工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

めったに使われない鉋

今日は冬至。湯ぶねにゆずを浮かべたり小豆がゆやカボチャを食べたりするよね。
ボクは日を置かずカボチャを食べているので、あらためて、ということにはならないけれど。
キリスト教文化圏でも冬至祭というものがあるようで、世界規模の習俗なんだね。
こうして二十四節気の中でも冬至は季節の移ろいを格別に喚起させるもののようであるが、しかし本格的な寒さはこれから。
いわば冬至は冬の入り口で、この後、小寒 → 大寒(01/20頃)へと厳しくなっていく。
ぜひ寒さに負けずに立春を迎えていただきたいと思う。
既にA[H1N1](豚インフルエンザ = 新型インフルエンザ)罹患はピークを超えつつあるようだし(IDSC:1、およびIDSC:2)、これからの時期、懸念されている季節性のインフルエンザの罹患報告の方は、何と激減しているとの報が出てきている。(NHK
これは国内だけではなく、米国、豪州などでも同様の傾向という。
しかし予防を怠らず、忙しい師走を乗り切りたいものだ

鉋イラスト

さて、ここから本題。
めったに使われないものだけれども、ないと困る道具というのもたくさんある。
この攻鉋(せめかんな)もそうしたものの1つ。


ボクは修行していた段階で、既にかなりの道具を取りそろえていたが、中でも鉋についてはほとんど一揃い買いそろえていた。
訓練校時代にせっせと上京しては直平、水平屋などの暖簾をくぐっていた。
ただこの攻鉋を入手したのは、親方の下で世話になっていた頃のこと、確か親方が贔屓にしていた横浜の道具屋に伴われて立ち寄ったとき、他の小鉋などと共に購入したものだったと記憶する。
仕込み後も、決してその登場の頻度は高くはないのだが、無いと困るときがある。
例えば、画像のような場合だ。
攻鉋
これはある小さな箱ものの甲板の端嵌め部分。
いわゆる筆返し様に反り返った端嵌めを持つ甲板なので、メチ払い作業にはこの攻鉋ぐらいしか使いようが無い。
そうだねぇ、あえて他の道具で代用させるとすれば曲面形状のスクレーパーぐらいか。
ワイルドでマッチョにやるならサンディングでやっちゃえ、という手合いもいるやも知れないが、平面精度がめちゃくちゃになることを厭わないのであればそれでもよいだろうが、気が小さいボクにはようできん。
他にも断面に不定曲面を有する、ある程度の長さのものを仕上げる場合にも、この攻鉋が重宝する。
誰が名付けたかは知らないが、“攻鉋”とは良く言ったものだ。
字義通りの機能を持つからね。
この攻鉋もそうだが台鉋という道具は切削加工仕上げの用途としてはとても優れた機構を持つ。
言うまでもなく切れ刃が鉋台に規制され、作業者の望む形状へと仕上げ切削を制御してくれる。
サンディング、スクレーパーなどとは同じ切削を目的とする手法とはいえ、本質的に異なる特質と性能を有するというわけだ。
なぜに木工職人が鉋の取り扱いを大切に考えるかがここにある。

鉋イラスト

花梨経机ところで“筆返し”であるが、一般には右のようなものになる。
これは朝鮮では「書案」、あるいは「机床」(一般に使われた机)、「経床」(寺で経文を載せるのに使われた机)などと称されるものだが、
よく知られるように甲板の木口近くに繊維と直交させる方向に吸い付きで納める。
あえて今回はそのトラッドな方式を採らずに、端嵌め掛けとし、これを筆返し様にデザインさせ、納めたというところ。
はじめて試みたものだが、全体をシンプルに仕上げたかったので、これはこれで良いだろう。
(資料を漁れば、李朝の経机の筆返しも多様で、今回のような端嵌め様に作られたものもあるようだ)
このトラッドな李朝様式のものは、工房悠を構えて数年後に制作されたもの。
たまたま構えた工房の隣人が刃物の研磨屋さんで、いつも世話になっていたのだったが、そのご主人が若くして亡くなられ、遺された奥さまから依頼を受けて制作したもの。
当時は写真に残すというようなこともしていなかったので、これを機に昨日カメラ片手に訪ね、撮らせていただいた。
花梨に拭漆、ということもあるが、丁寧に大事に使っていただいているようで、その輝きは往時のまんま。
ナラ経机画像右のものは今回制作した「経机」
仏壇も同じミズナラでシンプル・モダンに制作した顧客からの依頼であったので、
同様にシンプル・モダンを志向しつつも、貧相でなく、高品位に設計、制作した。

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  • 下の経机も李朝風ということになるのでしょうか?
    抽斗の前板を框で組むのは松本民芸家具でも良く行われている
    方法ですよね。

  • >下の経机も李朝風ということになるの
    さぁ‥‥、李朝様式とは言えないまでも李朝「風」とは言えますでしょうかね(笑)
    抽斗の前板は、今回のものは框ではなく、1枚の板から掘り出しました。
    もう少し豊かなディテールにしようとも考えたのですが、過度にやるのも如何なものかと、この程度で止めた、というところですね。

  • あら、失礼しました。彫り出しでしたか。
    言われてみれば木目がそう見えます。
    この手の端嵌構造で面一にしてしまうと
    目違いが出ますが、目違いは極力後ろに
    逃がすなどの工夫があるのでしょうか?

  • >端嵌構造で面一にしてしまうと目違いが出ますが
    ご想像の通り。
    安易にやる方法としては甲板側に木ねじを埋け、端嵌を引き独鉛(ひきどっこ)で結合するという方法がありますが、
    今回は蟻で通しています。
    甲板の正面側、1/3ほどは接着剤で固め、伸縮は後ろに逃がします。
    上面も今回は面一(ツライチ)にしましたが、いずれ動くので、あえて結合面に面を取ったり、面チリにする方法もあり、ですね。
    今回の方法では結合面のメチは上下合わせて〜1mmほど。
    したがって面一の攻鉋メチ払い作業も0.5mm以内の活躍です。
    筆返しは反っているので、その構造上「本核留での端嵌」はやや難があるのではないかと思います。

  • ありがとうございます。
    「ひきどっこ」とは、初めて遭遇した言葉でした。
    ネットで調べてみましたら、何となく分かりました。
    木ねじの頭に端嵌側をスライドさせながら引き寄せるような感じに
    なるのでしょうか?
    単にホゾによる端嵌ではなく、ひきどっこにしても、蟻にしても
    何かしらお互いが引き合っているような構造が必要、ということですね。
    見えない場所が複雑ですね。

  • 字が一字間違っていましたね。引き独[鉛]ではなく鈷。
    >木ねじの頭に端嵌側をスライドさせながら引き寄せるような感じ
    そうです、そうです。
    ベッドの脚部とサイドレールの接合によく用いられる金具がありますが、あのような機構と考えれば良いでしょう。
    あるいは、壁にミラーなどを取り付ける時に、壁に木ねじを埋め込み、これにカチッと嵌め込みしっかりと取り付く金具がありますが、それと同じような考え方です。
    あるいは雇いのコマでの吸い付き桟と同様の考え方ですね。

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