工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

椅子展と交流会(名古屋丸善)

日本という特異な風土にあっては人の関係性において何事も禁欲的であることを強いられることがごく当たり前のものとして了解されるということがある。
しかしそうした封印を解くことにより実に豊穣な世界を垣間見せてくれることもあるから楽しい。
今日は名古屋丸善での椅子展がらみで終日過ごさせて頂いた。(参照
昨年に引き続き、著名な木工家3人の展示会が開かれていて、今日は「ギャラリートーク」があるということで知人からの誘いもあったりしたので出掛けかけたのだが、出展作家とはもちろんのこと、遠方から駆けつけた木工ファン、銘木店主、木工家などとの交流も図ることができ、有意なウィークエンドの1日だった。
出展作家は
・谷 進一郎  ・高橋三太郎  ・村上冨朗  の3氏
昨年、同時期にも同様な報告をしたような記憶があるが、今年はデニス・ヤング氏が業務繁忙のために出展参加できなかったのが残念ではあった。
またこの「ギャラリートーク」では、木工家の仕事紹介、北海道編に続き最近上梓されたばかりの『木の匠たち―信州の木工家25人の工房から』の著者、西川栄明さんが司会として仕切ってくれていたので、出展作家へのインタビュー形式でより話題も拡がり、優れた物作りのバックボーンの一端を解き明かしてくれるものだった。
展示作品も各々新作を含め、椅子を中心としてそれまでの業績を一同に展覧できる構成であったので、大いに楽しめるものだった。
今回で2回目ということであるが、企画側の丸善名古屋の責任者とお話しさせて頂いても、こうした木工の仕事を広く知ってもらいたい、そのためには一過性のものではなく継続させることで、営業的にも十分成立することができるものとして協力させてもらいたい、勝算は十分にある…と、出展作家が聞けば感動を誘うような抱負を語ってくれたことに示されるように、ボクたちからしても実に恵まれた環境での展示会であることを教えられた。
さて冒頭の禁欲からの解放であるが、昨年もそうであったが、今回も同様にアフターファイブの席でのことに関わる話だ。
今回はこのアフターファイブの席への参加者に大阪の地で活動されている比較的若い木工家の面々が加わったことで封印が切られることになったのだった。
必要とあらばその席での会話録音をPodcastで公開すれば判然とするのだろうけど、勝手にそれは出来まい。
ここで明かすことの出来る制約下でいくつか触れることも、ボクたち木工家が共通に抱える現状への問題意識を共有化する意味で有用かも知れず、またこのようなBlogの意味もあるのだろう。
さて、禁欲であるが、ギャラリートークにおける質疑応答のコーナーで質問した若い木工家の一言に関わってくる。曰く「西川さんのご本で多くの木工家が紹介されているけれど、皆さん、食えているのでしょうか?」まぁ野暮な質問ではあろうけれど、しかし若手木工家からすれば、実に切実で真剣な問いであったのだろう。取材者西川さんの答は当たり障りのいないところで、取材対象への敬意を表したのであったが、一方出展作家A氏はあっけらからんと「何もバックが無いような若い木工家が食えるわけない」「多くの若手が訪ねてきて交流もするけれど、お互いプロとしての立場であれば、相手を潰す、という意識が無いと言えばウソになるだろう」。
ある種の箴言と言えるかも知れないが、基本のところでプロの世界の厳しさを言い当てたものだった。
さらに禁欲を解いたのは会場を変えて会食の席だったことは言うまでもない。
様々な出自を持ち、活動地域、活動領域も異なる木工家が集まればこれまでの近代木工界40年ほどの業績と裏話に花が咲き、また若手木工家の疑念に応え、あるいは封じ、木工という生業の困難性の裏に実は豊かな人生模様があることを教えられもしたのだった。
またこれはこのBlogで書き連ねている「職業としての家具作りについて」にも関わることだが、口火を切ってくれた若手木工家も期待以上に深読みしてくれているようで、そこで記述していることと、出展作家をも含めた参加者の生き様がどのようにクロスして、あるいはまたどのような展望があるのかを厳しく問われるものでもあり、ただ楽しく歓談するだけでは済まされない責任を自ら晒していることにあらためて思い知らされもしたのだった。
しかしね、日本の風土であるかはともかくも、ボク達の生業は所詮自律、自立した木工家であったはじめて対等な関係性を結べるのであって、そこには若者であるか、キャリアを積んだ老木工家であるかは関係なく、基本においては禁欲的であるのだろうね。そして時には饒舌に語る中に禁欲を解いた、本質のかけらがあったりするのかもしれない。そこを斟酌し、つかみ取ることが出来れば次の世代へと系譜を伝えていくことも可能となるのではないのだろうか。
何か、飲み過ぎてはちゃめちゃな物言いになってしまったが、まだまだやらなければならないことはあるだろうし、語らねばならないことも多いのだろう。老成してしまうにはまだまだ惜しい水無月の名古屋だった。
出展者の方々にはご迷惑お掛けしました。
また遠方から駆けつけてくれ、楽しませてくれた方々にも感謝、です。

