工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

仕口は楽しんで

70414aご多分に漏れずボクも木工修行の手始めは訓練校から。

授業で本格的な家具制作をスタートさせる前に座学と並行して手道具を使っての様々な仕口のトレーニングをしたことがあった。鳥海義之助著の「木工の継ぎ手と仕口」にある代表的なものをやっていたと記憶するが、ボクは時間外も含めひとり様々な仕口にチャレンジして楽しんでいた。

木工のテクニクスなど大層なモノではないと考えられるかもしれないが、どっこい長年にわたり職人から職人へと口伝と手業で伝えられてきた技法の体系の豊かさには驚かされるものがあった。

ここに紹介する仕口は決してめずらしいものでもなく、ボクも比較的多用するものうちの1つだ。
“核相欠留接”と呼称するが、他にも“襟輪付鬢太留”(えりわつきびんたどめ)などとも言う。英米では(Lock Miter Joint)
小さな燭台を入れる筺を依頼された。かなりの数量なので、クライアントに確認してもらうための試作品。

お若い人で海外通販などでルータービットを探す人は見掛けたことがあると思う。
ボクの形状とは若干異なり、“Lock”部位は台形で処理されているけどね。
特徴は外形は留であるが、“Lock Miter”とあるように内部は外れにくい(切れにくい)構造になっているところだ。


70414b一見加工は大変そうに見えるかも知れないが、意外と簡単。

ボクはそんな難しいことはやらない。
まず内部のLock部位オス、メスをカッターで切削。
次ぎに外部に当たる留部位を丸鋸を傾斜させても良いし、45°カッターのルーター刃で切削する。
それだけ。

ただやはりジャストフィットさせるにはいくらかのコツがある。
噛み合う部位が複数あるため、それらをしっかり密着させるために適切に加工されねばならない。
もう少し具体的に言えば、こうした複数の噛み合う部位がある場合は全てを完璧にやろうとすると大体破綻する。

肝心なところはやはり留部分であるが、この密着を優先させるため、他はそれを満たすことを条件として、必要に応じて“逃げる”ことだね。

どこをどれだけというのは、これはこんなところで書いて理解できるものではない。
適切に加工されたものであれば、組むときの圧締もほどほどで済んでしまう。
留めというのは木工でもなかなか難易度の高い仕口だ。
様々な手法があり、目的に応じて、部位に応じて、あるいは材の大きさに応じて、色々な手法を取り入れれば良いだろう。

この“核相欠留接”は留めの仕口としては比較的強力な部類に入るだろう。
ただ問題は、“Lock”の部位があまり綺麗ではないということがあるかもしれない。

ボクは今回のように小さな筺の他にも、キャビネットの天板、側板の接合部位にこれを使うことがある。
この時には、共木を薄く木取っておいて、見付部分にこれを留めにして後から貼り付け、るなどということもやる。

今回の筺は、見付部分は留めだけで、段欠きした内部に“Lock”部位が隠れる、という構造になっているため、そのままだ。

同じ木工でも色々な仕事に接することがあるが、その手法も様々だ。
独立したころ、イギリスアンティークの修理もしたことがあったし、日本の旧い木工を見ることも多い。それらに施されている仕口は決して難易度の高いものではないが、イージーなものではなく、基本に忠実に、良い仕事を見せてくれていることがほとんどだ。

翻って、現代の木工では、接着剤の飛躍的発展と言うことが背景にあるためか、接合部分などはイモが多いし、目を見張る仕口などめったなことでは出会わない。

大衆消費社会の成熟とともに、木材加工体系も様変わり。木工技法は衰退の道を歩んでいくのだろうか。
前回の記事と同じ結語になってしまった。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • カーター刃はどのようなタイプの物を使用されている
    のでしょうか?
    ダイヤル式で刃巾の変えられるものや、チップを交換する
    タイプや刃数が少なく刃巾が固定されているものなど
    あるようですが、参考までに教えていただけると
    ありがたいです。

  • acanthogobiusさま コメントありがとうございます。
    うちではカッターと言いましても様々なタイプを使用しています。
    いわゆるストレートだけでも縦溝用、横溝用、毛引き付き(無し)、チップカッター、ホゾ取り用カッター、そしてアジャストカッターですね。
    整理しますと、いくつかの定寸のものは固定式のカッター(薄い物はチップカッターで)を使い、その間の寸法を埋めるものはアジャストカッター、ということになりますね。これは3.0〜41mmまで0.1mmステップで4つのブロックで構成されます。(A:3.0〜5.5、B:6.0〜11、C:11〜21、D:21〜41)
    ダイヤル式のものは使いません(寸法精度、耐久性、安全性などに難があるのでは?)。プロは使っていないんじゃないかな?
    しかしこの記事の加工に使用したものは材が薄い(12mm)ですので、カッターではなく3mmノコ厚の丸鋸です。

  •  私はダイヤル式のものも使っています。固定式もアジャスト式もチップ交換型も使用していますが、100Vの電動工具「溝切機」ではダイヤル式のものも他のものと用途に応じて使いわけています。もう20年以上使っていますが、精度や耐久性などに難点があるとは思えません。ただし、構造的に溝の底が完全な平面にはならないことと、ダイヤルに回転の遊びが必要+研磨により目盛と実際の切削幅とに若干のズレが生じます。試し切りをすればその数値はすぐに分かるので、それを承知・前提として使えば問題はないと思います。

