する、との中期目標を掲げ自画自賛したものの、環境派はもとより、欧州各国からは落胆と失笑を買うという顛末だったようだが、このG8会場では我が首相はどのようなヘゲモニーで議論をリードしたのか知りたいところだ。
ペットボトルは扱わない町
ところで昨夜、G8会場とは遠く離れたところから、環境問題にとってもっと小気味の良いニュースが世界を駆け抜けた。
ペットボトルはうちの町ではもう今後は一切扱わないことを決めたよ、というニュースのことだね。
このニュースにはホントに驚かさ、思わず快哉を送ってしまった。(YouTube


この町とはオーストラリア・ニューサウスウェールズ州、バンダヌーン(Bundanoon)という人口約2000人の町。
現地から送られてきた映像を見ると、町議会というようなものではなく会議室のようなところで数百名ほどが集い議決しているといった様子。(何やら直接民主主義のような牧歌的なところがいいですね)
町内の小売店も全て同意を取り付けているとのこと。
背景は次のようだ

豪飲料会社ノーレックス・ホールディングス(Norlex Holdings)が、バンダヌーンでくみ上げた地下水をシドニーでボトル詰めし、再びバンダヌーンに輸送して販売するとの計画を発表した‥‥
「この問題がきっかけで、住民たちの目がペットボトル飲料水が環境に及ぼす影響に向いた」と、地元の活動家ジョン・ディー(John Dee)氏。

この賢明な判断を下した住民の方々には、ボクは心から敬意を表したいと思う。
こうした自治体単位でのこの種の決議は世界では例を見ないという。
こうした決議にこぎつけるにはいくつかの特有の背景があったことは確か。
自分たちの町で汲み上げた地下水を遠く離れた都市の工場でボトル詰めされ、これをあらためて町まで持ち帰り、店頭に並べ、住民はこれを店で買う、というシステムはいかにも環境保護とは相容れぬ“現代的”手法。
ペットボトルで飲料水を確保することの様々な利便性に象徴される現代社会の消費構造というものは、明らかに病んでいると思う。
そこには過剰なエネルギーが消費され(プラスチック製造、輸送コストなど)、それとともに環境への負荷も増大するという問題とともに、何よりも生命維持のための基本的資源の摂取が資本の手に渡ってしまうという大きな問題が横たわっているということを、この住民達は気付いてしまったのだね。
『HOME』(池澤夏樹の場合)
最後にもう1つの話題。
先に紹介した環境映画『HOME』に関して事後的な話しも少し加えて考えてみたい。
7月4日付け朝日新聞夕刊紙の池澤夏樹氏の定期コラム「終わりと始まり」にこの『HOME』が取り上げられていた。
ご存じの方も多いと思うが、彼は家族同伴でパリ郊外に拠点を移し、欧州全域を旅したりしながら執筆活動をしている作家である。
『HOME』の制作国はフランスであるということも手伝ってのものか、この世界環境デーに合わせた世界同時での公開は、パリの場合、エッフェル塔前広場に巨大なスクリーンを設置し、大勢のパリッ子がピクニック気分で鑑賞(もちろん「フランス2」でもゴールデンアワーにCM無しでの同時放映)
しかも、同時発売されたDVDは5ユーロ(約650円、日本では4,700円 ← この差はいったい ?!)。
池澤はこの『HOME』について「映像は美しい‥‥、この映画はその一言に尽きる」とまで語っているが、Blogでも書いたようにこれは全く同意する。
彼は監督でカメラマンの「ヤン・アルテュス=ベルトラン」を高く買っているようで、スチール写真の作品は以前より見ていて、今回の動画による圧倒的に増した説得性は無論だが、やはり何よりも美しいというところに最大の評価を置く。
結語に「日本ではこの映画はほとんど話題にならなかったようだ。それが偶然ならばいいけれど、無関心の表明だとしたら残念だ。エコ・ポイントとプリウスだけでは世界は救われないだろう。」と嘆いて見せた。
その前の段では、この記事の冒頭に上げた麻生首相による世界からの失笑を買ってしまった温室効果ガス削減目標のニュースを取り上げていたので、国内ニュースにも関心を怠っていないことは判るが「日本ではこの映画はほとんど話題にならなかった」が何を根拠にしたものであるのか、苦笑を禁じ得ない。
(DVDの国内版権者のスタンスと欧州のそれとの彼我の差異は販売価格の差異にいみじくも表されている?)
いや、ボクのBlogなどネットの隅っこの端っこで騒ぎ立ててもへの突っ張りにもなりゃしないことなど承知していてもだね。
実はこの池澤、先にもイラク開戦時における日本の関心の低さを同様に難じたことがあり(これも朝日新聞紙面)、その後、同紙「声」欄では強い反論記事が出たりして批判を受けたことがあった。
しかしあらためて冷静に考えれば、残念ながら、日本国内の事情ということでは、国外に在住していることでより客観的に見えて来るであろうことも確かであり、彼の嘆きは決して不当なものとは考えにくい。
むしろ、池澤はそうした立場に身を置くことで、ある種「坑内のカナリア」として自らを課しているのだろうから。
「2020年までに05年比で15%削減する」と宣揚しつつ、一方でCO2ばらまきの休日高速利用料金1,000円乗り放題の政策(?)やら、電力業界との癒着から自然エネルギーによる電力買い取りへの政策誘導は遅々として進ませないというスタンスと、一方欧州各国によるエネルギー政策転換への社会的同意による本気度の大きな落差からは、そうした池澤の嘆きもまだまだ抑制的な水準と言えるのかも知れない。
近くやってくるだろう衆議院解散総選挙では、そうした議論も大きなアジェンダの1つとなるのは確かだろう。
このところ、芸能界出身の地方の首長たちが、国政への過度な傾斜を見せているが、彼らから果たして、この危機に瀕する国家をめぐる政治思想の一端でも開陳してくれた試しがあるのだろうか。
真に不思議な光景ではある。
*関連記事
世界環境デー、全世界で一斉公開 『HOME 空から見た地球』
君は視たか‥‥《HOME 空から見た地球》