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  • さすがに早速、記事にされていらっしゃいますね。
    工房家具界の近代史に関わる方々を一堂にし、感慨深く、舞い上がり気味で、少し失礼が過ぎたかと反省しかりです。
    野暮で直球的すぎる投げ掛けにも真摯に、その豊富な経験、知識を持ってお応えくださり、本当に感謝しております。
    杉山さんの場合、メールよりも、こちらへコメントでお礼を述べさせていただくほうが、ブロク的(ブログ的というのもいまいち意味不明ですが……。)かと思いましたので……。
    また、昨日の感動を十分に伝えきれませんので、参照リンクさせていただくことをお許しください。
    ここにコメントしてしまいますと、野暮で不躾な比較的(比較的ですね。笑)若い大阪の木工家の面々というのがバレバレですが……。(これも一種の自己顕示欲なのでしょうか。)

  • 世の中には色々な性格の人がいるし、それまでの人生で厳しい経験をしてきた人もいるだろうから、人の考え方に単純な批判をするのは不適切かも知れません。しかし、まがりなりにも一流ということで招かれている作家が、公衆の面前で「相手を潰すのはプロとして当たり前」などという発言をするのは、いささか驚きであり、また失望しますね。artisanさんは禁欲的という言い方をされていますが、私は高潔な精神というものが、職業人だからこそ大切なものだと思います。

  • KAKUさん お疲れさまでした。
    >「野暮で直球的すぎる…」は若者の特権でもあるでしょう。
    otake.oさん 少し付言しますね。
    >「相手を潰すのはプロとして当たり前」
    の部分は本文でもいささか配慮に欠いた物言いだったかもしれません。誤解を招いてしまいますね。
    ギャラリートークに参加した人であればその真意も伝わっているものと考えています。
    キャリアの作家が若者に対し(禁欲的に)差し障りのないソフトな対応をすることは関係性のほんわかさを形成するものですが、一方そうした対応が若者の自律した木工家への熟成を阻害する側面が無いとは言えない。そこを突く発言であったことは明瞭です。
    若者はそうした練達の先人からの押さえ込みを乗り越える意欲と才能が無ければホンモノではないと云うことなのでしょうね。
    otake.oさんの「高潔な精神というものが、職業人だからこそ大切」という考え方は至極真っ当な正論です。しかし必ずしも上のような対応がこれに全的に反するものではないとも言えるのでは。
    方法論と、関係性における倫理の表現の差異と云えば分かりやすいでしょうか。(余計分かりにくいって?、それはボクの文章力の問題 苦笑)

  • なるほど、そう言われて分かりました。甘言や美辞麗句だけで接するのは、却って誠意に欠ける行為ともなりえますからね。私も先達から厳しく言われた事の方が印象に残っています。
    私は、この道を目指す若者に接する場合、全てをありのままに伝えるようにしています。最終的に生き方を決めるのは当人ですから、ネガティブにもポジティブにも、作為的なことを言うのは慎むようにしています。ただ、夢を持って人生を歩むということは大切だと考えていますので、励ますような接し方を心がけています。

  • otakeさんの誠実さがにじむコメントです。
    つまりは人それぞれの「作風の差異」(この場合作品のことではなく、表現方法、関係性の取り方、といった意味での)として見れば良いのでしょう。

  • 大阪から大勢で名古屋に乗り込んでお騒がせいたしました。
    また、いろいろとご配慮いただきありがとうございました。久しぶりに杉山さんにお会いできたうれしさと、いつもながらのアクティブさには脱帽。またこんな機会がいろいろな場所で持てれば木工界も活気づきますかね。関西にもまた足をお運び下さい。今後ともよろしくお願いいたします。
    やっぱり大阪の若者、声が大きかったですか?(失礼)

  • >やっぱり大阪の若者、声が大きかったですか?
    そうそう、それは君のことね!!(こんなところにまでいつもの空気を持ち込むなって。……笑)

  • なぜか突然、名古屋

    丸善 名古屋栄店で、「CHAIRS 家具作家の仕事 2006」という、高橋三太郎…

  • J qualiaさん コメントありがとうございます。
    >また、いろいろとご配慮
    何もしとらんけど ?? スナップのことかな。カメラはボクのですが、シャッターは皆別の人だった。現像はしましたね(ウソです。デジタルレタッチしただけ)。
    ○さんの声の大きさは明瞭な自己主張の反映。忌むような事ではなく好ましいキャラ。呑みっぷりでもキャリア40年の職人に負けてませんでした。
    IKEAも横浜に続き、大阪展開も近いことでしょうから、きばっていってや。

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