工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

木工家具制作におけるサンディング (その4)

サンディングバナー
様々なサンディング工程
今回で本件4回目のエントリになるのだが、都合2回ばかり隘路に入ってしまった感がある。本筋に戻さねばいけないのだが…。
しかしもう少しだけ脇道を進んでいくことをおゆるしいただきたい。
サンディング工程を家具制作工程のどの段階に入れるべきかという話をしてみたい。
言うまでもなく、部品の加工工程が終わり、組み上げる手前の段階でサンディングするというのが一般的な考え方だろう。
当然そのようにすべきだろうと思う。
実はこの当たり前の考え方が必ずしも守れない、という事情もあると思われるので少しばかり記述させていただきたい。
ではまずサンディング工程というものを前後の工程から整序してみる。
(ここではあくまでも素地調整としてのそれを指す)

  1. 部品の機械加工
  2. 部品の手加工
  3. 部品の仕上げ削り(超仕上鉋盤 → 手鉋仕上げ、など)
  4. 機械サンダーでは掛けることの出来ない部位の手作業(およびポータブルサンダー)によるサンディング
  5. 機械サンダー(3点ベルトサンダーなど)
  6. 組み上げ
  7. 補助的サンディング工程
  8. 塗装

ということになるだろう。
これは当然だが、サンディングを素地調整としてのものと限定したプロセスの一例である。
つまりこれはあくまでも原則的なプロセスだが、原則は原則として堅持すべきだろう。しかし時としてこれに準じることのできないこともあり得る。
どういうことかと言えば、よく考えられることとして組み上がったものをあらためてサンディングしなければならない状況に迫られる、ということが往々にしてあるのだ。
例えば設計通りに組み上がらずに、手直しが必要になってしまう。
これは当然組み立てを中断して修正をしなければならないから例外と言えるだろう。
普段に良くあるケースとして、ほぞなどに施したボンドが組み上げる過程で外にはみ出してしまう、ということがある。
また同じボンドの処理の問題として、組み上げ過程で、ボンドを拭き取るための洗浄処置での水洗いによりサンディングした範囲の素地が荒れてしまう、と言ったことも同様に起きうる事例だろう。
当然、これらを放置したままでは、塗装へと進めるわけにはいかない。無理にやれば塗料は適切に付着せずに正常な部位とは異なりムラになって表れる。
これを修正するための局所的なサンディングは当然手作業になるだろうが、これは機械でのサンディングとは違い、かなりテクスチャーの異なるものとならざるを得ず、正しい素地調整では無くなってしまうリスクは高いものだ。
したがってあくまでも組み上げ前のサンディングを最後に、その後は一切サンディングなど必要のない工程を踏むべき、という考え方は理解していただけるだろう。
いじくればいじくるだけ、せっかくの素地調整の品質は侵されおかしくなってしまうものだ。
高精度の機械サンディングの後は一切触らない、というのが正しく、美しい手法と考えるべきだろう。
関連して、こうしたプロセスを正しく進めるためのいくつかのポイントを上げてみよう。かなり細かな話になって恐縮だが、プロの職人としての考え方に触れるのも悪くはないだろう。