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  • 初めて投稿します。
    自己紹介を一言、木をそして木を育てる森を自然を
    こよなくいとおしむはしくれです。
    いつでしたか新党・さきがけが環境を前面に押し出し
    選挙に臨み、それだけが主原因だったとは思いませんが
    惨敗し、党も解散しました。
    あの結果を見て、日本人の環境問題に対する認識の薄さを
    やはりそうだったかと再認識したことがあります。
    それと同じ頃、NHKで宍道湖のシジミ漁師のドキュメンタリー番組があり、
    宍道湖にかかろうとするコンクリートの橋を背景に、その漁師の方が漁をしながら、
    「人間はどこまで便利さを求めるのだろう、もうそろそろ
    いいだろう・・・」
    とつぶやくシーンがありました。
    私は、環境問題の言葉を聞くとき、この二つの記憶が同時によみがえります。
    安直な便利さ もうそろそろよいでしょう。
    「ペットボトルはうちの町ではもう使わない」
    よくまとめ上げたものですね。感心しました。
    裕さん
    (失礼でないなら、我が家ではそう呼んでいますので)
    影ながら応援しております。
    これを機に、時々立ち寄らせてください。

  • 半次郎さん、コメントありがとうございます。(どなたか判りませんが、木に関わるお仕事をされていらっしゃる方でしょうね?)
    「新党さきがけ」、ありましたね。
    武村正義氏、田中秀征氏あたりが主軸になって、衆院選ではかなりの議席を獲得。
    細川内閣の頃でした。
    その後は村山内閣を支えたりして、中村敦夫氏が代表になったりと、離合集散を繰り返し、今は?「みどりの会議」とかに変更して消滅?
    確かに環境重視を正面から謳った党派でした。
    総じてリベラルで護憲派、というイメージ。
    現在は一部は民主党に合流し生き存えていると考えることもできるでしょう。
    結局、党派とはいってもコアな支持母体を作ることが難しかったということなのでしょうか。
    なお、因みに先月の欧州議会の選挙(5年に1度)では中道右派の進出とともに、緑の党は躍進したとの報道がありました。
    >安直な便利さ
    「安直な」というところがミソですね。人間の愚かさです。
    「安直な便利さ」を求めるが故の結果、むしろ本質的で取り返しの付かないほどの大切なものを失ってしまっているのかもしれません。
    半次郎さん、これからもあなたのような人にもコメントいただけるような記事を
    たまには上げていきたいと思いますので、どうかよろしく。
    「裕さん」でも。「ジロウ」でも結構ですので、
    “影ながら”などと控えめでなくとも結構ですので、応援の程よろしくお願いしますよ。

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