工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

若者よ、怒れ!「暮らしを変えよう 時代と戦おう」(論壇時評から)

昨夜上げたばかりの〈通販生活:カタログハウス〉での「一日も早く 原発国民投票を。」だが、
今朝の朝日新聞『論壇時評』でも取り上げられていた。

月1度掲載の『論壇時評』だが、主要部分を高橋源一郎氏が書いていて、いつも彼独自の批評視座に刮目され、ほっこりとさせられたり、新たな視点を植え付けられたりと、好ましく受け取っている。

今月は「老人の主張 ─ 暮らしを変えよう 時代と戦おう」とタイトルされ、最近の国内論壇からいくつかの言説を取り上げ、紹介し、評価している。

ステファン・エセル

まず取り上げられているのが、この94歳になるフランス人の『Indignez-vous!』(邦題:『憤れ!』村井章子 訳)という本、というより小冊子といった風の書。

元レジスタン活動に従事していた人で、ナチスからの解放後、国連スタッフとして人権宣言起草に参加したり、ル・モンド記者としても活躍。
この『Indignez-vous!』は、32ページで3ユーロと廉価のこともあり、昨秋発刊後、クリスマスプレゼントなどで若者の間で大ブレークしているのだとか。
少し前、これはボクも何かで知り、興味を覚え、今の時代の若者像と、戦前から戦後に青春時代を送ったあの頃の若者像という対比でおもしろく読んでいたので、良く分かる視点だと思った。

この論壇時評での引用部分とは異なるが、出版社サイトから借りて、少しだけ引用してみる。

戦後、フランスは社会保障制度や年金制度を創設し、特権者を排除した民主主義の理念を掲げたが、いまや社会保障制度はぐらつき、利益追求が横行し、報道の自由や教育の機会均等が脅かされている。

レジスタンスの動機は怒り。自由が回復した戦後になっても、フランスが植民地アルジェリアの民族独立を封じ込めようとしたアルジェリア戦争、社会主義を掲げながら自国や東欧を抑圧したスターリンの独裁政治など、怒りの種は尽きなかった。

いまの世界は相互依存が強く、わかりにくくなっているが、それでも容認できないことはたくさん存在する。貧富の格差拡大、人権、地球環境など、世の矛盾や不正義は周囲を見回せばいいっぱいある。だから、若者よ、怒れ!憤れ!


時代精神への怒りを持ち、戦え、それはあなたがた自身の問題なのだから、と「遺言」のように若者に語りかける。

恥ずかしくなるほどにあまりにも真っ当な主張ゆえに、避けてしまい、シニカルに構えてしまう変なクセが纏わり付いているボクたちの世代だが、これほどにシンプルに訴えかけることも重要なのだと、あらためて思わされる。

ギリシャのテオ・アンゲロプロスへのインタビュー

【ギリシャから見る転換点】
「地中海から時代が変わる」か ─ テオ・アンゲロプロスの言葉」(藤原章生)(『世界』12月号)

 代表作『旅芸人の記録』『エレニの旅』など、苦悩に満ちたギリシャ現代史を詩的な映像で描き続けてきた映画監督、アンゲロプロス。
 いままたデフォルトの危機を迎え、世界恐慌の引き金を引きかねないと警戒され、また非難される祖国ギリシャは、彼の目にどう映るのか。
 新作『ジ・アザー・シー (もう一つの海)』の舞台は世界恐慌の前年1928年のギリシャだという彼は、「南から、地中海から扉は開かれる」と語る。(Web『世界』から引用)

読後にあらためて必要とあれば紹介したいと思うが、高橋が取り上げている文脈から少し孫引きする。

いまは、戦争と比べても最悪の時代だ。
長く西欧社会は、ギリシャも含め、本当の繁栄を手にしたと信じてきた。だが、突如それは違うと気がついた‥‥
‥‥問題はファイナンス(金融)が政治にも倫理にも美学にも、我々の全てに影響を与えていることだ。これを取り払わなくてはならない。扉を開こう。それが唯一の解決策だ

ドイツ、メルケル女史からは、地中海の人々はもっとしっかり働け ! と言われてしまうギリシャの、代表的知性からの振り絞るようなメッセージは強く共鳴することができる。