  • ほぞ穴へのボンドの塗布は必要にして十分な量を適切に施すこと。
    未熟な職人は意外にこの段階で不適切な塗布をすることが多いものだ。
    (ホゾ穴へのボンド塗布が不十分で局所的なもので諒とされてしまう)
  • 一方、ほぞのオスの方だが、こちらへは決して余分な量のボンドは塗布すべきではない。それらのほとんどは接合部からはみ出してしまうだけだ。(→ 水洗い → 再サンディングが必要となる)
    例えば胴付き部分にボンドを塗布するのはその面積にもよるが、ほぞを打ち込んでボンドがはみ出るような過剰な塗布量は避けるべきだろう。
    胴付き部分への塗布は最低限に止め、ほぞ部分に塗布したボンドがほぞを打ち込む過程で胴付き部分にも廻っていくことで十分だろう。
    これは一般に竹ヘラで行うことが多いと思うが、先端の細い腰のある筆などを併用することで簡単に対応できるだろう。
    うちではほぞのほとんどは四方胴付きを基本としているが、これはもちろん剛性を考えてのことだし、また仕上げ削りでほぞの寸法に影響を与えない、と言った大きな効用を考えてのことであるが、このボンドの塗布でのはみ出しを避けるという意味からもその効用は大きなものがある。
  • しかしまた組み上げの工程でボンドがはみ出してしまう、ということは避けられないことだ。
    そこで水洗いであるが、できるだけ熱めの温水を用意し、はみ出した部分のみを局所的に拭き上げることが肝要だろう。余分なところへは決して水分を与えてはならない。
    そのためには塗装用などで市販されているステンレスのヘラなどの先端をさらに細く加工し、これを用いウエスを巻き付けてできるだけ局所へとアプローチできるようにしよう。
  • なおサンドペーパーの番手に関してだが、機械のサンダーでの番手と、手作業のサンディングでの番手は同じに仕上がるとは考えるべきではないだろう。
    手作業の方は1段階番手を上げねば同様の仕上げにはならない。
    例えば機械でのサンディングが#240を用いたとすれば、その後の修正の手作業のサンディングは#320を用いる、と言ったように。

また組み立てる過程で玄翁での打ち込みにより傷が付く、あるいは端金などの圧締による凹み痕が残ってしまう、ということもしばしば起きる。
これらは濡れたウエスをあてがいながら熱したアイロンで戻す、ということで対処するが、この時にも湿潤な蒸気でサンディングが戻ってしまうということになり修正が必要となる。
この際にも濡れたウエスは極力対象箇所に必要量のみを当てるという注意も必要になってくるだろう。
濡れたウエスをぶらぶらさせながらそこらじゅうを濡らしてしまうということも、経験が浅い職人の緊張した組み上げ過程では注意散漫になり起きうるものではないだろうか。
今回はサンディング作業に関わる周囲の事柄についての記述に終止してしまったし、しかも重箱の隅を突く感があるね。
こんな記述内容では読者も引いてしまうだろうね。
しかしこうしたことも実はプロとしての自覚的作業においては求められる多くのことの中での1つなのだ。
また、なかなか本論が進まないという状況ではあるが、端(はな)から体系的な記述などできまいと考えているのでご容赦を。
Blog記述の“勢い”ということで……。
今日も終業のベルが鳴っているのでここで終わりにする。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  •  はみ出してしまった接着剤の処理等は、私は次のようにやっています。
    1)はみ出し量が多い場合はまずステンレスのへらでそっと接着剤をすくいとる。
    2)イタヤカエデなどの平滑で目の詰んだ木のへら+きれいな温水で濡らしたウェスで、残った接着剤を徹底的に拭きとる。
    3)当該箇所だけでなくそのパーツ全体を2とは別のきれいなウェスで湿らせる。
     3を行なうのは、接着剤ははみ出しとその拭きとりによって、多寡あっても素地にしみ込んでしまい、いくら拭いても完全には除去できないので、その境目をぼかすためです。「できるだけ局所的にアプローチ」といっても逆に塗装してからその部分だけが帯状にむらとして現れることがあります(塗料の種類にもよると思いますが)。
    4)組立時と、組立後の駄目廻りの作業過程で付いた汚れや擦り傷、工程3による肌荒れなどをきれいにするために、家具全体に水引をしてから、再度全面を仕上のサンディング。
     したがって少なくとも2回は「水引+サンディング」をくりかえすことになりますが、ひとえに可能なかぎり均一のテクスチャーを得るためです。

  • 木工房オーツー:大江進 さん、詳細にわたる技法開陳、感謝します。
    本件に関しての基本的認識(ボンドはみ出しを極力忌避し、良い素地を確保する)は同じだと思われますが、技法、アプローチの具体的手法は様々あると考えられますね。

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