工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

松 ─ 針葉樹の美しさ

松材
以前も記事にしたことだが、断続的に建築解体材を使ったいくつかの家具を製作している。
普段もっぱら広葉樹を活用している感覚とは違い、戸惑いとともにあらためてその美しさを再確認させられてもいる。
松(アカマツ、クロマツ)および一部檜。
使用部位は桁、梁、柱、および天井板。
構造材の桁、梁、柱の古材の方は、そのほとんどは1尺角を大きく越えるボリュームのものだったし、天井板もいわば中杢に近いような良質のものから端節のあるものも含め、1尺2寸ほどの幅のものもあった。
依頼主からは当初構造材の方を見せてもらったのだったが、さほどの材積でもないので、果たして卓以外のものを制作するのは無理だろうな、と算段していたのだったが、実は天井板も私たちで確保したのよ、と倉庫の方に案内され、6分、7分板で20枚近くの松材の天井板を確認することになった。
この天井板があればこそ、框構造のキャビネットを構想できるからありがたい。
水屋、和箪笥、などいくつかのプランを提案し、今回は卓とともに水屋を制作している。
古材は昨年秋に再製材し、シーズニングしてきたものであるが、赤松特有の青変菌に侵されてはいないものの、さすがに60年ほども経過し虫害も多く、木取りに苦労させられている。
工房起ちあげ直後、一時ある家具屋の特注制作を請けていたことがあり、ここでパイン材を用いたカントリー風の家具を制作していたことがあったので、その性質、特性なりは体験済みなれども、やはりあらためて加工工程での特徴的なこととして脂(ヤニ)の扱いには閉口している。
切削機械、切削刃物すべてにヤニがこびり付き、この処理は普段広葉樹を扱っている者としては無視することの出来ない実にやっかいなことである。
単にヤニがこびり付き汚いということに留まらず、機械の摺動性、自動送り込みなどにも少なくない影響を及ぼす。
またこのヤニの問題は接着性にも難をおよぼすだろうから、これもまた慎重でなければならない。
あるいは杉などと較べればましなものの、春目などはどうしても柔らかいので、引き戸など建具を建て付ける場合などには敷居部分にサクラなどの硬質材を埋めるなどで補ってやらなければならない。
しかしアカマツ、クロマツは針葉樹の中にあっては以外に重厚で強度もあり、加工性は悪くないと思われる。(米材のそれらとはかなり違う)
そうした特徴を備えている松だが、最後にやはりその木目の特徴について触れておきたい。
古来より日本ではアカマツ、クロマツが至るところで育てられてきている。
ここ静岡では全国的にも知られた「羽衣伝説」の舞台、三保の松原の老松は有名だが、日本の海岸沿いで松を見ないところが無いほどありふれた樹種。
風雨に晒されてなお耐え、曲がりくねったその姿形は建築材における横材(桁、梁など)として重宝されるが、こうした材を製材すれば力強くうねった杢を醸すだろう。
無論家具材としても有用。
今回の仕事を達成させ、首尾良くいったらば、機会を見て新材のアカマツを入手し力強いキャビネットでも作ってみようか。
今回木取った材の部分を画像にしたが、春材と晩材が見事なコントラストを見せ、とても表情豊かだ。(台輪、支輪部分)
ややヤニっぽいところも処理は大変ではあるものの、建築材ではその力強さから上がり、床板などに喜ばれているし、手頃な太さであれば茶室(草庵)では床柱にさえ珍重される。
まさに日本の風土、日本建築に欠かすことの出来ない樹種の1つと言えるだろう。

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