工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども ・・・

手押し鉋
立秋だそうだ。
午前中は静岡県工業技術研究所(旧工業試験場)の木工室の機械を借りに出た。
作業を終え東名高速道上から南の空を仰げば、高い空に鰯雲が広がっていた。
一方北の空を見れば大きな入道雲がもくもくとせめぎ合っている。
今日も30度を超える猛暑。秋の兆しもちらほら伺える季節になったとはいえ、まだまだ厳しい暑さが続く。
県の機関の機械を借りることは決して多くはない。
せいぜい年に1度ほどか。
借りる機械は手押し鉋盤、帯ノコの2機種ぐらい。
今回は2.4m、60cmのブラックウォールナットを数枚。
テーブルの甲板用。
うちの手押し鉋盤は305mmの仕様。県の木工室のものは同じ大洋のものだが400mmの幅を持ち、この差異100mm増大の効用を評価してのもの。
無論幅が広ければ定盤の長さも大きく、長尺ものの切削にはより有効。

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河野澄子さんの訃報に接し

日本社会を覆う閉塞感、人々の関係性における劣化がもたらす犯罪なども含む様々な社会事象は時に心を暗くする。
このネット上でもある種のキーワードで検索すればおぞましいほどの悪意に満ちた言説空間が広がっている。
かつて未来への夢と希望の根拠であった民主主義もメッキが剥げ落ち無惨な姿を晒しているかのよう。
こうした先の見えない闇の中にあって、ボクにとっては一点希望の灯りを指し示してくれている人がいる。
オウム真理教による松本サリン事件の被害者であり、同時に冤罪被害者でもあった河野義行さんのことだ。
この河野義行さんの妻・澄子さんが5日未明に亡くなられた。
事件発生から14年間、サリンによる後遺症により意識がほとんど戻らない中、愛する家族に見守られての闘病生活の末の死去。(毎日jp
心より哀悼の意を表したいと思う。
本当にお疲れさまでした。あなたの苦闘とその生命力が、河野家の支えであったことでしょう。

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北京五輪の憂鬱

「同一个世界 同一个梦想 One World, One Dream」
これは3日後に開催されようとしている北京五輪のスローガン。
邦訳すれば、「ひとつの世界、ひとつの夢」という。
公式サイトの冒頭に誇らしげに謳われている。
言うなれば、IOC(国際オリンピック委員会)により制定されている近代オリンピックの「オリンピック憲章」(PDFにて提供)の精神の骨格ををスローガンとしたものと見ることができる。
昨日の新疆ウイグル自治区カシュガルにおけるウイグル人組織のものと思われるテロ事件に関する取材を試みようとした日本の新聞、放送記者への暴力的な妨害行為(例えばこちら)は、果たしてこのスローガンを体現するにふさわしいものであったのだろうか。
中国の東の端に位置する北京から遠く隔たる国境近い最北西端の古都カシュガルでの出来事が、果たして五輪と関係あるの?という疑念は残念だが当たらないようだ。
先のチベット自治区における騒乱は記憶に新しいが、その時にも次は新疆ウイグル自治区か、とも言われていたように、分離独立を巡る民族解放運動は中国当局との厳しい対立関係にあったところへ、このところの五輪開催を控えた過度な緊張の中、ウイグル人と見れば片っ端からテロリスト扱いをされ拘束されるという強硬路線が取られていたようだ。
4日の武装警察への襲撃はこうした背景から生み出されたと見ることができるだろう。
この事件が五輪開催を直前に控えた時期に起きただけに、世界のメディアが注目するのは当然。日本のメディアもスワッとばかりに、ほとんど封鎖に近いような新疆ウイグル自治区・カシュガルへと困難なルートを開拓して向かったに違いなく、さてこれから取材だ、と言う間際にカメラ、ケータイを没収され、羽交い締めされ、挙げ句の果て頭を蹴とばされるという扱い。
これが「ひとつの世界、ひとつの夢」の実相と見てしまうのは果たして不当なもの?。

