工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

木取りで決まる(木理を読む)── その1

家具制作加工の最初の工程、製材され乾燥された一定の厚みの板を目的とする部材の寸法に挽き割ることをボクは「木取り」と呼称している。
地域によっては、あるいは業種によってはその呼び方も一様ではないようだ。
「板取り」とか「木つくり」とか、様々に呼び習わされているようだ。
ここではこれまで同様「木取り」として話しを進める。
さて、まず1つの事例を挙げてみよう。
昨日取り上げたソファの背のクッションは背部の木部の枠が支えてくれている。
このページにある2Pのものの場合、外枠の上下は柾目、縦は板目の木取りとなっている。
この部位における木取りの考え方としては、必ずしも定まった考え方があるとは言えないかもしれない。
構造的な要請、美的な基準などから個別具体的に決めれば良い。
ボクの趣味では外枠全てを柾目でいきたいところだが、種々の状況から縦框は板目にした。
さて、今日問題にしたいのは、枠の内側の格子部分の木取りの方だ。


結論的に言えばこれは全て柾目取りにしてある(画像でも見て取れると思う)。
何故かと言えば、これだけの本数を高密度で並べるとなると、板目ではうるさくて仕方がないだろう。
こうしたところはあくまでも柾目の木取りで並べることで、端正な美しさと、統一感を醸すことができるもの。
諸般の事情から柾目で揃えられない場合でも、柾目を両外側に、板目は中央にという配置によって自然さを装うことが求められるだろう。
ボクたちのワークショップスタイル、アトリエスタイル、工房家具スタイル、何でも良いが、丁寧なものつくりを志向するのであれば、そうした配慮、見せ方というものがとても大切な要素となっていることを忘れたくない。
因みにこの格子の板の断面サイズは24×42mm。
格子として必要にして十分なサイズである。
さて、ここではこの木取りをどのよう方法で行ったのかということを問題にしてみたい。
キャリアの方々は既にお見通し、あるいは初心者でも勘の良い人には容易に想像できるだろう。
42mm 〜 厚みの板面の幅広の材木から、24mm+歩留まり分の厚みで小割りにしていった。
その結果、見付には柾目で近似の細胞配列を有した同一表情の格子が、かなりの数量で獲得できる。
逆にこれを無視して、30mm厚ほどの材料から、幅方向に42mmを取っていくならば、柾目、板目がごちゃごちゃで、しかも長さ方向で木目が異なる板から取らねば数量を確保できないということになってしまう。
このように木取りとは、所与の条件の下にあっても目的に応じた配慮が常に求められていることを考えていきたい。
他の何物でもない、樹木という自然有機物を対象とするものつくりである以上、その内部に隠された表情というものを予測、読み込み、これを生かした部材作りを心掛けたい。
かつて、J・クレノフのセミナーに参加してのこと、いくつかの主要なテーマの中にあって、この木取りの重要性に関するレクチャーはとても印象的なものだった。
精神性豊かなジムの木工とは、そうした木への誠実で敬虔な向かい方から始まっているということを考えさせられたものだ。
確かに仕様を満たす断面を持つ木取りが出来れば、まずは構造的な要請には応えられていると言って良いかも知れない。
でもそれは木というマテリアルでなくとも代替できるものに堕してしまう。
木という素材を選択するのであれば、それが有する複雑多岐な表情というものを、与えられた条件の下、十分に引きだしてやるというのが、ボクたち木工家の使命と言っても決して不当というそしりを受けるものではないだろう。
もう少し踏み込んで言えば、優れた家具のデザイナーにあっても、こうした木の表情のディテールまで生かしたデザインをすることは少ないものだ。
木はあくまでも素材としての固有のものではあっても、そこにある部位、方向によって異なる表情まで考えるということは彼らにとって埒外なものでしかない。
あるのかどうかは知らないが、木工家の優位性というものを考える場合、こうした木取りによる品質の向上というものは、欠かすことのできない要素の1つであることは間違いないようだ。
次回は別の事例からさらに考えてみたい。

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