工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

「スウェーデンで家具職人になる!」ikuruさんの著書

スウェーデンで家具職人になる!カール・マルムステンに留学していたストックホルム在住のIkuruさん(本BlogでもLink)による著書がこの度発刊。
ボクも発売日前にAmazonから発注したものの、他の本と数冊合わせて発注したことからなのか、まだ入荷しない。
したがって読後感とはいかないものの、ちょっと別の理由から、出版に纏わる関連することを記述しておきたい。
まず型どおりに彼のプロフィールから。


この著者の須藤 生(すとう いくる)氏は国内でも数少ないパイプオルガン製作工房を構える須藤 宏氏の男子として、その頃在住していたたドイツにて生を受ける。
帰国後オルガン工房を構えた両親の下で生育し、機械工学専攻の大学を卒業後、父親の下で木工の基礎を学ぶ。
その後本格的に木工家具制作を学びたいとの希望を胸に、世界的に著名な木工家具などの工芸学校であるスウェーデン/カール・マルムステンのカペラゴーデンという学校の存在を知り、その後正式に入学、スウェーデンに渡る。
カペラゴーデンでの3年間の履修後、その後本校、カール・マルムステンCTDへと転学。本格的に高度な木工家具制作の技法、デザインなどを学び、職人試験を突破。
その間、自身のWebサイト、あるいはBlogなどで日々の家具制作修得活動を記述したり、ユニークで才気あふれる活動はジャパンデザインネットなどにも留学記が連載されるなど、テレビ、ラジオも含め様々なメディアにも注目されてきた。
2007年1月にはOZONEにて卒業作品、習作などの展示会を成功させる。
現在は帰国後の拠点建設準備をしながら、執筆活動などに勤しむ。
彼のBlogを見れば、ハウスハズバンド(Ikuruさん、失礼)風の生活をしながらのカメラ小僧といった様子ではあるので、果たして卒業後どのような進路を選択するのか気がかりではあったが、国内に活動拠点を定め、壮大な構想をスタートさせようとしていることを見知ることで、大変安堵したものだ。
(才気あふれる若者が木工の世界から離れていくのではとの危惧がよぎることもあったからね)
さてところでボクが何故にネット上でこのIkuruさんとLinkしたのかについて触れることでボクのスタンス、考え方を知っていただくことになるだろうし、またこれを通してカール・マルムステンという教育機関についての理解の一助になると考えるので、そうした角度から記述してみたい。
まずはっきりさせたいのは、ネット上でikuru.netが目立つ存在であるからLinkしている、などという下種な考えからのものなどではない。
あくまでも木工という切り口で広くウォッチすれば、このikuruさんの活動は“木工の現在”というものの1つを象徴し、またその若さからすればこれからの木工を展望する上でウォッチするに値する人物だと拝察したからである。
その根拠は、まずは彼が選択した家具制作修得の道がカール・マルムステンのそれであるということに依る。
このカール・マルムステンに係わる情報については彼自身のテキストによるのが良いので詳述は避けるが、現代の木工家具というものを世界的視野で考えたとき、まず欠かすことのできない筆頭に上げられる1つがこのカール・マルムステンという人物と、彼が創設したカール・マルムステン校、そしてこの薫陶を受けた木工家であることにあまり異論はないだろうと思われる。
私がこのカール・マルムステン校を知ったのは松本の訓練校に入校して間もなくのことだった。
恩師Eさんが個人的に貸し与えてくれた4冊の本があった。J・クレノフの著書だ。
ボクはその著書に釘付けになり、英語力のないハンディキャップを越えてもその世界に魅了された。
そしてこのE先生からJ・クレノフが人生途上で家具制作を始めるきっかけになったのがストックホルムで出会ったカール・マルムステンの作品であり、その最高峰と言われるレベルの学校を優秀な成績を収めて帰国した人が、ボクの故郷にアトリエを構えているということを知らされたことは奇遇とはいえ、その事実にしびれたものだ。
訓練校の夏休みを利用し、このM氏と接触、さらには卒業後の受け入れ先の親方の紹介にまであずかり、大いにその後の木工人生の道筋が付けられる思いがしたものだった。
卒業後、親方とM氏との交流に付き従いながら、何かとデザイン、カール・マルムステンのことなど、様々なことにおいて薫陶を受けたものだった。
