工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

キッチン周りの家具充実へ

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あまり参考になるほどのものでは無いのですが、これまで数度にわたり自宅に設えた什器などを記事にしてきた続編のようなものです。

我が家のキッチンは対面型のカウンターをメインにしたもので、この主体部分は既に記事にしていましたが(こちら)、今回はその背部壁面に設置された什器、およびサブキッチンになります。

奥から

  1. 食品収蔵庫
  2. 冷蔵庫
  3. サブキッチン(ダスト収納などを含む)
  4. 食器棚

というレイアウト。

手前の食器棚は25年以上も昔に造ったもので、それを除く食品収蔵庫、サブキッチン、およびそれぞれの天袋が新たに設置した家具です。

いずれも日々の調理、食生活には欠かせないものですが、なかなか制作に取りかかれず、入居後1年の余を経ての設置で、やっと落ち着き、納品を急かす家人の怒りも、ようやく鎮まりつつあるといったところです。

食品収蔵庫

食品収蔵庫正面

食品収蔵庫正面

食品収蔵庫

  • サイズ:820w 630d 1,800h
  • 材種:ミズナラ
  • 塗装:オイルフィニッシュ

〈食品収蔵庫〉もキッチンには欠かせない家具の1つですが、こうした家具は忙しい食事調理の度に使われるものですので、何よりも機能性重視での設計が肝要ですね。

抽斗レールをはじめ、機能性のある家具金物を上手に取り入れることです。

今回は、上部を観音開きの扉とし、内部は左半分を高さ可変の棚板に。右半分にはスライド抽斗対応のメッシュ状バスケットを6杯入れました。

このジャンルの製品を豊富に展開してるのはドイツをはじめとする欧州のシステムキッチンの領域になりますが、これもその類です。

左の棚には米のストック(日常使う米は別途)、缶詰、粉類、パスタ類等々。

食品収蔵庫内部

食品収蔵庫内部

右のメッシュバスケットには、根菜などの野菜、果物、ビール、等々。

また左の観音扉の背部には、メッシュの小棚を設置し、調味料のストック、缶詰などを整理させました。

全体奥行きを630dとしたのは、メッシュバスケットのスライド抽斗の仕様からの制約だった(630dという奥行きは、ほぼ冷蔵庫のそれと同等)わけですが、そのために左棚板は奥行きがありすぎ、このスペースを補うために、冷蔵庫の扉などに見受けられる仕様と同様、扉裏にメッシュ棚を設けたというわけです。

このメッシュの棚板、高さに余裕を置きすぎましたが、もう2杯ほどぶら下げても良かったかも知れません。


食品収蔵庫スライドバスケット

食品収蔵庫スライドバスケット

因みにこの扉はルーバー戸。
野菜、果物などを収納するところですので、通気性を確保する仕様が必須というわけです。
ただのルーバーでは虫も入りますので、内側に網も施しておきました。

戸はblum丁番で吊り込みました。

下部は、深い抽斗です。
一升瓶が余裕で入る仕様です。

Grass ダイナムーブ、 3 段引 ソフトクローズ

Grass ダイナムーブ、 3 段引 ソフトクローズ

ここには一升瓶の酒の他、飲料水 2L×6、食用油等々をストックさせていますが、かなりの重量になりますので、耐荷重に余裕があり、かつソフトクローズの機能性スライドレールを使っています。

軽快に作動し、かつ乱暴に開閉しても問題の起こらない仕様です。

max 40kgほどの収容量になりますが(耐荷重仕様においては60kgまで)、スムースな開閉ができています。(Grass ダイナムーブ、 3 段引 ソフトクローズ

こうした荷重の大きな抽斗では、通常の木製摺桟ではスムースな開閉は覚束ず、また摺動での木部劣化は避けがたいものとなるのは必定で、耐荷重での余裕を確保される機能性豊かなスライドレールの選択は欠かせません。


1つ大きな反省点。
観音扉のblum丁番の仕様を良く確認せずに設計したため、当初、インセットで納める積もりが、内部のメッシュバスケット、スライド抽斗との干渉が発覚し、仕方なく、アウトセットで納めたというバカな仕様になってしまいました。

自家のもので許される失態でしたが、冷や汗ものですね。こんな失態は繰り返してはなりません。
インセットで納めるのであれば、内部に別途帆立を立て、そこにスライド抽斗を設けなくちゃいけない。

四半世紀を超え、家具屋やっているというのに我ながらバカな奴だと恥じ入ります。

天袋は、ただの棚板があるだけで、普段使わない調理器具などを収納。

サブキッチン

サブキッチンなど

サブキッチンなど

サブキッチン

  • サイズ:1,730w 550d (430d)1,800h
  • 材種:ミズナラ
  • 塗装:オイルフィニッシュ

この家具の目的は、メインのキッチンのサブとして機能させようというものです。
したがって、開放部の天板、および背板には耐水性、耐熱性の高い、メラミン樹脂の板を張っています。