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木取りで決まる(木理を読む)── 番外

2回にわたって「木理を読む」ということで木取りの際に留意した方が良いと考えられることについて記述してきたが、今回は木取りから一歩進んで、その部材に鉋を掛ける、あるいは面取りをする、といった切削加工、仕上げ加工の際に求められる順目、逆目の判断に関わる解説を試みたい。
言うまでもなく順目、逆目についての判断というのは鉋掛け、あるいは面取りカッター(ルーター、トリマーを含む)などでの切削工程において必須の事柄に類する。
したがってこの順目、逆目の判断というものは、木工専門の教育プログラムにおいても初期段階でのカリキュラムに属することだろうし、手始めに鉋の練習をする際にも最初に意識せざるを得ない事だ。
そのような基本のキということであればここであらためて問題にする程のものでもないと思われるが、しかしその認識の実態というものは、かなり曖昧であることが少なくない。
これは自然有機物としての木材の木理の読み方というものが、複雑多岐にわたることでの困難に起因することで、判断を放棄してしまっている、ということがあるのかもしれないし、あるいは自然科学に基づく合理的な判断に類する事であるにもかかわらず、曖昧で、ファジーな概念に類するものとして、正しく指導されていないことによるのかも知れない。
またこれらは経験的に徐々に認識が深まる事でもあるので(ボク自身がそうであったように)、単なる未熟であることによる認識の浅さとみることもできよう。

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クラロウォールナットへ

CLARO
ブラックウォールナットとの付き合いは長い。
17年前CLARO WALNUT(クラロウォールナット)の原木に出逢い、これを製材して以降は、いよいよその魅力に取り憑かれている。
近くまたこのCLARO WALNUTの仕事をすることになったが、これまでにも増して最大にして最高の板になりそう。
その独特の質感は、手鉋を板面に当てるだけで伝わってくる。
過度の堅さはなく中庸な比重だがとても緻密な木理を持つ。
粘り着くようなその肌は、木理の複雑さと、縞状に表れる多様な色調とともに、この加工に携わる誉れある職人を魅了する。
末口、右はじの色調が変化するところに、クラロウォールナット固有の接ぎ木の痕跡を留める。

八月

今日から葉月・8月。
ここ数日天候不順で、突然の豪雨に見舞われたりと不安定だが、その分凌ぎやすい。
しかし甲子園で明日から始まる高校球児たちの熱戦が繰りひろげられるこの時季が最も暑い。
さらに今年の8月はこれに北京五輪開催が重なる。ヒートアップも極限的だ。
北京五輪は世界のアスリートたちの競演とあって見逃せない競技も多いので楽しみである一方、チベット問題をはじめ中国国内における少数民族、人権などの無視できない問題が五輪開催でより矛盾を激化しかねない状況にあり、こちらも注視していかねばならないし、日本チームの編成においても女子柔道などの国内選考会における疑惑など、アマチュアリズム、五輪精神とはかけ離れた実態を見せつけられ、開催前にして早くも白けてしまっているというのも困ったものだと思っている。
なお、8月は鎮魂の月でもある。1945年8月の十五年戦争の敗戦(“終戦”などと呼び習わし、実態をはぐらかすのは如何なものか)から63年目の夏だ。
63年という決して短くない時間の経過からすれば、単なるメモリアルとしてのものであっても良いのだろうが、残念ながら今もなおホットな問題として事あるごとに浮上することも確か。
これは同じ敗戦国であるドイツを巡る周辺国の関係などと比較した場合、突出して特異な状況を呈しているようだ。
そうであれば、やはり戦後を生きてきたボクたちもこれに真摯に立ち向かうことで、問題を背負っていかねばと思う。
より良き未来社会を語るためにも過去に学び、人々の思いを引き継いでいくことからはじめたい。
ちょっとNHKサイトから拾った夏の特集番組を残しておこう。
特集ドラマ「帽子」
  8月2日(土)総合 午後9:00〜10:30
 脚本:池端俊策(広島県呉市出身のフリーの脚本家。今村昌平の脚本助手からスタートして、多くの話題のドラマ、映画の脚本を書く)
■ BS世界のドキュメンタリー
○8月4日(月) 少年の内面(カナダ:「アスペルガー症候群」の少年とその家族の苦悩と葛藤)
○8月5日(火) ネット時代の危うい10代(アメリカ)
○8月6日(水) 人は僕を天才という(英国)
■ NHKスペシャル
見過ごされた放射線〜原爆症63年目の真実〜
8月6日(水)総合 午後8:00〜8:50
■NHKスペシャル
封印されたNAGASAKI
〜原爆を伝え続けるアメリカ人親子〜

 あの「焼き場に立つ少年」を撮ったアメリカ人カメラマンのジョー・オダネルを追う
 8月7日(木)総合 午後8:00〜8:50
■ NHKスペシャル
 証言記録 レイテ決戦 “勝者なき”戦場
 8月15日(金)総合 午後10:30〜11:30

