工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

欧州の近代工芸とデザイン ―アール・デコ―(MOMAT)

東京国立近代美術館 工芸館では現在《ヨーロッパの近代工芸とデザイン ―アール・デコを中心に―》という企画展が開催中。
アール・ヌーヴォーが近代デザインの曙(あけぼの)であったとすれば、アール・デコは時代も下り、いわゆる大戦間(1910年代の第1次世界大戦と1930-40年代の第2次世界大戦の間をこのように呼称する)の一時期にフランス・パリを中心に展開したモダンな装飾デザインを総称するものと言って良いのだろうが、ボクが受ける印象ではデザイン史からすればアール・ヌーヴォーほどの位置づけがされていないように思われる。
上京した際に時間があれば「東京都庭園美術館」(旧朝香宮邸:1933年建設)の企画展などに訪れることも多い。
都内では有数のアール・デコ様式の建築、室内装飾が観覧できるところだ。
企画も工藝、ジュエリー、絵画などアール・デコ様式のものはもちろんのこと、アール・ヌーヴォー様式の優れた作品に触れることができたものだ。
ファサードのルネ・ラリックのガラスレリーフはその象徴と言えるだろう。
今回の企画展ではポスターが中心の展開ということだが、「ピエール・シャローの書架机・椅子」や、ガラス、陶器、磁器(富本憲吉によるものなども含む)など収蔵工芸品も多数展示。
ところでこの時代のインテリア・家具デザイナーとしては、建築家のル・コルビュジエ、そして彼の下で才能を開花させた日本とゆかりの深いシャルロット・ペリアンなどは決してアール・デコとは位置づけられないし、また同じくあの鉄を巧みに取り入れたバルセロナチェアで有名なミース・ファン・デア・ローエ、あるいはラミネートの曲面加工のアルヴァー・アールト(フランク・ロイド・ライトも?)も同時代の優れたデザイナーだ。
要するに時代を席巻したデザイン運動というよりも、パリを中心に花開いた装飾工芸デザインという位置づけか。
ところでこの大戦間という時代は、1929年の世界大恐慌に至る短い期間ではあったが、ドイツ・ワイマール共和国に象徴されるように、民主主義の安定化とともに大衆文化が花開く豊かな時代でもあったことにより、デザインもまたこうした大衆文化を促進させるものとしてモダニズムを一層強めることになっていったのだろう。
時代はしかし大恐慌に続くナチス支配によるファシズムの台頭、そして全面的な第2次世界大戦へと突入していく中で、こうしたデザイン運動は崩壊していった。(ナチスによるバウハウスの閉校:1933年)
参照
東京国立近代美術館 工芸館 展覧会情報

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  • この展示会に行こうと思ってましたー。
    いや、しかし、木工はもちろんデザイン史も
    それからエゴン・シーレとクリムトまで話が出来るartisanさんは
    ほんとうにスゴイと思います(シーレは私も好きです)。
    本来は木工もデザインも美術も生活も
    同じ様に知識を深めていくのが自然で当然なのかもしれませんが
    私はなかなかそれが出来ないので 涙。
    木工家ウィークでお会いできるのを楽しみにしてます☆

  • サワノさん、今日は少しゆっくり休養できましたか?
    ところでボクはあなたのように美術教育を受けた者ではないものですから、デザイン史などは付け焼き刃(笑)。
    あまり詳しく尋ねられると底の浅さがばれちゃいますので、そこのところヨロシク。
    しかもこの家具制作に入ってからの独学ですしね、
    しかしやはりこの家具制作という世界で活動すればするほどに、家具制作のこれまでの来し方行く末(世界史的に)へ思い至るということも事実で、
    つまりは自分とは何か(=自分の作るものとは何か)、という探し物をしているようなものです。
    でもしかし、井上陽水の歌「夢の中へ」にもあるようにサワノさんがボクと踊ってくれるなら探し物が見つからなくとも良いのかも知れません‥‥。
    MOMAT、まだ会期は残っていますので機会があればぜひに。
    (美術館最寄りの竹橋駅の毎日新聞本社ビル内には美味しいケーキ屋さんもあります)

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