その後、母校 金沢美術工芸大学からの招聘で教授職へと就くまで世話になってしまった。
一方またその頃、カール・マルムステンの弟子として、優れた家具制作をすることで世界的に著名な、カリフォルニア州立の工芸学校カレッジ・オブ・ レッドウッド」の教授、J・クレノフ氏が来日し、高山でのサマーセミナーを開催するとの情報を得、ボクの独立起業の直前という好機でもあったので、エントリーし参加させていただいた。
このサマーセミナーのことについては、このBlogでも折りに触れ語ってきたが、その後決して日本の地を踏むことがなかった、たった1回だけのセミナーに参加できたことはボクが木工を続けていく上で大きな勇気を与えてくれるものであり、この機会を与えてくれた周囲の方々には今でも感謝している。
恩師E先生、M教授、親方Fさん、当時の飛騨国際工芸学校のスタッフの面々。
なお国内のこのカール・マルムステンの卒業生はM教授他、数名がいて様々なところで活躍しているし、またこのカール・マルムステンのスタイルを世界に知らしめたJ・クレノフ氏が教鞭を執るカレッジ・オブ・ レッドウッドの卒業生は恐らくは2桁にわたる数で国内で活躍している考えられる。
またカール・マルムステン、カペラゴーデンの卒業生、あるいはここのサマーセミナーの参加者はかなりの数に上るのではないだろうか。
他にも高岡短期大学、木材工芸のK教授もこのカール・マルムステン校とは頻繁に交流しているそうだ。
ボクがここでカール・マルムステンについての論評をするほどに知識がある訳でもないのでikuruさんなどの記述、著書に譲るが、何度か述べた最高峰の‥‥、という尊称は決してその表面的なデザインであったり、技法についての特徴を意味するのではなく、これを越えた、デザインにおいて1本のラインをいかに大事に扱うか、木の命でもあるその性質を見極め、その表情を読み込み、キャビネットにどのようにその木の表情を生かすのか、と言ったような物事の本質、木材工芸の深淵に関わる領域、つまり総じてカール・マルムステンの教育理念の特質を評価するものなのだと考えられるだろう。
ここに凡百のデザイナー、家具製作者を越える極北というものを発見し魅了されてしまうのだ。
こうしたカール・マルムステンの系譜をたどり、今あらたに飛翔しようとしている須藤 生さんによる新著は、家具制作者を夢見る若者はもちろん、日々の木工活動に疲れている職業木工家にとっても何某かの刺激を与え、あるいは示唆を与える好著であろうと思う。
昨日の記事にコメントを寄せてくれたサワノさんのBlog「CANVAS F20」には本著に関しさっそく感想が寄せられているのでTBとともにLinkしよう。
*訂正
記事中、一部訂正させていただきました(08/06/01)
【参照サイト】
■ JDN(Japan Design Net)「スウェーデン木工留学」
Capellagården
Carl Malmsten CTD

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 「スウェーデンで家具職人になる!」

    「スウェーデンで家具職人になる!」
    って、いえ、私じゃなくて。

    ブックマークしている「ジャパンデザインネット」にも連載をしている
    須藤生(すとう いくる)さんの本が発売されていました。
    たまたま立ち寄った本屋さんで購入!
    まだ読破できていませんが
    とにか

  • 先日、mixi上でイクルさんからこの本の発刊の報告がありましたので
    早速、アマゾンに注文し手元に届きました。
    今、読み進めている所です。
    artisanさんを始め日本には優れた木工家が多くいらっしゃると思うのですが
    アメリカのように個人が著書を著すことは少ないようですので
    良い傾向だと思います。

  • acanthogobiusさん、今晩は。
    >アメリカのように個人が著書を著すことは少ないようですので良い傾向だと思います。
    そうですね。ただ木工の腕が良いのと、著書を作るのとでは全く次元の異なる才覚ですからね。
    文才もなければいけないでしょうし、またそれ以前に理念、コンテンツが無ければ読むに値するものは書けないですしね。(^_^;

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.