木取りで決まる(木理を読む)── その2

帯ノコ切削
旋盤、ルーターなどで切削加工をしている時、切り取られつつあるその切削面の木理が大きく変わっていくのを感動的に見てしまうことは多くの木工職人が経験するところだ。
木に内在する木理と表情というものはその切削のあり方で様々に表れ、ボクたちを楽しませてくれ、単一ではない木の唯一無二の固有の力というものを感じさせてくれる。
さてところで円弧状の部材を木取るということは比較的頻繁に行われる。
その最たる事例は椅子の笠木、帯といった部材だろう。
例えば上下の画像は椅子の部材・帯である。
(1,200rの円弧状:Topは帯ノコ切削、Belowはルーター仕上げ切削、いずれも手前が辺材)
これを木取るときにどのような板から、どのような方向で刃を入れるのかは当然にも考慮の対象になる。
この円弧状の部材を木取るに当たって、辺材方向から心材へ向けてRにするのか、あるいはその逆にするのか、
結果、どうなるかと言えば、板面に現れる木理、木目は全く逆になる。

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木取りで決まる(木理を読む)── その1

家具制作加工の最初の工程、製材され乾燥された一定の厚みの板を目的とする部材の寸法に挽き割ることをボクは「木取り」と呼称している。
地域によっては、あるいは業種によってはその呼び方も一様ではないようだ。
「板取り」とか「木つくり」とか、様々に呼び習わされているようだ。
ここではこれまで同様「木取り」として話しを進める。
さて、まず1つの事例を挙げてみよう。
昨日取り上げたソファの背のクッションは背部の木部の枠が支えてくれている。
このページにある2Pのものの場合、外枠の上下は柾目、縦は板目の木取りとなっている。
この部位における木取りの考え方としては、必ずしも定まった考え方があるとは言えないかもしれない。
構造的な要請、美的な基準などから個別具体的に決めれば良い。
ボクの趣味では外枠全てを柾目でいきたいところだが、種々の状況から縦框は板目にした。
さて、今日問題にしたいのは、枠の内側の格子部分の木取りの方だ。

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ソファと卓

ソファ&センターテーブル
先に「顧客から教えられること」として取り上げた家具について少し書いておこう。
既にWebサイト「木工家具の工房 悠」のGalleryに納めてある「ソファ 悠 3P」とほぼ同じデザインのもの。
背部クッションの高さを置かれる部屋の腰板の高さ(窓枠下)に合わせ、やや低くしたものとなった。
こうした設計変更というのも、ボクたちの受注制作システムならではの自由さだ。
カスタマーの住宅は在来軸組工法で建てられ、外壁も含め天然木がふんだんに使われた豪壮なもの。
納品翌日、立ち会えなかったご主人から「何か、以前からそこにあったかのような親しみの強いソファですね。想像以上に作りもデザインも気に入りましたよ、ありがとう‥‥」と、過分なお褒めの電話が入る。
実はこの「以前からそこにあったかのような」という形容は、納品時にボクたちも含め、立ち会ってくれた夫人、ギャラリー オーナー共通の思いでもあった。
これは無論、事前に納まる部屋を確認させていただき、デザイン、寸法などを調整させたことも部屋へのフィッティングに寄与していることは確かだが、やはりそれ以上に、堅実な住宅設計、本格的な工法での住まい作りと、ボクの家具つくりへの志向と制作における品質がうまく響き合い、奏でることができたと言い換えることもできるだろう。
これが5年、10年、30年と経過し、それぞれどのような変容を示すのかも興味深い。

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少年の夏

猛暑日が続き、うだるような暑さも午後には大気の状態が不安定となり突然の雷鳴と驟雨によって断たれた。
各地から突風被害なども報告されているが、ボクは工房の窓から見える雷光を見上げながら、少年時代の夏休みの同じような気象条件をふと思い出していた。
小学生低学年の頃、山あいの小さな部落に住んでいたのだが、夏休みだったのだろう、家族、友達などと一緒に付近の川に泳ぎに行った帰路、突然の叢雨に打たれ、ドブネズミのような姿で皆でわぁ〜っと騒ぎながら駆けっこして帰ったシーン。
もう50年以上も昔のこと。何故こんなことを思い出すのか分からないが、長い長い夏休みをたっぷりと遊ぶことのできたあの頃への郷愁がそうさせるのだろうか。

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