工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

古材から水屋への変身

水屋水屋とはいっても、いわゆる水屋風の食器棚といったところ。
梁、桁から再製材されたアカマツ古材の再生によるもの。
帆立、扉の鏡板(羽目板)は天井板を削ったもの。天井板とはいっても6〜7分の厚いもの。上の階では、そのまま床板として使われていたものであろう。
もう少し重厚なイメージにしたかったが、古材への虫害はこれを許さなかった。互平(ごひら)* に木取った柱の見付もやや控え目な寸法。
柱も、扉框も、可能な限りに柾目で木取った。
古材はいわばフリッチ材のようなボリュームがあり、その分柾目木取りも可能となる。
主としては、アカマツらしい年輪豊かな表情(例えば支輪、台輪にみられる様な)を期待したかもしれないが、耐久性、構造的堅牢度など考えれば、柾目での木取りは間違っていない。
また見せ方としても、板目取りで、アカマツ年輪ギラギラではさすがにうるさい。
むしろアカマツの個性を少しく押さえて端正に見せ、支輪、台輪、羽目板などいくつかのポイントにアカマツらしい板目をあしらい、バランスを取る。
抽斗前板は追柾にした。
支輪日常普段に使われるものであるので、あまり過剰な木目は避けた方が良い。
与えられた諸条件のなかにあって、如何に気品高い良い家具を作るかは、木取りによってほぼ決定づけられてしまう。
これは有限な天然資材を素材とする木工というものづくりの宿命であるし、またおもしろさでもある。
*注:互平(ごひら)という漢字表記について
碁平、五平、などと、どうも“ごひら”という呼称の漢字表記は様々で確定的なものが無いようだ。
どなたか、その用語のルーツなど詳細を知っている人に教示を仰ぎたい。

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  •  立て続けで失礼します。このような箱物での木取りは、なるほど、板目と柾目をこのようにバランスを取ると良いのですね。支輪と台輪が板目というのも効いていて、柾目の框組みの中の板目の鏡板がとても映えますね。座卓ともども、経年変化で5年後、10年後にどのような色に変わっていくのかを見てみたくなります。

  • 木工舎さん、コメント感謝です。
    >板目と柾目をこのようにバランスを取ると良い
    本来であれば、支輪は柾目というのが一般的な考え方になると思われます。
    今回はアカマツということで、あえて外した、というところでしょうか。
    >框組みの中の板目の鏡板
    扉は当初は舞良戸にしようとも考えたのですが、先述同様、あえて板目を見せちゃいました。

  • 上下四隅の柱が一段下がった組み方は特別な名前が
    あるのでしょうか?
    支輪と台輪を別に作らずに構造の一部にするひとつの
    技法なのでしょうか?
    隠し台輪とかいう呼び方があるようですが、artisanさんの
    HPギャラリーにある水屋にも採用されていました。
    先日の話ではありませんが角面がうまく廻せる構造に
    なっていると思いました。
    鏡板の両サイドに白太を配する意匠ですね。私も桜で
    試みたことがあります。
    ガラスも洒落ていてカットグラスのような縁取りが
    控え目ながら良いアクセントになっています。

  • acanthogobius さん、ありがとうございます。
    >上下四隅の柱が一段下がった組み方
    支輪、台輪が前にせり出していることを仰っているものと思われますが、
    これは特段、固有の名称のある仕口、設計ではありません。
    ただの個人的な趣味(爆)
    構造的には、棚口と、支輪、台輪を一体化させたものになりますね。
    以前はそれぞれ別個に配置していたのでしたが、あまりすっきりとしない構造でしたので、このように改修しました。
    支輪、台輪の骨太な部材は柱の位置から4分ほどせり出させることで立体感とボリューム感を見せ、ここに鴨居、敷居の溝を施します。
    (したがってこの溝加工は、他の部材とは基準面が異なってきますので、精度の確保においてやや注意を要することになりますね)
    因みに「舞良戸」とは日本建築の建具に幅広く用いられる意匠で、数多くの細い格子を羽目板に直交させる方向に配置し、薄い羽目板の押さえと、意匠を併せ持たせたものですね。
    ガラスは、業界では「カスミ」と言われる4mmのもので、面取り加工していますので、その部分がアンティークガラス風な歪んだ透明になり、これもおもしろいですね。
    食器棚には良く用いるものです。内部を鮮明に見せないための選択です。

  • この支輪、台輪はオリジナルでしたか、失礼しました。
    知らない言葉が色々出てきて、その度にネットで調べたり
    して勉強になります。

  • いえいえ、オリジナルというほどのものなどでは無いですね。
    ありふれた構造、意匠を強調させただけ。
    >知らない言葉
    できるだけ平明に語るというのが基本ですがね。
    ただやはり、日本は木工文化の歴史はあまりにも長く、その用語という面からも伝えられていることは正しく表記するというのも重要かなと。
    巷にあふれかえる用法の誤りには、鼻白むものがあります。

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