当初、ステンレスで納めようとも考えたのですが、あまりサブキッチン風に見せたくなかったため、耐熱性、耐水性に信頼のおけるメラミン樹脂の板にしました。

開放部、右横には、電子レンジ、トースターなどの家電を収納。

これを仕切る棚板は、通気性確保のため、パンチングのアルミ板を使いました。
使用の際、湯気が立ちますので、通気性の確保もおろそかにできません。

こうした配慮は、衛生的、かつメンテナンスをイージーに、という考えからのものでもありますが、そうした設計を適える素材は、今や多くのホームセンター、ネット購入などで簡単に求める事ができます。

私のような小Lotでの制作環境では、ありがたい時代ではあります。


下部は左右に3つのブロック。

  1. 左:上下に抽斗3杯
  2. 中央:大きく深い抽斗1杯(ここはダストの分別収納)
  3. 右:スライドレール棚板に、炊飯器、コーヒーメーカーを収納。下部に1杯の抽斗

中央のダスト分別収納部は頻繁に開閉する個所になります。
この場合、濡れて汚れた手で操作するのは避けたいので、膝などで抽斗前板の任意の個所を軽く押せばスプリングが開放され、自動で開いてくるスライドレールを用いています(Grass ダイナプロ、プッシュオープン(Tipmatic 式)

Grass ダイナプロ、プッシュオープン(Tipmatic 式)

Grass ダイナプロ、プッシュオープン(Tipmatic 式)

こうした機能金具はbllumなどで以前より豊富に展開されていますが(中には電動式のものもあります)、今回はGrass(Hafeleが取り扱い)のものを使ってみました。
少し高価なものになりますが、ここ1番、必要なところには投資を惜しんではいけませんね。

実際に使ってみれば、すこぶる快適です。
膝、お尻などで軽く押すことで簡単に開き、ゴミを処理し、また膝、お尻で押せば、スプリングが働き、ピタリと閉まる、という具合。

また、右の調理家電の収納場所も含め、こうした部位の地板にはメラミン板を敷いています。(代表的製造メーカー・アイカ


1508260z因みに、サブキッチンの天板、背板のメラミン板は、木目がプリントされたものを用いましたが、なかなかリアルですね。この再現性には驚かされます。

以前もお話ししたように、木工をしていますと、何から何まで木部で、と考えるのも1つのスタイルですが、衛生的で、メンテナンスのイージーさを考えますと、こうした工業化学製品を積極的に取り入れるのは、割り切り的な思考として、良い選択であるように思いますが如何でしょうか。

木部ですと、いかにメンテナンスを小まめに行ったとしても、どうしても汚れが進み、やがては劣化も目立つことになるのは避けられません。

なお、開放部のTopには、左右いっぱいにスティック状のLEDランプを設置しています。
8t 10dという断面の細いもので、目立たず、かつ明るく、納まりがよろしい。

この照明の電源を含め、家電の電源タップが5つ(電子レンジ、トースター、炊飯器、コーヒーメーカー)。
これらを壁面フラットの6ッ口コンセント(3口×2 の一体コンセント)にスマートに接続。

自家のものですので、デザイン的にもさして凝ったものでも無く、また木部素材などは通常使うものとは1段グレードを下げ、合板も取り入れるなど、コストカットに努めるものとなりましたが、機能性、収容量においては満足のいくものになりましたので、由としましょう。

これで一応キッチン周りはオシマイです。
やれやれ、ですわ。

なお、リビングには、窓下に収納キャビネット(造作)、およびTVボードなどを設える予定ですが、いつになったら着手できるやら、皆目見当が付きません(笑)。

しかしキッチン周りを機能性豊かに納めたことで、家人の怒りも鎮まり、落ち着いた日々が訪れたようですので、まずは安堵と言ったところです。

家具屋の住まいも紺屋の白袴とばかりはいかないようで、ほどほどに致しませんと、精神的にも良くありません。

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 天袋の引き手 下端位置にもう一つつけると開けやすい。
    意匠的には難しいですが、脚立に立って背伸びしないで開閉できると
    背丈の低い熟年には楽です。面付けヒンジ開き戸でなく引き戸ならば空気汚れもはい入りにくいのですが。

    • 2つめの反省点ですね。:抽手の位置。
      いずれにしても天袋への上げ下ろしは、小さな踏み台を使わないと、私の身長ではリスキー。

      メインキッチンの上部キャビネットの方は、抽手無し、プッシュオープンにしたのでしたが、
      ハードウェアの選択は機能性も含め、意匠とも深く関わっていますので、とても重要ですね。
      国内メーカー含め、このジャンルの進化は著しく、情報の上書きは頻繁であることが求められます。

  • デンマークのシステムKitchenメーカーで円形引き手上下
    2連を試みたことがあります。
    真似する家具やさんはいなかった。なんか落ち着かない?
    使いやすいように切り刻むのは並の神経ではできませぬ。
    扉にANAを開けるだけでも抵抗感がありますね。冒涜感かも。

    • 2連の引き手。
      西洋的な合理性追求なのでしょうね。
      3段スライドレールを木製で造るという猛者も彼の国ではいましたね。

      木(見付け部分)にハードウェアを付けるというのは、確かに緊張しますね。
      機能性だけではなく、造形的なバランスも重要。
      大胆かつ繊細に。

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