工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

手作り家具という市場の1断面

前回記述した納品先での話。
納品作業終了した後、少し時間が取れたので、近くで材木屋が経営してるホームセンターおよび併設の木の家具のショールームへとギャラリーオーナーに連れられ覗いてみた。
これまで何度も訪問している地域であり、客からもその店舗についての話題があったりしていたので知ってはいたのだったが、そうしたところはあまり興味もないので立ち寄らずにいた。
でも何事によらず、嫌わずに知見を高めるためにも見るのは悪いことではないと思ったね。
まず驚いたのは建築構造材を中心として、化粧材などが豊富に展示販売していて、それはなかなか圧巻だった。
米国でのDIYの世界ではこうした展開はごくありふれたものなのだろうが、国内ではちょっとめずらしいかも知れない。
針葉樹だけではなく、外材中心に広葉樹も様々な樹種があり、聞いたこともないような、恐らくはアフリカ材と思しき、堅そうなマメ科、カキ科の類の樹種が多く陳列されていた。
大工さんなどにも、現場で緊急に調達するにはありがたい存在かもしれない。
無論、こうした販売形式であれば価格はめちゃくちゃ高いものになるだろうが。(業者感覚からすると、という意味で)
一方の木工家具の建屋には、テーブル類を中心として所狭しと数十台にも及ぶものが置かれていた。
材木屋というだけあって一枚板の天板が壁沿いにずらーっと並んでいたが、中には現在国内では入手困難と思われるものもあり、これにも圧倒された。
さて家具だが、このコーナーでは冒頭記述したようにあまり覗きたいとは思えなかったという感覚に大きな間違いはなかったと思わせる内容だった。
要所要所に「クラフトマンの私が作りました」と、写真入りで作業服姿の老齢作者が紹介されている。
確かに一枚板のものを中心に並べてあったが、板のグレードもさほど良いものとは思えなかったし、デザインもいわゆる“手作り風”のもので、洗練さとは異なる品質のように思えた。
例えば天板を触れば、たちどころに鉋など一切使わない仕上げであることが伺えた。
中に一枚、虎斑ギラギラの樺のテーブルがあったのだが、何気なく触ってみると大きくうねっている。虎斑のところで波打っているのだ。恐らくはその山、谷の寸法差は数mmほどもあろうかと思われるものだった。
これは鉋などによらずに、手作業でのポータルサンダー仕上げのものなのだろう。
樺はかなり堅い。ミズメ樺など削ったことのある人はお解りいただけるだろうが、虎斑をしっかりと仕上げ、その結果光線の当たり具合で見事にツヤと照り返しが浮かび上がる、つまりその木が持つ木理をしっかりと引きだしてやるにはある程度の手鉋の練度が要求される。
そうしたことを回避し、ポータブルサンダーで何度も何度も粒度を替え、ペーパーを取り替え、強力に加圧し、やっとのことで仕上げたのだろう。
虎斑のところは木理としては逆目になっているために機械切削では逆目が深くえぐられ、鉋でかなり削り込まないと良い板面は得られない。
これは普通にサンダーで仕上げようと考えても無理。無理を通せば木理はめちゃくちゃ。結果、“波乗り”仕上げにならざるを得なかった、ということだろう。
これを製作した某クラフトマンなる人は、そうした品質への関心は薄いのかもしれない。
これは多くの要素の内の1つの表象にしか過ぎないかも知れないが、デザイン、仕口、仕上げ精度なども天板削りと同じ水準と考えて概ね差し支えないだろう。
こうした木工は決してめずらしいことではなく、ごくごくありふれたものなのかもしれない。
ボクたちが当たり前と考えている木との関わり方、家具への思考、求める仕上げ品質の基準、デザインを含めた美意識、そうしたものとは異質なものが市場を席巻しているというのも消費社会の偽らざる一面なのだ。

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