工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

アフガニスタンから届いたニュース(追記08/27)

仕事を終え、夕食の準備を進めながらTVを点けたら、大変驚く事態が報じられていた。
アフガニスタン東部ナンガハル(Nangarhar)州で農業事業活動中の「ペシャワール会」(NGO)のスタッフ、伊藤和也さんが武装グループにより拉致誘拐されたとのニュース。(asahi.com
一瞬足下が崩れる思いがした。
悲嘆にくれた理由にはいくつかのことがある。
まず何よりもターゲットにされたのが日本のNGO・「ペシャワール会」のスタッフであったこと。
周知のように「ペシャワール会」とは医師、中村 哲さんのパキスタン、アフガニスタンでの医療活動、農業事業を支援するために結成されたNGO。
拉致された伊藤さんは大学で農業を修めた専門家として、2003年、慕う中村ドクターを追うように現地に入り、「ペシャワール会」の事業「緑の大地計画」を担うリーダー的存在となっていたという。
現代のグローバル化社会はG8などの先進国、BRICs諸国、そして資源国による政治的経済的支配が貫徹されるなか、多くの南の国が収奪の対象となり、困窮を極めるという2極化が進んでいるが、それに留まらず経済の軍事化は米国による様々な紛争への軍事的介入を招いている。
そのターゲットになったのが9/11対抗としての2,001年のアフガン侵攻(「不朽の自由作戦」)だった。
砲弾飛び交う中を、医師、中村 哲さんは医療支援活動、農業事業など精力的に活動していることはボクを大いに驚かし、そして感嘆させたのだが、まさに日本の民主主義、国際支援活動の希望の星としてその印象を強くしていた。
今も継続されている日本の自衛隊による米国のアフガン侵攻への支援活動は、現地アフガンの人々にとり日本への印象を悪化させるものであることは容易に想像できることだが、中村 哲さんの活動は、これを打ち消す“日本の良心”として現地の人々の心奥深くに刻み込まれている。
政府ODAも規模とパワーで現地に強くインパクトを与えるが、人的、継続的、現地密着的な中村 哲さんのようなNGO活動のソフトパワーの方がより有益でかつ信頼醸成に資する。
ところでアフガンの近況は残念ながらより悪化しつつあるようだ。
タリバンによる武装蜂起が各地で勃発、首都カブールでもテロが頻発。米国の傀儡でしかないカルザイ政権も戦争状態であることを認めるほどの困難な状況。
なお、本件拉致事件の情報は混乱を極めている。
午後8時頃は、外務省筋から解放されたのうれしいニュースが飛び込んできたものの、その後、外務省担当者から、これは誤報であったとの会見。
ただただ伊藤和也さんの無事を祈るだけだが、いつぞやのように、政府関係者、メディアなどからの「自己責任」論などのパッシングが起きないことを祈っておかねばならないのが、今の日本の暗澹たる時代精神を生きる者の務めであることが悲しい。
朗報を待ちたいと思う。

*    *     *

追記(08/08/27・21:30)
断腸の思いで「遺体発見」の報を知る。
 悔しくて、悔しくて ‥‥‥
「解放の可能性」も含む混乱した情報が飛び交う中、最悪の結果が外務省、および「ペシャワール会」本部(福岡)へも現地関係者から伝えられたという。
一方のタリバンも伊藤さんの誘拐を認めた上で、「治安部隊との銃撃戦に巻き込まれて死亡した」と発表している。(AFP BBNews
どのような経緯で拉致され、また武装部隊がタリバンであったとして、現地民衆とともに農業事業に従事する「ペシャワール会」ワーカー、伊藤さんとの関係にどのような緊張関係があったのかもその詳細は不明だ。
ただ「ペシャワール会」はその活動の歴史は80年代初頭からのものでとても長く、また現地密着型で、医療から始まり、灌漑事業、農業事業など現地の住民の生存にとり、もっとも重要でかつ長期的に現地に根付く事業を粘り強く、住民を巻き込み、共に取り組むことで、他のNGOからは羨望の眼で見られるような信頼を勝ちとっていたという。
今回、捜索隊を組織しようとしたとき、数百人の現地人が我も我もと手を挙げたということからもその協調関係というものが推し量れる。
現地におけるNGO活動は今後とても困難を強いられる局面を迎えたと言え、事件の背景分析が急がれるが、数10年にわたる内戦状態、米国を先頭とした国際的な軍事侵攻などで、国土、人心はすさまじく荒廃し、まともな人間的倫理観など通用するような甘いところでないことは明らか。
そうした状況を少しでも改善しようと中村哲さん、そして伊藤和也さん、そして多くのNGOが支援に当たっているのだが、こうした活動が受け入れられないほどに荒廃が進む状況というものの背景には、やはり米国の「対テロ戦争」の名の下でのアフガン侵攻以降の戦争状態があることは否定できない。
同時にこれは「有志連合」にいち早く手を挙げ、後方支援として参加した日本の自衛隊の活動もあったことは現地住民にとっては周知のことだろう。
「遺体発見」の報は実にいたたまれず、伊藤和也さんの無念さを考えたとき痛憤の思いで受け止めるしかないが、これを機にアフガニスタンの戦争状態を一日も早く休止させ、国際的管理下におくべく、関係者の英断を望みたいと思う。
何よりもまず軍事侵攻の手を弛めない米国の撤退を強く望みたい。
現在後方支援に従事する日本の空自はこの12月で期限満了で撤収する予定だったが今回の事態を受けて、その方針がどう変化するのかは注視したい。
悲報に接し苦悶しているご両親には心からのお悔やみを伝えたい。
あなたがたのご子息は、「誰もが行きたがらない所に行き、誰もがやりたがらないことをする」(ペシャワール会)ことに人生を賭け、その強い意志の下、専門とする農業の知識と経験を生かしアフガニスタンの未来を現地の住民、子供達とともに切り拓きつつあったのです。
恥ずかしながら馬齢を重ねるボクなどとは異なり替わるべき人のいないとても大切な人でした。
残念ながら志し半ばに倒れたとはいえ、ぜひ誇らしい息子として迎えてあげてください。
これまで同様の事例でのご家族の言葉「皆さまにはご迷惑を掛けまして申し訳ありません ‥‥」という定型発言は無用です。
ご子息和也さんのためにも誇らしく迎えてやってください。
(なお、現在もメディアによっては発見された遺体が伊藤さんのものとは確認されていないことを前提とした記事を配信しているようだが、現地ペシャワール会も遺体を現認し、先ほど流れたタイ経由で入国しようと移動中の中村哲さんも明確に認めていたことを前提とした)
追・追記(08/08/27・23:20)
伊藤和也さんがアフガニスタン派遣の志望について書いた「動機」の文書(03/06/15付)が「ペシャワール会」より公表されている(asahi.com
ペシャワール会

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