このままでは済むわけがない。世界の終わりがやってくる前に、その元凶である「経済が全てに優先する、今の暮らしを変えるべく」起ち上がろう(「扉を開こう」が意味するもの)、とするアンゲロプロスの自国ギリシャへの言説は、今後も注目していきたいと思う。

〈通販生活〉での「一日も早く 原発国民投票を。」

高橋は言う。これはまるで論壇誌みたい、でも違うところが一つある。商品のカタログが掲載されている。
「脱原発時代の暖かい暮らし、「気の毒だから買って上げよう」ではなく「品質にこだわって選んだ」「東北の品々」
この雑誌はこうして、「ただの論壇を超えて、それ以上のものを提供しようとしている」とする。
前日の天野祐吉氏の「CM天気図」で民放TV局から拒否されたことを受け、それはまるで「最強の論壇誌」の証明?、などと皮肉っている。痛快だね。

ところで、ここで取り上げられている〈通販生活〉の「一日も早く 原発国民投票を。」特集の巻頭の前原政調会長のインタビューから少し引用してみよう。

国民投票の是非を巡ってのインタビューなのだが、前原政調会長は言う。

日本は間接民主主義の国です。主権者である国民が意思表示をするのは、衆院選か参院選で一票を投じることです。
‥‥‥‥‥
原発の今後についても、プロフェッショナルたる政治家が知恵を絞り、判断し、しっかりと国民に説明する。
‥‥‥‥‥
国民全体が国会議員が行うような複雑な過程と長期の勉強を経て判断できるかというと、現実は難しいと思います。

〈通販生活〉は、この驕り高ぶった物言いに苦言を呈してくれているのだが、3.11原発震災をもたらした要因の1つが、こうしたプロ政治家の傲慢さ、無謬神話(判断の甘さ)にあったことに、今になってもなお、気づかないというので、この政治家にはほとほと、ただただ哀しく思えてくるのだ。

『SIGHT』という渋谷陽一責任編集による雑誌

ボクはロックにはさほど詳しくはないのだが、渋谷陽一氏の早口のしゃべりは好きだし、このような雑誌を興したことをとても好意的に見ていたので、時折買っては読むという、あまり熱心ではない読者の一人だ。

総力特集「私たちは、原発を止めるには日本を変えなければならないと思っています。」
まさに核心を突く視点だと肯いてしまう。
決して論壇誌とはカテゴライズされる雑誌ではないこの『SIGHT』だが、高橋は次のように評価する。

政治や社会に関する議論を、学者や評論家の書くことばから「ぼくたちの口語」に取り戻してもいい頃ではないか、それは議論の中身以上に重要なことなのかもしれないのである。

素人は黙ってろ、専門家に任せておけ !
3.11後、暫くの間、このBlogでの東電批判へもそのようなコメントが寄せられたし、メディアでも、論壇でも同様の抑圧があったと記憶しているが、かつては有効であったかもしれない、そうしたお任せ思考、お任せ民主主義が、3.11後の今日の危機的状況をもたらしている、実は最大の問題なのかも知れない。

原発問題でもTPPでも、まずはこうした視座に立って考えることで、新たな未来が拓けてくるのではと、つくづく思う。
問われているのは、自分たちの消費生活を含めた、暮らしの在り様というものを検証し、オルタナティヴな方法を模索していくことから始める、ということにあるのではないだろうか。

〈Monologue に近い余談〉
今日は久々にテオ・アンゲロプロスの動向に浮き足立ってしまった。
フランス映画社は、いったい何をやっているのだろうか。
テオ・アンゲロプロスの最新作が『ジ・アザー・シー (もう一つの海)』だという事を今日初めて、この記事の出版元のWebサイトで知ったのだが、
こうして、この寡作で知られる映画監督の最新作が話題になっているというのに、前作『THE DUST OF TIME』さえ、国内では未上映。

欧米では2009年に公開されているはずだし、国内でもプレミア上映とやらはあったらしいのだが、国内一般公開はいったいどうなっているのか (`ヘ´)

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