  • 大江さん、いつも良いコメントをありがとうございます。
    ダイヤル式カッターへの異論が挟まれましたね ^_^;
    再論するほどのものでもありませんが、少し付け加えさせていただきます。
    まずプロの方でダイヤル式を使っていらっしゃる人がいることは確かなようですので、その部分は訂正しましょう。
    ボクは訓練校でダイヤル式を使用した時に、寸法精度が出しずらく、左右に横ブレしながら高速回転する機構ですので良い加工ができなかった(切削肌、溝形状の粗さ)という苦い思い出があります。
    また家具産地でもある当地域の職人さんでは使っているのを見たことがありませんでしたので、上のような内容のコメントになりました。
    そこであらためて実態を知りたいと考え機械屋、刃物研磨屋さんに確認しましたところ「年に数百枚のカッターを研磨しているけどダイヤル式は大工さんから延べ数枚の依頼がある程度」とのことでした。
    用具を少量に止めたい現場仕事が多く針葉樹の柔らかい材種を対象とする大工さんにとっては簡便なので人気があるのかも知れませんね(この業種については詳しくないので確たるところは不明ながら)。
    また主要な刃物メーカー(カネフサ、木村刃物、松岡カッターなど)のラインナップにはこのダイヤル式は無いようです。このことにも相応の理由があると考えて良いでしょう。
    対し、アジャスタブルカッターは0.1mm単位での高精度な切削が可能で、さらにまた両サイドに毛引き刃が付いていますので、硬木であっても挽き肌はダイヤル式に比しとてもクリーンでお奨めですょ (^^)v
    整理しますと‥‥、ダイヤル式は1つで3〜30mm(詳細は不明)と広範囲に対応しますのでコスト的メリットがありますが、他の優位点は見あたりません。
    使用頻度の少ないアマチュアの方などはともかくも、高精度、高生産性が要求される家具職人の現場では優先順位を高く取るわけにはいかないというのがボクの評価です。
    一例です↓
    http://www.kimura-knife.co.jp/adjustcutter.htm

  •  自在溝切カッター(ダイヤル式カッター)に限りませんが、多機能品・汎用品は専用品に比べ性能が落ちるのが通例で、またそれでなくては専用品は専用品たる意味がありません。それぞれに長所・短所・特性があるので、それをよく知ったうえで適宜選択すればいいだけです。おそらく読者の方々が知りたいのは、良い悪いの”結論”ではなく、客観的な性能評価でしょうから。
     付1)自在溝切カッターにも一見同じに見えても値段の差は数倍あり、径の大きなものだと数万円するので、それほど安価なものではありません。
     付2)自在溝切カッターの研磨はダイヤルを0にあわせるだけでは駄目で、実質的に0になっていることを厳密に確認してから研磨しないと、チップの先が不ぞろいになります。切削面が荒れるのはそもそもの性能がよくないか、研磨が不適切なためでしょう。
     付3)前のコメントにも書きましたが、私も以前から0.1mmピッチのアジャスタブルカッターは使用しています。

  • Blog管理者のartisanです。
    ご批判は自由ですが、ダイヤル式カッター(自在カッター)評価についての資料は出尽くされていると思いますのでこの件についてのさらなるコメントはいたしません。本件エントリ内容と本旨には関係しないことでもありますので。
    最初の質問者もこれ以上の“議論”は望まないと思います。
    Blog運営管理の悩ましさばかりが印象づけられ残念です。

  •  はじめまして、時々拝見させていただいているものです。
    artisanさんの作品の素晴らしさ、ブログの興味深さにただ感心するばかりです。
     とくにブログというのはとてもタイムリーでその方のご意 思、日々のご尽力がうかがえ、技術や知識まで提供していただき何ともありがたいことだともいます。
     ただ、思うことは書き込みにあたり、知識のギブアンドテイクをすれば何を書き込んでもよいというものではなく、やはりその運営者のやり方、こだわり、考え方は十分に尊重した上で、運営者様にも次の記事への動機付けへとなるような「親和関係」の上でするのがよろしいかと思います。
     討論会の場ではないはずで、そのような環境を求めあちこちにコメントするお時間があるならばご自身のブログでしたらよいと思います。
     ですので何の問題のない本件のブログ記事で管理者様の苦悩が伺え本当に読者としても先日の記事とあわせ、残念です。読者の大半の方がそう思っていると思いますのでお気になさらず今後も楽しい記事を続けていただければと思います。
     
     
     

  • akiさん、存じ上げないはじめての方からのコメントですね。ありがとうございます。
    akiさんはじめ、読者の方々にはご迷惑おかけしています。
    このようなことはボクの記述の至らなさから派生したものとも考えられますので、誠に済まないと感じています。
    Blog運営については昨夜あらためてエントリさせていただきましたが、読者のみなさんに信頼されるような優良記事を心掛け、コミュニケーションツールとしても寛容の精神を尊び、開かれた場として継続していけるように努力していきたいと考えています。
    akiさんの心あるメッセージは多くの読者が共有するものと信じています。

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